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魔王城からは逃げられない  作者: 野良灰
1章 生まれからは逃げられない
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暗闇の中の光

 ドヴェルグの居住地は、入り口で感じた印象そのままに洞窟だった。

 ネーファの姿を見失わないように後をついていく。

 中は暗く、奥から生温かい風が吹いてきて顔にあたる。

 足元がごつごつしているために、時折体勢を崩してしまいそうになるが、ネーファは慣れたもので危なげなく歩いていた。

 ちゃんと俺がついてきているか心配なのだろう。少し進んでは後ろを振り返り、また前を向いて進んでいく。

 

「転移魔法陣はこの奥か?」


「えっと……ここからもうすこし先に行って、みんなのおうちや鍛冶場がある所にあります……」


 洞窟の奥を指差しながら教えてくれた。 


 転移の魔法陣は住処の近くにあった方が便利だ。

 魔王城内でどこへ行くにしても転移を使った方が楽で早いからな。

 徒歩で向かう方が少数派になるもの仕方ない。

 できるだけ上の階層で、尚且つ外の近くに通じる転移魔法陣を探さないと……。


「しかし……ここは暗いな」


 徐々に目が慣れてきたが、進んでも進んでも明かりが見当たらない。

 俺は周囲を一時的に明るくするとか、火をつけるとか、そういった細々とした魔法は苦手だ。

 目を潰す程の閃光とか、相手を焼き尽くす炎とかならできるが……。

 もしネーファの先導がなければ、手探りで周囲の状態を確認しながら進まなくてはならなかっただろう。


「ごめんなさい……この辺りはわたしぐらいしかこない所なので……。他のみんなは用事があれば転移で門の広場までいっちゃいますし……。あ、そうだ――」

 

 明かりがない事に俺が不満をもらしたように聞こえたのか、申し訳なさそうにネーファは答えた。

 しかしすぐに何かを思い出したかのようにこちらを振り返った。


「ごめんなさいまおう様、しばらくここで待っていてもらえますか? 明かりを取ってきますので……」


「ふむ……俺にはこの暗さは歩きにくくてかなわん。明かりがあるというなら助かるな……だが手早く頼むぞ」 


 こんな暗くて湿気が多く、代わり映えしない景色の所に俺を置いていかれるのも嫌だが、明かりを取ってきてくれるというなら正直助かる。

  

「はいっ。ここでまっててください――ではっ」


 俺を暗がりに置きざりにして、ネーファは一人右奥にあった横穴の中へ走っていった。

 

 暗闇の中で俺一人になった。

 近くの比較的平らな場所を探して座って待つ事にする。


 ただ待っているだけでは暇なので、これからどうするかを考える事にした。

 とりあえず門の広場へ通じる魔法陣と、先へ進む通路の確認だな。

 全く……外への魔法陣を使う許可さえでれば楽なものを……。

  

 あぁ! そうだ……新規予算分配についての書類やっておかないと……。

 その後もどんどん仕事絡みの事を思い出して頭が痛くなってきた。

 

 このままここで引き篭もっていようかという考えがよぎった頃、小さな明かりが揺れながらこっちに近づいてくるのが見えた。

 ネーファが息を切らしながら戻ってきた。

 

「はぁっ、はぁっ……ま、まおう様お待た……せ致し……ました……」


 よっぽど急いで走ってきたのだろう。肩で息をしている。

 座った状態の俺に近づいてきて、持っていたランプを差し出した。

 

「急いで持ってきてくれたんだな……ありがとう。少し息を整えてから進むとしようか」


「いえっ、だ、だいじょうぶです……」


 大丈夫だと言うが、走ってきたせいだろう、ネーファの頬が少し赤くなっている。


「いや、固い所に座っていたせいで足が痺れていてな。俺が立ち上がれるようになるまで休憩しておけ」


 とりあえず座るように促したが「大丈夫です」と言うばかりで座ろうとしない。

 だが無言と視線で促す事により、俺から少し距離を空けて腰掛けた。

 座ってすぐに深呼吸しているのを見逃さない。 


「このランプはどこから持ってきたんだ?」


 休ませるためにもとりあえず話をふってみる。


「はふっ……。それはわたしが部屋で、本を読む時に使ってるランプです」


 息を整えながらネーファは答えた。


「わざわざ家まで行ってとってきてくれたのか? それなら一緒に先へ進んでもよかったのに――」


 そうすれば走らせる事もなかったろうに……悪いことをしたな。


「あ、そうじゃないです。わたしの部屋はこのさきにあって、これからごあんないする所とは方向がちがうんです」


「そうか。ネーファは普段どういう本をよく読むんだ?」


「えっと……えっと……」


 なんだか顔を横に向けて俯きながらもじもじしている。

 まさか言い難いような内容の本を……では無いと思うが。


「…………恋愛の物語とか……好きです」


 恥ずかしそうにさっきよりも頬を赤くしながらそう答えた。

 女の子だものなぁ。

 今読んでるのはどんな話かを尋ねてみたが、小さな声でよく聞こえなかった。

 なんでも王子様とメイドが中心らしい。魔王はでてこないのかと言ったら、「たぶん、でてこないと……思います」だそうだ。残念。



 その後もネーファと他愛ない話をしていたら、肩で息をしなくなったので先へ進む事にした。

 ランプのおかげで前方と足下の状態が見やすくなった。

 歩きやすくなった事で奥へ進むスピードも上がった気がする。 


 奥へ奥へと進んでいく俺達の前にうっすらとした明かりが見えてきた。

 金鎚で鉄を打つ音だろうか、鍛冶場で聞こえてきそうな音も耳にはいってくる。

 向こうに見える薄明かりへと歩く速度があがっていく。

 鎚の音も大きくなっていき、熱気が今いる通路まで伝わってくる。


「こ、ここがドヴェルグの鍛冶場……ですっ」

 

 通路を抜けた先でみたのは、巨大な炉を中央に、中規模の炉が複数並ぶ広い空間、そしてあっちでもこっちでも物作りに励む――異形の者達の姿だった。


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