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作者: ななほし

 男は審判が下されるのをじっと待っていた。罪状は強盗殺人で、三人を殺していた。

 裁判の間、検察の追求に弁護士はなんとか応戦していたが、それを見ていた傍聴人の誰一人として男に同情の念を抱く者はなく、裁判長が槌を叩いた時には拍手喝采だった。極刑が下されたのだ。

 程なくして刑の執行が行われ、男は病院に移された。体の自由を奪われた状態で頭髪をすべて刈り取られ、麻酔も打たれた。

 男を乗せたストレッチャーが手術室へ運び込まれると、数人の医師が彼の頭に半球状の装置を被せるように取り付けた。

「なるほど、これは殺人を起こしても仕方ない」医師の一人が言った。呼応するように別の医師が返す「典型的な殺人脳です」手術室には男の脳を投影した三次元モデルが浮かび上がっており、更に別の医師がそのモデルを手の動きでクルクルと上下左右に回転させたり拡大したりしている。

「これより大脳基底核の回路再構築オペレーションを開始する」

 その言葉と共に目にも見えないほどの細い糸が密集したケーブルを男の鼻の穴へ突っ込んだ。ケーブルは鼻腔の奥へと進んでゆき、すぐに脳まで到達した。その先端から顕微鏡でなければ見えないほどの細いカテーテルが無数に枝分かれしながら極細の脳の血管へ進入してゆき、あっという間に男の脳内全域に広がる。

 既に構築されている神経細胞をカテーテルで切断し、新しい神経を正しい場所へ植え付けてゆく。手術は数時間で終わり、誰もいない病室で麻酔から醒めた時、男は大声で泣き叫んだ。

 自らの犯した過ちに気付いたのだ。掛け替えのない命を奪った事、それも金品の為という短絡的な動機だった。罪悪感だけが男の胸に広がってゆく。

 頬に伝う涙の後に冷たさを感じた時、窓が開かれている事に気がついた。入り込んできた風が男の顔を撫でたのだ。身を起こした男は覚束ない足取りで窓の前に立つと、迷う事なくそこから身を投げた。

 後日、遺族の元へ届いた書簡には刑の執行が滞りなく終えられた旨が認められていた。

 それを読み終えた遺族たちは複雑な面持ちをしていたが、その中の一人が口を開いた。

「ずいぶんと早かったんだな」

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