23◆旅立ち◆
長いような、刹那のような。
変な夢を見ていたような気がするが、目覚めて直ぐに見えたのがマーティングの顔とはどういう事だ。
その後、帝都に戻ってやるべき事をした。
陛下と王妃様、立太子なされた第一王子殿下がこれからこの帝国を変えてゆくと三人揃っての宣誓宣言をされた。
その夜の王宮でのパーティーの席で、改めて私とマーティングの婚約解消についての大々的な発表会が行われた。
陛下が包み隠さずに御自ら全ての事情を語られ、この婚約解消により円満に主神が天界へと上がられた事を力説しておられた。
「婚約は解消されても、相変わらず仲が宜しいようで何よりだね」
王太子殿下に言われて、ハッと気づいたが長年の慣習で普通にヤツにエスコートされていた。何たる失態!!
飛び退くように離れた私の背後に兄が控えており、無言でエスコートするかのように付き添ってくれた。
マーティングの方はご令嬢方の熱い視線が集中しているので、この先はその中から新たな婚約者を探して頂きたい。
すっかり他人事だし、爽やかな気分でマーティング達を見守る。大嫌いではあるが、婚約解消の為にヤツが宣誓宣言してくれたお陰でこの結末に至ったと思えばほんの僅かなら感謝してやらんこともないのだ。
「レイベーニア嬢、わた、俺と一曲踊っていたた…いただけますでしょうか?」
カチコチになった青年に誘われた。え、やだ、こんなの初めてで私まで緊張しちゃうじゃないか!!
兄が無表情のまま、そっと私の背を押す。
私、頬が赤くなってないだろうか?そういえば、化粧も直してないし髪は解れてないか気になる。でも、目の前の殿方を待たせる訳にもいかないし…えぇい、女は度胸だ!
「はい、よろこんで」
差し出された腕に『ゆるさーーーーん!!』アホが邪魔しに来やがった。霆よ、コイツの上に今こそ落ちろ。
「婚約は破棄したが、レイベーニアは私の未来の妻!それを承「殿下と婚姻はあり得ませんので、あちらのご令嬢方のもとへお戻りください」」
最後まで言わせてたまるか、ふざけんな。
ああああ!?マーティングの野郎のせいで青年がスゴスゴと引っ込んでしまったではないか!!畜生!
「フッ、ざまぁないなレーベ。さぁ、俺と踊ってくれ」
この状況でよくも言えるな、貴様。ムカついたので兄を強引にあてがって踊り始めた所へと押し込んでやった。ざまぁ。
兄には悪い気がしたのだが、野郎二人のダンスに黄色い悲鳴が飛び交うっているのでもう止められそうにない。
…無表情で女のステップを完璧に踏む兄が怖い。
マーティングより頭一つ分背が高く、無表情だがそれなりに美形の兄。体躯も引き締まっており、容姿は良いと思う。
その兄をリードするマーティングは相変わらず無駄に綺麗な顔をして余裕綽々な様子で非常に腹立たしい事に時折こちらに流し目を寄越しやがる。
不愉快なので見るのを止めて立食スペースへ避難した。ご飯が美味しいのはこの帝国の美点である。
殺気を感じて横歩きのまま逃走をはかったが、兄にドスのきいた声で「可愛い妹よ、そろそろお暇しようではないか」と怨念を背中に貼り付けられたので観念する。
今夜が私の命日になっては困るので、先手必勝で兄に身代わりのお礼を言っておいた。
帰宅後、すっかり腑抜けた父にこれまでの事で謝罪を受けた。そして、今後私が国内外で好きなように生きれるように、出来る限りの援助をすると言われた。
私の方からも不出来な娘で申し訳ない、この婚約については破棄できて清々している…等々様々語った。
そして、私は当面は隣国へ遊学へ出たいとお願いした。
ばぁやはようございますね、私もついて行きます!とノリノリだったのだが、ガチムチ筋肉国へ行くと分かると『15年前のギックリ腰が疼くので…』と言って逃げた。
平和で温泉のある隣国へ行きたかったのね、ばぁや。
申請や仕度で待ちが長いかと予測していたが、王妃様が『誠意を見せる時ですわねぇ』とせっついたそうで、一週間後には盛大に見送りの儀まで開催されての送り出しとなった。
「女性の社会的台頭の先駆けにして、主神の加護を受けし巫女の子孫、レイベーニア嬢の幸運を願い、此処に見送りの儀を執り行う事を接げる」
どさくさに紛れて色々とぶっこんできましたね、王太子殿下。別に構いませんけど。
それより、マーティングのその晴れやかな笑顔がキモイ。




