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第三話 弁論大会とその結果

少年は元々、応募する事など考えていなかった。


自分の中に溜まったものを吐き出すことへの口実があったから、ただそれに飛びついただけの事。


でも、ボッチの少年は自分で書き上げた原稿を何度も読み直すと、折角書いた自分の想いを誰かに読んでもらいたい…そんな衝動が芽生え始めていた。



弁論大会の第一次審査である原稿の投稿、多少の迷いもありながらも少年は応募してみた。

弁論大会に参加することよりも、自分の想いを誰かに読んでもらいたい、そんな気持ちでの応募であった。




応募から一ヶ月が過ぎた頃、少年の元に弁論大会への参加の通知が届いた。

自分の拙い文章が認められ、まさかの弁論大会出場である。

嬉しい反面、人前で弁論する事など考えてもいなかった少年には出場辞退の考えがよぎる。


辞退する事は簡単だが、自分の考えを多くの人に聞いて欲しいと思う自分も居る。

悩む少年ではあったが、通知が来て三日目の昼休みにクラスでまたエスカレートするちょっかいを受けた。

いつもの様に苦笑いしてやり過ごす少年ではあったが、それが弁論大会出場を決める事となった。





弁論大会当日、緊張する少年。

人前で自分の考えを話すなど、改めて考えたら何とも無茶なことである。


逃げ出したい感情に駆られるも、すでに自分の出番が近づいている。

与えられた弁論の時間は十分間。それさえ過ぎれば後は他の参加者の弁論を聴くだけ。


たったの十分間である。逃げ出したくも、必死で「人」の字を手の平に書いては飲み込んでを繰り返す。


そしてついに少年の出番。

右手と右足が同時に出る程の緊張の中で、五百人程の観衆の面前での弁論が始まった。




少年は応募した時の百人と一人が殴り合う話をした。

それと自分がクラスの中で、どの様な立ち位置に居るのかを。




長い様で短い、少年の弁論は終了した。


拙い言葉ではあったが、自身の置かれている環境を話す時に思わず涙ぐみ、話終えた時には泣きじゃくる少年の言葉は、間違いなく観衆の心に届いていた。


それが証拠に舞台の袖まで下がる少年の背中には、惜しみない拍手が巻き起こっていた。




そして弁論大会は閉幕。


少年の手には、まさかの優勝の賞状と記念の盾が抱えられていた。


ボッチの少年にとって、その日は間違いなく生まれて初めての最良の日であった。


出場して良かった。自分の考えは間違いでは無かったと、弁論大会が終わった後も泣きじゃくっていた。





そんな最良の日から一週間経ってから事件は起きた。

少年の弁論が新聞にも取り上げられ、全国でその内容が知られる事となったからだ。


本来であれば弁論大会での優勝ともなれば学校でも取り上げられ、月曜日の全校朝礼で校長先生が直々に表彰したりとするものである。


だが少年が全校朝礼で表彰される事は無かった。


何故なら弁論大会での少年の発言は、学校で自分がイジメを受けていて、それを学校が黙認していると思われる内容であったのだから。


そんな弁論が新聞で取り上げられては、世間からの学校に対する批判が巻き起こるのは自明の理。


突然降って湧いた学校への批判。その元凶とも言える少年に誰が表彰などするであろうか?


校長を始め担任の教師や他の教員達の憤慨は収まらない。

勿論、クラスメートや他のクラスの者達も一様に少年に対して嫌悪感を滲ませる。


ただ、ふざけてちょっかいを出していた程度だと、クラスメート達は認識していた。

勿論、当の本人であるボッチの少年もその様に認識していた。


それでもイジメをテーマとした弁論大会で少年が身の上を語れば、それはイジメを受けていると発言している様なもの。


少年がもし、眉目秀麗で成績優秀な生徒であれば、周りの対応も変わっていたのかも知れない。


しかし、少年はクラス内でのヒエラルキーの最下層にいるボッチである。

誰が彼の味方になってくれよう?


言うならば奴隷が国に対して謀叛を…革命を発起したに等しい。


たった一人の奴隷による革命。

それでも国に対してダメージを与えたのだ。

ならば国は奴隷に対して鎮圧行動をとりたいところ。

しかし、手を出せば更に立場が悪くなるというのが今の国の現状。

なんとも歯痒い話である。



ヒエラルキーの最下層に居るボッチが起こした今回の事件。

誰もが怒りの矛先を向ける中、味方になろうなどと奇特な考えを持つものなど現れるわけが無い。


そうなると誰もが自然とボッチの少年と関わらない様になる。

元々、ボッチの少年と関わろうとするのは、ちょっかいを出すクラスメートぐらいであったが、そのクラスメート達ほど率先して関わらない様になったのだ。


完全なる孤立。

それが弁論大会で優勝した少年への、皆が出した答えである。




朝、少年が登校するとクラスが静まり返る。


先程まで友達同士での会話で賑わっていた教室に、少年が登校して来ただけで静まり返るのだ。

そのあと友達と話しながら登校して来たクラスメートも、少年が先に教室に来ているのを確認すると途端に黙り出す。


少年が居るだけで教室は静まり返り、ヒソヒソと小声による会話だけが教室に鳴り響く。


まさに針の筵。


だが、そんな態度をとるのは生徒だけの話では無かった。


体育の時間、二人組になる様に指示が出ると勿論ボッチの少年はペアを組めずに孤立。


ペアが組めずに立ち往生している少年など、まるで居ないかの様に振る舞う教師が、そのまま授業を進める。


グラウンドの隅で少年は泣きじゃくるが誰もが無視。


別の体育の授業の日、その日は休みの人が居た為、生徒の数が偶数に。

少年とペアを組まなければならない生徒が出ると、そこに教師がやって来て余った生徒とペアを組む。


教師と生徒が一体となり、少年への徹底としたガン無視。


狂ってるとしか思えない学校での対応。

多感な時期である中学生の少年が不登校児になるのに、一ヶ月も時間は要しなかった。

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