21◆◆盾 琴◆◆
物凄く果てしなく、倦怠感があるものの。とにかくまぁ、私の婚約破棄は成就したのだ。取っ掛かりが親の勘違いとは情けないが、何ともまぁ壮大なスケールの話に展開したものだ。
「神様のお声が無かったら、私とマーティングはどうなっていたことやら」
呟くけれど、返事は無い。それもそのはず、私は現在一人。
ここは帝国国境の古い神殿跡地、供の護衛やばぁやは少し離れた場所で待機している。だがら、私の呟きはただの独り言でしかない。
ぱらん、ぽろん、ぽろん
去ってしまった神様宛てに感謝の気持ちを託して盾琴を爪弾き、祈りの言葉を捧げる。
この帝国の神殿による洗脳的な教育には疑念と嫌悪を感じるけれど、神様が嫌いになった訳ではない。だから、こうして去って行った神様を見送りせねばと素直に思えたのだし。
帝都やその近隣の主神を祀る神殿は大騒ぎになっているし、不安に駆られて主神以外を祀る神殿へと民衆が祈りを捧げに殺到している。そんな中、此処を思い出したのはばぁやだった。
壁は崩れて蔦が絡み、柱は折れて鳥の巣や獣の塒になっている。金目の物は見当たらず、主神の姿を彫った像は無残な事になっている。廃墟、そのもの。
ぱららん、ばらん、ぼろん、ぼろん
不意に応えるような音色に眉をしかめる。神様のお返事?なんてメルヘンな事があってたまるか。
警護が居るのに制する声も無かったんだから、どうせヤツだろう。ご○ぶり並みにどこにでも出没しやがる。
「振り向きもしないとは、そなたらしいな」
「祈りの邪魔をするような輩の顔なぞ見る気にもならん」
祈りの邪魔をしたことを素直に詫びてマーティングが隣に座る。やはり、その片手には盾琴があった。
手ぶらで隣に座るなら追い払いようもあるが、神殿に盾琴持参とあれば真摯に祈る気はあるようだ。
「…これまでの感謝と、この先の国の発展に尽力する誓いを立てて、そなたのこの先の幸福を願って祈りを捧げるつもりでこれを持ってきたのだが。此処で火を焚くのは無粋であろうな」
奉納は盾琴をそのまま神殿に贈るが、捧げる時は祈りの言葉とともに焚かれた火へと投げ入れる。だが、コイツの言う通り、此処で火を使うのは私も断念したところだ。
人は居なくとも、虫や鳥や動物達が棲んでいるのだ。
火を焚いて彼らを無闇に脅かしては可哀想だし、そんな事をしてまで捧げなくても祈りは祈りだ。きっと神様も気にしないだろう。
私の盾琴は主神の像の足元右、マーケティングの盾琴は左へと置いて祈りの言葉を口にする。
床に膝をついて深く拝礼して、後退りしてから立ち上がろうとしたその刹那に盾琴の弦が弾けた。
驚いてバランスを崩した私をマーティングが抱き寄せようと手を伸ばしてきた時に視界が暗転した。
〖愛しくて可哀想な私達の子孫よ、運命は貴方達の物〗
〖愚かで賢い私達の子孫よ、盾琴の音を有り難う〗
不思議な声が暗闇に聞こえて、眩く暖かい光が差す方へと意識が引っ張られてゆく。




