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魔王城からは逃げられない  作者: 野良灰
6章 知りたいという気持ちからは逃げられない
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少女のお願い

 手伝いを申し出てくれたジュリエッタと、その様子を見て慌ててついて来たロイドと共に俺は村の中へ入っていく。

 門をくぐった俺の目に映ったのは外と変わらない森の姿。だが良く見ると木の上に家らしき建物が見えた。

 どうやら住人それぞれが木々の上に藁や木、それに草で作った住居を構えているようだ。

 門は入口というよりも、住人がいる辺りを示す目印だな。


 そんな事を考えながら二人を引き連れて村の中を進む。

 ロイドとジュリエッタが木々の上にいる住人に声をかけ、俺が探している道について聞いてくれる。


「いや、知らないな」


「なんでそんな道が必要なの? 転移魔法陣使えばいいじゃない」


「お腹空いた……」


「興味なーい」


 といった感じで、有益な情報が全く出てこない。

 本当に自分の好きなように生きているような連中ばっかりで、各々の活動範囲以外に興味が全く無いようだ。

 結局この村の中の住人全てに聞き終えたが、俺の求める道を知る者はいなかった。


「だめだ……これは思った以上に情報収集が難しいぞ」

 

 この調子で他の村をあたっていくとして、どれくらい時間がかかるのか見当もつかない。

 知ってる者がいるのかどうかすら不安になって、頭を抱えるしかなかった。


「魔王様……このまま他の村々も周りますか?」


 村の入口に戻って頭痛に耐える俺にジュリエッタが優しく声をかけてくれる。

 その横でロイドがそんな恋人に何か言いたそうにしているが、それに構ってやれる程心の余裕は無い。


「いや、今日はここで止めておく。この広い区画の村々を闇雲に周っても時間がかかるだけだろうからな」


 せめて知ってそうな種族の村に当たりをつけて行かないと駄目だろう。

 

「二人に聞くが、この区画で物知りがいそうな種族に心当たりはあるか?」


 ジュリエッタとロイドはそれぞれの表情を確認するように見合ってから答えた。


「いえ、残念ながら……」


「私も知りません!」


 申し訳なさそうに答えるジュリエッタに対して、何故か自信満々に返事するロイドにちょっと腹が立つ。

 とはいえ、ここでこいつに八つ当たりしても仕方ない。

 

「さっき、他に知ってそうな奴に心当たりがあるか併せて聞けばよかったな」


 そこまでさっき考えが至らなかった事を後悔する。

 もう一度聞いて周る根気は今の俺に無い。

 日を改めて、気持ち切り替えてからだな……。

 そう思っていると、ジュリエッタがロイドの方を向いた。


「ロイド……魔王様のために村の皆に聞いてきてあげて」


 再度村の皆に聞いてくれるようにロイドに頼んでくれた。

 

「えぇっー! もう一度皆に聞いて周るのかい? 何で私がそこまで……」


「お願い……ロイド」


 嫌がるロイドに、両手を祈るように胸の前で組んで上目遣いにお願いをするジュリエッタ。

 明らかに気乗りしていない彼氏のせいか、彼女の羽は下にうなだれている。

 

「君の頼みなら仕方ないなっ! 任せたまえ……ここは私の村だ! あっという間に聞いてくるさ!」


 彼女のお願いの姿勢を受けて、わかりやすい程単純にロイドは快諾し、村の中へ戻っていった。

 飛ぶように颯爽と走りさる背中を村の入口から俺達は見送った。


「あいつには悪いことをしたか……。けど、愛しのジュリエッタのためなら何でもしそうだ。本当にお前の事が好きなんだな」


 元々俺に襲い掛かってきたのは、彼女に危害を加える相手がいると思ったからだし。この手伝い自体もジュリエッタが申し出た事についてきたからだ。

 彼女一筋で一生懸命な彼氏がいて幸せだなと言うつもりで俺はジュリエッタに言った。


 しかしそう言った後の反応は俺の予想していたものと違っていた。

 照れるか嬉しそうにするものだと思っていたが、俺の言葉を聞いた後の彼女の表情は何だか暗かった。

 頭が下に傾き、困ったような、悲しいような様子だ。


「そう……なんでしょうね。ロイドから結婚も申し込まれているのですが……わたくしまだ返事をしていなくて……」


 ロイドが結婚を申し込む姿は容易に想像できた。まぁあれだけ好きだという事を体全体で現している奴だからな。

 だが、申し込みに対して返事をしていないというのであれば、ジュリエッタはそこまでまだ決められないのか。


「わたくしには、どれくらい好きなのかわからないのです」


 何をおいても一番ジュリエッタが大切だと思うがなぁ。もしかしたらこの子は案外鈍感なのかもしれないな。

 でも俺自身別に誰かと結婚している訳ではないから、偉そうに男女の機微について助言もできないし……どうしたものか。

 こういう場合、背中を押してやれるような言葉を言ってやれると良いのかもしれんが、悩んでも思い浮かばなかった。


「大事な事だろうし、納得いくまで考えて、あいつの気持ちを確かめてから返事すれば良いと思うぞ」


 流されてするようなものじゃないし、じっくり考えてからでいいだろう。

 それまでロイドだったら、他に浮気せずにずっと待ってそうだ。


「確かめる……ですか。なるほど……そうですね、確かに魔王様の仰る通りです。ここは一気に確かめてみるのが――」


 俺の助言に対してジュリエッタは何か考え込みながら、口からはぶつぶつと何かを言い出している。

 そしてさっきロイドにしたのと同じように、俺に対してお願いの姿勢をとって言った。


「魔王様……わたくしを攫っていただけませんか?」


 目の前の彼氏持ちの少女が予想外のお願いを俺にしてきた。

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