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最終話 書籍化

少年の考えていた百人と一人が殴り合う話。


殴り合いによる解決だと誤解する人も居ることかと思う。

実際には殴り合う愚かさを戒める為の話であり、暴力を正当化させる為の話では断じて無い。


それが証拠に少年は殴り合うことも無く、和解をすることに成功した。


一人の人間が多数の人間の前で謝罪する。大変、勇気のある行為だと思う。

逆に多数の人間が一人に謝罪するのは案外楽な話である。周りの謝罪に便乗するだけでいいのだから。


百人と一人の殴り合う話を執筆した少年は自らの殴り合う事を否定したお陰で、百人と一人で謝罪し合う事へと転換して事を収めたのだった。



たった一人の勇気ある謝罪が、多くの生徒の謝罪へと導いた。争うことしか考えてなかった編集者は自らの愚かさを恥じ、少年の勇気を讃えた。




編集者は少年が全校生徒への謝罪をすると打ち明けた時に、すぐに言葉が出なかった。

イジメを受けていた者が謝罪?何を言っているのかと。


しかし、少年の話を聞く程に、確かに謝罪は必要かと納得せざるに得なかった。


少年の謝罪に対して相手がどう動くか判断は出来なかったが、少年が自分の意思を貫き通すのであれば協力は惜しまない。


編集者は担任に謝罪の場を設ける様に要求。担任としては本気で言ったわけでは無いにしろ、謝罪させると言った手前本当に全校朝礼での場を設けた。


少年が本当に謝罪したから何になると、高を括っていた担任の思惑とは裏腹に、全校生徒からの拍手と謝罪。担任が驚くのも無理はない。

担任が思っている以上に生徒達はイジメに嫌気がさしていたのだ。

最初はふざけて無視する輩も、登校拒否にまで発展して何も感じないわけが無い。

イジメを辞めるなり謝るなり、キッカケが欲しかったのだ。




勇気ある少年とは違い、最後まで謝罪をしなかった担任は他の学校への異動が決まり、少年のクラスの担任は新任教師へと代わった。





その後少年は中学三年生になり受験生に。

少年の必死の猛勉強の甲斐あって、志望校への入試は見事合格となった。


卒業まで時間を持て余すこととなった少年の元に、久方ぶりに編集者が挨拶にやって来た。


編集者は合格のお祝いを簡単に済ませると、当時の百人と一人が殴り合う話を始めた。少年にとっては苦い思い出ではあったが、あれ以来イジメは無くなりクラスの中にも溶け込める様になった。


そんな少年が受験を終えたのを見計らって、編集者は再び書籍化の話を持って来たのだ。

百人と一人が殴り合う話と、それにまつわる自身の体験談の書籍化を。



最初は乗り気ではなかった少年であったが、編集者にはお世話になったし、自分と同じ様にイジメにあっている人への勇気へとなるのならと承諾。

執筆した本は少年が高校一年生の秋に発売されることとなった。


少年が高校を卒業するまでに、初版10万冊は売れ切れる事は無かったが、絶版されることも無くジワジワと売れ続け、20年後も増刷されるロングセラーとなった。



今も町の図書館でよく見かける「百人と一人が殴り合う話」は、そのタイトルから暴力を正当化する話だと誤解されがちである。

しかし、読んでもらえば分かる通りに、長い時を経ても読者に勇気を与えてくれる、ノンフィクション作家として名を馳せた小説家の処女作として、今も多くの読者に愛されているのであった。




FIN

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