2◆水色のドレスはもう着ない!
私の目が覚めたのは、10歳の誕生日。婚約者たるマーティング殿下を招いた我が家では盛大なお祝いをした。
当時の私はまだ我が家の悪い魔法…洗脳という『婚約者教育』に爪先から旋毛までどっぷり浸かりきっていた。
だから、精一杯におめかししていた。
名目上は私の誕生日だし第二王子殿下の婚約者なので来客は当然、私を褒める。
とにかく褒めて褒めて褒め千切り褒め殺す…甘い汁の予約しておこう!的な下心あれども悪意があった訳では無いのだと思うけど。
しかし、残念な私はそれを真っ正面から受け止めてデレデレとアホのように喜んでいたのだ。
「何をだらしない顔をしている?世辞を本気にしているのか?」
マーティングが私に耳打ちするまでは。
「しかしお前、もう少しマトモな格好は出来なかったのか?一応とはいえ俺の婚約者ならばせめて似合う格好ぐらいまでは努力したらどうだ」
ふぅ、と溜息を残してマーティングは私の傍から離れて行った。国の古来のしきたりで婚約者であれども王族の傍に王族以外の者は10歳になるまでは近寄れない。
なので、初めての至近距離の会話がコレ。
頭が真っ白になった私はその後ずっと固まっていたが、周りは『殿下からお言葉を頂いて緊張しているのだろう』などとどこまでも都合良く解釈していたようだった。
誕生日会のあと、色々と悟ってさめざめと泣いた私を『殿下と初めて会話を交わして感極まっているのだろう、そっとしておこう』と放置した家人はその後の私の豹変ぶりに慌てていた。
あの日の装いは苦い記憶として私の中に残る。
水色をメインにして白いレースを配したドレスに、装飾品は髪を真珠で飾り、耳にも小さな真珠の耳飾り。お子様なのでそれ以上の飾りはしない。
水色のドレスにした理由は、マーティング本人から初めて貰った手紙が水色の便箋だったからだ。そんな乙女なチョイスはもう二度としないと誓った。
誕生日会の次に遭ったのは不意打ちで奴が来たせいで、私は迂闊にも菫色のワンピース姿だった。顔が強張る私を見て奴は気が済んだのだろう、特に何も言わずに帰って行った。
その次に不意打ちで奴が来た時には幸運にも私は留守で、帰宅後にその報告を受けたので災厄除けの神殿にわざわわざお礼をしに出向いた覚えがある。
奴の不意打ちはどうにかならんのか!と、私の不機嫌さが頂点に達した時に父母が『順調に愛されている』とかなんとか、ふざけた事を言い出したので私は両親に『普通の令嬢教育に力を入れて欲しい』とお願いをした。それはもう、懸命に。