16◆◆動 揺◆◆
要の間に居並ぶ人々の様々な視線が交差する中で、マーティングは愚直なまでに私だけを見ている。
「最高のプレゼントだろ?」
「何を企ん「この、痴れ者が…!!」」
私が小声でコイツの意図を尋ねようとしたが、それは腹の底から絞り出すような陛下のお声に掻き消された。
握った拳をわなわなと震わせ、歯を食いしばる帝国の最高権力者のその様子に、重臣達は息を呑む。私も、身が竦んでしまっている。なんとも情けないが、この場から逃げ出したいくらいだ。
「なぜ、それほどまでに私とレイベーニアとの婚約に拘るのです?…これまでにどれほど深く探ってもその答えは見つかりませんでしたが、それだけ重要な意味や価値がある証左でしょうね」
「そこまで理解した上でこのような愚劣な振る舞いをしたというのか、この戯け者!!」
陛下の反応を見るに…この不可解な婚約にはかなり重要な意味があるようだ。
本気でマーティングの首が危ういと思うのだが、本人の意思でこのぶっ飛んだ発言をしているのだからどうしようもない。
「私にとっては『たかが婚約破棄』ですから」
憤怒の陛下の放つ怒気に気圧されることなく、マーティングがさらりと応えた。コイツの精神力、凄いな…。
それにしても、だ。
…コイツにとっては『たかが婚約破棄』なのか。……私の長年の悲願だと知っていたはずだよなぁ、この野郎。
「たかが、だと…貴様!!何も知らない癖に、偉そうな事を言うな!!」
「固執するわりに婚礼は日取りすら未定ですよね。それに、私がレイベーニアを冷遇しようとも留学で帝国を留守にしようとも気にする風も無い。…私とレイベーニアが婚約しているだけで何の意味が?」
おや、この顔だけ王子にも考える頭があったのか。しかし、婚約の日取りとはなかなか不穏な言葉だな。
淡々としているマーティングに怒り続けても無駄だと悟ったのか、陛下は背もたれに沈みこむように背中を預けた。
「……そなたがレイベーニア・エル・グロンバルーデを蔑ろにし続けるのならば話は違ったかもしれんが、ここ数年の様子からは寧ろ『いつ婚礼の儀をせっつかれるか』と待っておったのが間違いだったな」
先程までの激怒はどこへ?と首を傾げざるを得ぬ陛下の草臥れた様子に驚くが、それよりそんな軽い扱いで婚礼の儀をさせられそうだった事実に驚愕する。
「え?そうだったのですか、ならばちょうど良い。私とレイベーニアの婚約は宣誓宣言で破棄されましたが、私がレイベーニアの心を射止めた暁には婚姻を許可して頂きたくお願いしたいのです」
…………………何を言ってるんだ、コイツ。
「マーティング、意味が分からない」
陛下のお言葉は至極ごもっともでございます、特に後半!




