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魔王城からは逃げられない  作者: 野良灰
6章 知りたいという気持ちからは逃げられない
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その殺気は何のため

「全く、最近狙われる事が多すぎるっ」


 森の中を方角もよくわからないまま逃げる。

 とりあえずさっき少し話した印象は、こっちの話を聞かなさそうという事だな。

 大体何故あんなに怒ってるのか……。


 心当たりは先程の少女絡みしかない。

 やり取りの中に俺を追ってくる鳥の亜人を怒らせるものがあったとは思わんが……。

 背後から迫る殺気は明らかに俺に向けられている。

 そうこう考えてる間にも、奴は森の中を器用に飛びながら俺に向かって矢を放つ。

 あそこまで殺気と怒気を込めた攻撃なら狙いがわかりやすく避けるのは容易い。

 二本、三本とかわした矢が地面や木に刺さる。

 

「くっそ! どうして当たらないっ!」


 完全に頭に血が上って攻撃が雑だからだ、と心の中でつっこむ。

 次から次へ矢を射ってくるのもそうだ。

 ここまで俺に全く当たってないのだから、何かしら当てる算段をせずにやっても無駄だろう。


 似たような光景が続く森を俺と奴は駆け抜ける。

 返り討ちにしてやってもいいが、それでは俺の目的が果たせるか微妙な所だ。

 この区画に通じる他の道を聞き出したいが、俺に対して怒りを向けている状態で聞いて正直に答えてくれるだろうか?

 もう少しこの追いかけっこに付き合って、落ち着くのを待つしかないな……。

 俺はそう結論付けて逃げ続ける。


 しばらく走って、違和感に気づく。

 さっきから背後に殺気はあれど矢が飛んでこないのだ。 


「矢が尽きたか……そろそろ止まって話を……」


 攻撃手段が尽きた好機と見て振り返って奴の様子を確認しようと振り向く。


 しかし俺から見える範囲に奴の姿はなかった。

 だが、向けられている殺気に変化はない。

 周囲に生い茂る森の木々に溶け込んで出所はわからないが……。

 俺は立ち止まり、目を凝らし耳を澄ます。

 

 目に映るは風に揺れる木々、聞こえるのは風と葉が揺れる音。

 俺に向けられる敵意さえなければ、心落ち着く状況なのだがな。

 さて、どこに隠れているのやら。俺は周囲に奴の気配を探す。


 次の瞬間俺の背中に冷たいものが走った。

 わかりにくくなっていた敵意が膨れ上がって向けられる。

 

「上かっ!」


 その出所を探った時、答えは上だった。

 木々の間を抜けるのではなく、森の上に出てから俺に向かって急降下してきたのだ。

 手には光るナイフが握られている。弓矢だけでなく身につけていたものだろう。


「死ぃぃぃぃねぇぇぇぇ!」


 空から木々の葉や枝に当たる事も気にせず突っ込んでくる。

 枝が折れ、葉を舞い散らせながら、ただただ俺に急降下攻撃を仕掛けてきたのだ。

 スタンと同じで真っ直ぐに向かってくる奴だ。


 避けるか迎撃するか……。

 いや、面倒だ。スタンみたいに向かってくるだけなら手っ取り早い方法をとる事にした。


 速度を増しながら俺に一直線に向かってくる鳥の亜人。

 ナイフを前に出し、もう少しで俺に届くその時に、


「痛いだろうが我慢しろよ!」


 俺はナイフを狙って奴ごと吹き飛ばすように掌底を放った。

 武器が変わっても奴の狙いは殺気が教えてくれる。

 魔力を込めた俺の掌から放たれた衝撃が、奴の速度と力を上回った。

 

「うっ……うわぁぁぁぁ!」


 木を一本、二本と折りながら奴は真横に吹き飛んでいった。

 木が大きな音をたてながら倒れ、森に轟音が響く。

 三本目の木は折れず、ぶつかった奴はそのまま床に崩れ落ちる。


 加減したつもりだったが、奴自身の攻撃の強さが自分自身に跳ね返ったか。

 あの様子だと骨も逝ったかもしれなんな。

 悪いことをしたかと考えながら倒れたままの奴に近づく。


「ま、まだまだぁぁぁ!」


 近づいたのを待ち構えていた奴が起き上がって殴りかかってくる。


「執念深い奴だな」


 その攻撃は先程までと比べてかなり威力が落ちている。

 

「お前じゃ俺に傷はつけられんよ」


 殴りかかってきた拳を左手で弾き、足をひっかけて倒す。


「さて……俺はお前に命を狙われる理由に心当たりが無いし、他にも聞きたい事がある……だから話を聞かせてもらおうか……この魔王にな!」


 俺の声に耳を傾けるしかない状況で名を名乗り、倒れたまま動かない奴の反応をうかがった。

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