鳥人の村へ
鳥の亜人はようやく俺の事を魔王だとわかったようだ。
手を離した俺の目の前で、背中の翼も折りたたみ器用に正座している。
「わかればいい。まずは名を聞いておこうか」
いくら見た目も頭も鳥とはいえ、案内してもらうのだし名前ぐらい聞いておくとする。
「はい! 私の名はロイドと言います魔王様っ!」
姿勢を正していた鳥の亜人は右手を上げ、うるさい程の大声で名乗った。
さっきまで俺を追い掛け回していた奴とは思えない爽やかさだ。
流石は鳥……。
こいつ長く付き合っていると疲れそうだ。さっさと道がわかりそうな相手の所へ案内してもらわないとな。
「よしロイドよ、先程俺が言った事を覚えているだろうな? じゃあ早速道――」
「はい! 魔王様がジュリエッタを害するつもりが無いというのは覚えておりまぶっ!」
とりあえず俺が言った事を覚えていないのはわかったので、見事なまでの鳥頭に手刀を繰り出す。
何も入っていない桶を叩いたような気持ちい音がした気がする。
無意識に手加減が不十分だったようで、ロイドは頭を両手で押さえて痛がっている。
「もうジュリエッタはいいから、俺は視察で先に進みたいのだ。だから道のわかりそうな奴がいる所に案内してくれ」
今度こそ間違えないようにきちんとロイドに念押しをする。
「で、では私達の村にご案内します……」
きちんと確認をした事でロイドもようやくわかってくれたようだ。
自分達の村へ案内しようとして先導する後ろについて俺も歩き始める。
道中この区画について知っている事を説明させた。
地形としては森がほとんどを占めており平坦で開けた場所は無く、俺がここにやって来た時のような山はいくつかある。
住んでいるのは亜人や種族が多く、離れて暮らしているのもあって全てはわからないそうだ。
「離れて暮らしてはいますが、そんな事関係なくジュリエッタと私は愛を育んでいるのです!」
説明の途中でこうやってジュリエッタの素晴らしさと、自分との関係を織り交ぜようとするが、その情報は特に必要ないのだがな。
その辺りは聞き流しながら説明を聞いた結果、この区画は入口と出口だけ把握すれば簡単に抜けられそうだ。
罠や防備としては各種族の住んでいる場所の近くにあるかもしれないが、道の途中で避ける事はそう難しくない。
「魔王様、見えてきました私の住んでいる村が!」
俺がこの区画の抜け方を考えていると、前を行くロイドが先を指差しながら叫んだ。
指し示す方向へ視線を移すと、木で作られた簡素な門と村の入口のようなものが見える。
「おぉ! ジュリエッタが私を迎えにっ!」
ロイドが嬉しそうな声をあげ、俺をおいて村の方へ向かって急に走り出す。
その先にいたのは、やはり俺がさっき歌声に惹かれて森の中で出会った少女だった。
「ジュリエッターーーーっ!」
鳥頭の亜人は愛しのジュリエッタの名前を叫びながら、彼女に抱きついた。
逃げないのを見ると、一応恋人という話は本当なのだろうか。
少女に抱きつきながら、頬ずりしている姿はかなり危ない奴なのだがな。
「ロイド、無事だったのね。いきなり飛び出していったから心配したわ」
されるがままにしながら、心配していたのであろうジュリエッタはそう言う。
「勿論だとも! 私はどんな相手でも、例え魔王様が相手でも君の所に戻ってくるよ!」
恋人の前だからと大層な事を言っている。
「よぉ、さっきは驚かせたみたいで悪かったな……ジュリエッタ」
このままロイドに任せていては話が進まないので、とりあえず先に改めて挨拶しておこう。
俺がそう声をかけるとジュリエッタは此方を見て、抱きついたままのロイドを引き剥がした。
「いえ、魔王様。わたくしの方こそ急に声をかけられて驚いてしまって……本当に失礼致しました」
そして頭を下げて詫びてくるが、いきなり声をかけたのは俺の方だから逆に申し訳ない。
引き剥がされたロイドが不満そうな顔で俺達二人を見ているが、とりあえず無視だ。
「いや気にしなくて構わない。それよりもわかったら教えてもらいたいのだが、ここから先の区画に行く道を知っているか?」
ここへ来た本題を俺の方から切り出す。
だが、ジュリエッタは少し考えた表情の後、首を横に振った。
「残念ながら、わたくしもこの区画の外の事はわかりません。ここから出る時は転移魔法陣を使いますから」
俺の期待は残念ながら裏切られてしまった。
だが転移魔法陣は区画の中心に近い位置にある洞窟の中にあると教えてくれた。
次から此処にくるための道はこれで確認できるが、肝心の先に続く道は他をあたるしかないな。まずはこの村の中からあたるとしよう。
「わたくしも魔王様のお手伝いができますか? 自分の勘違いでロイドがご迷惑をおかけしたみたいですし……」
俺が道を探している事を話すとジュリエッタが協力を申し出てくれた。
土地勘も、知り合いもいない場所で一人で情報収集するよりは助かるな。
「ふむ……そうしてもらえると助かる。まずはこの村から道を知っているものを探すのを手伝ってもらえるか?」
俺はジュリエッタに協力を頼み、村の中へ向かって歩き始めた。その後ろを彼女がついてくる、
「わ、私も手伝いますっ!」
これまで黙っていたロイドが、俺と彼女が二人で歩き始めたのを眺めていたと思ったら、叫びに近い声を出しながらついてきた。




