第一話 ボッチの少年
中学二年生のボッチの少年が一人で下校していた。
一緒に登下校する仲のいい友達など居ないので、いつものように一人淋しい下校となっている。
小学生の時は子供が襲われるニュースが多発し、集団下校で近所の子供達と帰る日々であったが、中学生ともなれば集団下校は余程の事でも無ければ行われなかった。
いつも通りに一人で下校する少年。いつもの様に今日、一日の出来事を思い返していた。
思い出すのは昼休みの時間に、クラスメートの少年からプロレス技を一方的に受けたこと。
少年は苦笑いしながら「辞めてよ〜」と、いつもの反応。
世間から見たらイジメの類なのかも知れない。でも少年はイジメだと思ってはいない。正確には思いたく無いのだ。
少年は血反吐を吐く程の暴力を受けたわけでは無い。
ただ、クラスメートがふざけてちょっかいを出してきただけである。
少年が「イジメ」だと認識しなければイジメでは無い。悪ふざけがエスカレートしただけだと、少年は考える様にしていた。
どこの学校でもクラスでも、ヒエラルキーというものは存在する。
同い年の少年少女が集う学び舎でありながらも、クラスメート内での格付けがなされ、中学二年生にもなればクラス内での上下関係と言うものが出来上がっていた。
そのクラス内でのヒエラルキーにて、最も下位に属する少年こそクラスメート達からちょっかいを出されたり、からかわれているボッチの少年である。
そんなヒエラルキーで下位のボッチの少年が、学校に来て楽しい事などあるのだろうか?
勿論、楽しい事など何もある筈が無い。それでも毎日学校に登校する。楽しくなくても登校する。楽しく無かったという確認作業を終えての、楽しく無い下校。
それがボッチの少年の日常だった。
その日もまた、いつもの様に一人での下校ではあったが、いつもの帰り道が工事中で通れず迂回を余儀無くされた。
仕方なくボッチの少年が遠回りになる市役所前の通りに差し掛かると、道路脇にある掲示板に貼られた「弁論大会」の告知に足を止める。
普段なら気にも留めないところだが、弁論大会のお題となる「イジメ」の文字が気になり弁論大会の詳細を確認。
帰宅した少年は勉強机にあるノートPCを開き、弁論大会用の原稿を書き始めた。
応募するかどうかは別として、少年が常日頃から感じている「 イジメ」への想い。それを吐き出したかったからだ。
溜まった鬱憤を晴らすが如く、一時間で書き上げたのは「イジメの意識と認識」を考えさせる原稿であった。
少年はいつも思っていた。
イジメを無くすには、百人と一人が殴り合う必要があるのではないのかと。