鳥の頭の亜人
「おーい……ちゃんと聞こえてるのか?」
俺に転がされて、うつ伏せに倒れたまま動かない鳥の亜人の体を揺する。
さっきみたいに襲い掛かっては来ないみたいだが……。
「うぅ……私がジュリエッタを守るんだ……」
力を振り絞って立ち上がりながら、うわ言のような声をだす。
それは執念というか、まるで怨念のようにも聞こえる。
立っているのがやっとという姿で再び俺を睨む。
「守るも何も、俺はそのジュリエッタという奴が誰かも知らないし、害意をもって何かしようともしてないぞ」
名前も知らない相手の件で、見ず知らずの奴に狙われる心当たりは無い。
「言い逃れしようとは見苦しいっ! 先程私のジュリエッタの所に突然現れ、いやらしい目つきで迫ったというのは貴様のことであろうっ!」
こちらに向かって指を突きつけ、どこかの変質者と俺を同一視してくる。
但し……かなり曲解されているという事を除けば、予想通り先程歌っていた女に声をかけた時の俺のような気がする。
ただ歌声に惹かれて歌い手を探して歩き、歌が終わってすぐに声をかけたら逃げられたというだけだ。
うん。改めて先程の流れを確認したが、俺は変質者ではないぞ。
「待て。俺がそのような真似をする訳なかろう!」
大体さっき俺が名乗ったのを聞いていたはずだ。
それで変質者かどうかなんてわかりそうなものだが。
「そんな事わかるものか! ジュリエッタの歌と美貌を前にすれば、どのような輩でも邪な思いを抱いても仕方がないからな!」
目の前の鳥の亜人は、なぜか両拳に力を込めて自信満々に叫んだ。
「成程……確かにお前の言う通りなのだろう。俺の目の前にいる奴が暴走しているぐらいだからな」
眼前の奴を指差して言ってやった。何と言っても自分で言った事を自らの行動で証明しているわけだし。
だが俺の指摘が不満だったのか、顔を赤くして怒りだした。
「わ、私はジュリエッタのために、彼女に近寄る悪い虫を排除しているだけだっ!」
訳もわからないまま言いがかりで襲い掛かってきてるのが?
そんな質問が喉まで出掛かるが、ここで言い合っていても終わらなさそうな気配がするので止めておいた。
さっきからこいつの暴走に付き合ってるだけで時間が過ぎている。
この辺りで流れを断ち切っておきたい。第一こいつが俺の探している出口を知らなかったらここまでの時間が無駄だという事だ。
だから奴の話の流れを断ち切って、率直にきいてみた。
「わかったわかった。俺はここから次の区画に繋がる道を探しているだけだ、その場所を教えてくれれば立ち去る」
実際俺は次への道がわかれば、ここに長居する理由もこいつの大事なジュリエッタとやらに用も無いしな。
奴は鼻息も荒く、自分の行為の正当性を語っていたが、俺の提案を聞いてようやく止まった。
「ふん! 上手い事を言って、私を振り切ってからジュリエッタを探すつもりだな! 誰が教えてやるものか!」
自分は全てお見通しだ、と言いたそうな顔でそんな事をこの俺に対して言い放つ。
俺は奴の発言を聞いて無言で奴の頭を掴んだ。すぐに苦しそうな顔に変わっていく。
「違うと言っているだろう。お前はさっきから俺の話をよく聞いていないな? 魔王らしい振る舞いを期待しているのなら応えてやってもいいのだぞ」
話が進まずに苛立ってきた俺は奴の頭を掴んだまま持ち上げる。俺の腕を掴んで引き剥がそうとするが、こいつ程度の力でそれはできない。抵抗空しく顔を歪めて苦しそうに暴れる。
「い、痛い! 離せっ!」
「ならば俺の質問に対する答えを話せ……俺がお前の頭を潰してしまう前にな」
流石にそこまでするつもりはないが、少しぐらい高圧的に出ないと終わらないし。
「はい! 答えますから! だから離して下さいっ!」
先程までの態度と違って、俺が頭を握っている手を引き剥がせないのに諦めたのか、許しを乞った。
このままの状態で話を続けても、我慢を超えたら本当に潰さないとも言い切れないので力を緩めた。
そして奴は地面に膝をつき、涙目でこちらを見て恐る恐る話し出した。
しかしその答えは俺が期待していた内容とは少し違っていた。
ここから次の区画に繋がる道は一つではないと言う。自分はそれぞれがどこに繋がっているかまではわからないそうだ。
「ならばわかる奴がいる所に案内してもらおうか……今度は魔王命令だ、断るなよ」
またジュリエッタがどうのこうと始まったら先程の続きになるかもしれないので、今回は命令という形で先手をとった。
この鳥の亜人は、そこでびっくりしたような表情に変わる。
「え? 魔王命令? どういう事? 魔王様がどこに?」
その表情と言葉から状況が理解できていないと判断した俺は再び奴の頭を掴んだ。
「さっき名乗っただろう……今貴様の目の前にいて、頭を潰すぐらいに力が入りそうになるのを、必死に我慢しているのが魔王だ」
再び苦悶の顔に変わる奴を見ていて思い出した。
鳥はあんまり頭が良くないとか……誰かが言った悪口だったと思っていたが、こいつを見ていると案外その通りなのかもしれん。




