22◆□◆太古の約束 ◆□◆
泣き叫ぶ赤子達と振り上げられて棍棒。半狂乱の女が棍棒を振りかざす男の足に縋りついて泣き叫んでいる。
すんでのところで、男を止めに入るモノがいた。
【その娘達は我の巫女にせよ】
遥か高みより降るモノの言葉に男は棍棒を投げ捨て、ひれ伏した。
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幼子達が石組みの祭壇と思しき物の前のむき出しの地面でハイハイをしている。
一人は右に紫、左に橙の瞳の活発な女の子。
一人は左に橙、右に紫の瞳の内気な女の子。
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子供達は祭壇に花を捧げ、歌詞のない歌を歌って奔放に舞い跳ねているのを周りの大人は笑顔で見つめている。
それを少し離れた場所から睨みつける者がいた。
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少女達の悲鳴が迸るとともに、祭壇は壊された。石造りの槍や斧を片手に蛮行に走る若い男達。家に火を放ち、田畑を荒らしては人々を追い立てている。
逃げ惑う少女達を追い詰め、その身に纏う布を引き裂こうとした男の上に霆が落ちた。
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気まぐれに助けようと声をかけたのが始まりで、それまでただの『わたし』だったはずがいつしか『私』になった。
脆弱なる人間の純粋な感謝は私を『神』へとかえた。
光と闇を司り、神格をあげたばかりの私は《禁忌》を犯してしまった。自ら巫女と定めた愛し子達を守らんとして、異なる神の守る民を殺めてしまった。
狩りと豊穣の女神の怒りに触れた私は、愛し子達とともに放浪の旅へと出る。
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過酷な旅路の中でも、少女達は笑顔で歌う。
手先の器用な者が神への慰めにと小さな琴のような物を作り奏でると、柔らかな音が響いた。
【ああ、素晴らしい】
久方振りの神の声に、疲弊していた人々は感涙を零す。
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少女達は女性へと育っているが、旅はまだ続いている。
肌の色の異なる人々が増えていたり、女性達の両親の姿が見えなくなっているなかで女性達は常に寄り添っている。
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愛し子達の旅も終わった。此処には外の神はいない。
それだけに、不毛な土地しかないのだが。この土地に根を下ろして生きてゆけるように見守ってやらなければ。
旅路の中で巫女達と歩むと決めた者達の抱える幼き神々とともに、この地に安住できるようにと願う。
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双子達の腹が大きくなっている。幸福そうな顔とは裏腹に、手足は枯れ木のように細くなっている。
【………我の眷属となるか、愛し子達よ】
神に命を救われるのはこれで二度目となった。
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眷属となるほどの加護と引き換えに、巫女達の魂は緩やかに変化してゆく。巫女達は己の孫達が老衰の果てに天寿を全うするのを看取った。
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巫女達の嘆きも喜びも聞こえる中で、懐かしい音を聞いた。かつての長い旅路で聞いた音によく似ている。
【ああ、懐かしく素晴らしい音が聞こえる】
思わず漏らした呟きに、巫女達が祈りの言葉を捧げる。
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巫女達の魂は完全に変化を遂げて、肉体を離れようとしている。その間際にも、巫女達は寄り添っていた。
「「願わくば……」」
最期の望みを子孫たちは必ず叶えると誓う。
神も長きに渡り己に祈りを捧げた巫女達の願いを聞き、またその子孫達の巫女達を喪った深い悲しみを励ました。
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微睡みから目覚めてぼーっとしていたら、元巫女達が傍らで騒がしい。
巫女達の子孫は国王となり、その盾となっていた。
祝福しようと思ったが、私の声が聞こえる者は居ないようだった。
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転寝から覚めたら、元巫女達はまだ寝こけていた。
巫女達の子孫は帝国を築いており、面白さから観察していて妙なしきたりをしているなとは思った。
文字があるなら書いて残せば良いのに、この元巫女達の子孫は相変わらず変わった事を後生大事に守っている。その割に私の名が変わっていても気にしていないのは微妙だが。
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うとうとしていたら、元巫女達が騒がしい。どうしたのかと子孫達を眺めていたら巫女達がうなだれている。
…………どうしてこうなっているのか。
人の世の事に関わるには我等の神格も神力も上がり過ぎてしまっている。寧ろ、そろそろ撤退せねば人の世の理をねじ曲げ過ぎていて危険なほどでもある。
巫女達も撤退すべきと結論を出した時、あの懐かしい音色が哀愁を纏って響いた。
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巫女達の子孫の娘の声が聞こえるようになった。私の声は届かぬようだが、盾琴の音に耳を傾けた事でか細い縁が生まれたようだ。
……元巫女の一人とよく似ている気がする。
もう一人の子孫の方も残念な所と優秀な所が同居する点が元巫女の一人とよく似ている。
そちらが何やら宣誓宣言をしてきたので、元巫女達が『渡りに船』と騒ぐ。元巫女達を介在にして子孫達の居る場へと届くようにして言葉をおろした。
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子孫達の変な誤解も解けた事だし、天へ上がろうと思っていたが、最後に愛し子達の子孫達が築いた帝国を一巡りしていた。
……懐かしい音色が二度、聞こえた。
愛し子達に良く似ている二人を見て、思わず昔を思い出してしまった。




