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魔王城からは逃げられない  作者: 野良灰
1章 生まれからは逃げられない
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魔王様は視察中

「ま、まおう様は……どうしてこんな所にいらっしゃるのですか?」


 ネーファは俺を見上げながら問いかけてきた。

 前髪で目元が隠れているので表情が読みづらい。


「ん? それはだな……」


 それは事務仕事ばかりの日々が嫌になったからだ……とは答えられる訳もない。

 俺はこの場にいても、そして罠にかかっていたとしても魔王としての威厳を保てる理由を考えた。


「――視察だ。我が魔王城の守りが万全かどうか。そして住む者たちがきちんと仕事をしているかを見て回っている」


 これくらいの理由が自然だろう。自分に納得させるように頷きながらネーファに答えた。


「視察……ですか?わ、わたし管理のおしごと、一生懸命やって……ます」


 最後の方は声が小さくなりながら自信なさげに言う。

 魔王城には大きさも、目的も異なる部屋が多数存在する。

 一元管理する事は到底不可能な程に魔王城は広くなった。


 そこで、魔王城に住む各種族に管理を委ねている部分は多い。

 担当する部屋は自分達が住む居住地の周辺の部屋で、数は特に指定していない。

 自分達の住んでいる所と周辺に異状や変化があれば、それを見つけて報告、対処するのが各種族の「管理人」の仕事となる。


 俺の所に届く報告書の中にも管理人からの報告はかなり多い。一つ一つ見るの大変なんだよなぁ。


「この部屋の罠や設備はしっかりと動いているようだな。きちんと管理しているという事だろう」


 近くの壁を確認するようにじっくりと見回す。時折軽く叩いてみたり、問題ないと言わんばかりに大きく頷いてみた。

 

「さて、ネーファよ。ドヴェルグの居住地はこの近くなのだな?」


「は、はい……。ここから二つ先の区画になります。視察されるのでしょうか?」


「うむ。書類上でしか知らないのでな。一度見ておこうと思う」


 鍛冶の得意なドヴェルグ、とは知っていても、住んでる場所は知らなかった。

 

「では、わたしがまおう様をご、ご案内します!」


 ネーファはそう言って俺の先導を始めた。

 よろよろと頑張って歩幅を広げて前を行く姿が小動物みたいだ。

 管理の仕事をしているだけあって、部屋の構造や仕掛けには詳しい。

 後ろをついていく間、罠にかかる事無く可動壁の部屋を抜ける事ができた。

 


 次の部屋は大きな仕掛けはなく、単純な迷路という構造だった。

 道がわかっていれば迷う事はない。

 念のため道筋をメモしながら後ろをついていく。

 途中でネーファが不思議そうな様子でこちらを見てきたので


「これも視察の一環だからな」


 と答えると、感心したように何回も頷いていた。素直なやつだ。



「お前は幾つの区画を管理しているのだ?」


 攻略の助けとすべくネーファに聞いてみた。

 仕掛けや部屋の構造がわかっていれば、無駄に罠にかかる事もないからな。


「えっと……さっきの部屋と、ここと、住んでる所と……ひとつ、ふたつ……ぜんぶで五つの区画を管理しています」


 指折り数えながらそう答えた。

 五つか、後で残りの場所も案内させるとしよう。

 もちろん外へ向かう方向の部屋は必須だ。

 


「管理の仕事をしている時以外は鍛冶の仕事をしているのか?」


 メモを取りながら、ただついて行くだけでは退屈なので世間話をしてみる。

 管理人に対しては人数に応じて予算から給金を出している。

 だが、それだけで生活できる程ではない。

 主に見回りと報告なので、他の仕事のついでに何名かで交代でやっている事が多いはずだ。

 目の前のネーファの姿からは剣や鎧をつくる姿はあまり想像できない。


「いえ……わたしは下手なので……そういうのはさせてもらえないです」


 あぁ、苦手そうだものなぁ。まだ修行中といったところか。


「家族は鍛冶師をやっているのか?」


 ドヴェルグの武具や細工物は市場でも人気のある商品だ。実際市場での売上上位店舗に何店もドヴェルグの作る商品を扱っている店がある。


「おとうさんはすごく腕のいい鍛冶師で、おかあさんは木彫が得意……でした」


 両親の事を話しながら声に元気がなくなっていった。


「お前の親は今どうしている?」


 先導していたネーファは立ち止まり、こちらを見ずに黙って首を横に振った。


「おとうさんは私が小さい時に戦いで……。おかあさんもここで暮らすようになってしばらくして病気で…」


「そうか……。辛いことを聞いてしまったな――すまぬ」


「だ、大丈夫です。叔父さんのところでお世話になってますからっ」


 明るく振舞おうとしているが、俺は余計な事を聞いてしまったな。

 その後何となく話しかけづらくなり、黙々とドヴェルグの居住地に向けて進んでいった。



「とうちゃくです。ここが……わたし達の住んでる所の入口になります」


 ネーファが手で示した居住地への道はま、るで大きな洞窟の入口だった。

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