第七話 謝罪
少年の通う中学校。月曜の朝の全校朝礼が体育館で始まった。
朝から不機嫌な顔をした校長が、珍しく「校長の話」を早々に切り上げて、マイクのある演台から離れた。
誰も聞きたくない校長の話が短かったことに生徒達は喜ぶが、それも束の間。舞台の袖から現れた少年を見ると一同、一斉に凍り付く。
舞台の真ん中にある演台。そこに立っているのは全校生徒、全職員からガン無視されイジメを受けていた少年に他ならない。
少年は全校生徒の前で挨拶をすると、そのまま深く頭を下げて謝罪をした。皆に迷惑をかけた事を。
そして、この様に謝罪の場を設けてくれて事への感謝の言葉を述べた。
誰もが予想だにしてなかった事である。
勿論、全校生徒の前で謝罪させると言った、担任にとっても信じられないことであった。
全校生徒からイジメを受けていた少年が、全校生徒へ謝罪と感謝の言葉を述べるのである。全校朝礼は異様な空気に包まれた。
少年が出した答え、それは泣き寝入りでもあるがそれだけでは無い。
自分の非を認めない学校側に、同じ様に非を認めずに争ってどうするのかと。
勿論、少年は争う気は無い。不毛なる争いなどするぐらいならば泣き寝入りした方がイイと判断。
だが、それだけでは遺恨を残すことに他ならない。
泣き寝入りをするだけでは無く、自分の非はちゃんと認める。それが人の道だと少年は考えた。
少年が自分の非を認めて謝罪。あとは学校がどう出るか?
少年は学校がどの様に対応しようとも構わないと思っていた。少年の素直な気持ちである。
ただ、自分はちゃんと筋を通さなければならないと思っていたからこその謝罪。学校のその後の対応など考えてもいない。
編集者からの話を聞いて、 話し合いも争いも無意味と判断した少年は、己の非を認めて謝罪だけはしたいと思った。
自分に非はあるのだから謝罪する。それをしなければ学校側と一緒である。それだけは嫌だった。
短いながらも謝罪を終えた少年は、再び深く頭を下げた。
少年の謝罪は学校での皆を顧みずに、独りよがりの弁論を述べたこと。
ただそれだけの謝罪を全校朝礼にて、全校生徒を前に述べたのだ。
謝罪が済み、静まり返る体育館。その静寂を打ち消したのは同じクラスメートからの拍手である。
驚く少年など御構い無しに割れんばかりの拍手が体育館にこだまする。
最初は一人の拍手。しかし、すぐに周りの生徒も拍手を始め、九割の生徒が拍手で少年の謝罪を受け入れた。
鳴り止まない拍手の中から、生徒達の中で罪悪感にかられていた者からの謝罪も飛び交った。
「悪いのはお前じゃねぇ!」
「無視してゴメン!」
「お前が謝るなよ!」
「冷やし中華始めました!」
中にはふざけて叫ぶ生徒も居るが、殆どの生徒は少年の謝罪を受け入れ、自らの非を認めた。
少年が勇気を出して謝罪しなければ、絶対に起こり得ない事が体育館で巻き起こる。
そんな光景を苦虫を噛む様に眺めているのが校長と担任であった。
舞台の裾に少年が戻ると、待機していた編集者が泣きながら少年の勇気ある謝罪を称賛。
そして編集者は校長と担任に向かってこう叫ぶ。
「あんた等の謝罪はまだ聞いてないぞ!」
拍手は止み、全校生徒が校長と担任に目を向ける。
少年が非を認めて謝罪。では学校側は謝罪しないのか?
学校側に非が無い訳が無い。そんな事は誰もが重々承知している。
少年が勇気を出して全校生徒の前で謝罪したにも関わらず、学校側は何も言わないのか?
全校生徒が見守る中、学年主任でもあり少年の担任でもある男性教諭は言い放つ。
「全校朝礼は終わりだ!早く教室に戻れ!」
生徒達からブーイングが巻き起こる。それでも御構い無しに教室に戻る様に怒鳴り散らす。
ゾロゾロと生徒達は教室に戻って行くが、残った担任は最後まで謝罪することは無く「これで満足か!」と、吐き捨てて体育館を後にした。