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魔王城からは逃げられない  作者: 野良灰
6章 知りたいという気持ちからは逃げられない
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通路を抜けると山林アリ

「フハハハハハ! この娘は俺がもらっていくぞ!」


 木々の間から光が差し込む静かな森の一角に、俺の悪そうな笑い声が響く。


「あぁ……助けてロイド!」


「貴様ぁ! ジュリエッタを離せ!」


 俺は今ロイドという鳥の亜人の目前でジュリエッタと呼ばれたセイレーンを攫おうとしている。 

 ここは森や、山といった環境が再現されている様々な有翼の種族が住む区画。

 二人は種族は違うが恋人同士だ、しかしそれを引き裂く邪魔者が俺だ。

 

 さて、人間の書いた物語で姫を攫う魔王と、助けるために戦う勇者という構図があったが……自分がそうなるとは……。

 涙を流しながら俺の腕の中から恋人へ手を伸ばすジュリエッタ。

 その姿にロイドは翼を広げ、今にも飛び掛ってきそうな形相で俺を睨む。

 そんな顔で睨むなよ。俺だって何故こうなっているか、頭がついてきていないのだから。

 

 今思えば三日前にこの区画を訪れて、二人に出会った時から始まっていたのだな……。

 何故こんな事をしているのだろう? それを整理するために頭の中で記憶を順に思い出す。




 前回の視察から数日、俺はいつもと変わらぬ事務仕事に追われていた。

 スタンは入院した次の日には目が覚めた。しかし血を大量に失い、体がまだ満足に動かせないまま入院継続中だ。

 それに退院しても、祖父母から地獄の特訓の予定がしっかりと入っている。

 ちなみにシアへの特訓は先に始まっていて、昨日会った時の姿は目が虚ろで服も髪も乱れ、印象としてはこの前の戦闘よりボロボロだった。 


 今の仕事のペースから考えて、少し視察に時間を割いても問題ない。

 机の上に山のように積まれた書類の高さから判断できる。

 

 スタンとシアが視察に同行できるのは、二人の予定を考えるとまだ先になりそうだ。

 待っていてやってもいいが、その間ずっと書類と向き合うというのは流石に辛い。

 だから俺は一人で少しだけ先に進む事にした。


 本日の業務を終えてから重傷のスタンを抱えて戻ってきた時に使った転移魔法陣から視察を再開した。

 ここはまだサテュロスの管理する区画なのだが、管理人が死んでしまい今は不在という状況だ。

 結局彼の家から罠や仕掛けについて書かれた書類が消えていたそうだ。

 恐らくヘアリーズ達によって持ち去られたのだろう。

 そのせいで次の管理人が決まっても、しばらくの間この区画の管理は滞ってしまうな。


 とはいえ、完全に放り投げてしまえないのでヒナの部下達が罠の位置や仕掛けについて調べている所だ。

 調査結果を纏めて、次の管理人が決まり次第引継ぎできるようにしている。 

 俺もその進捗状況を確認するために、この区画の地図と罠や仕掛けについての報告書を見ている。

 だから今日の俺の道行きは、何の問題も無く進む

 

 ヒナの部下達は中々優秀で、今ではこの区画の状況は一通りわかっている。

 だがまだ見つかっていない罠があるかもしれないから、今は通路の隅々まで順に調べているとヒナは言ってた。

 最短距離で先へ進む俺と全く出くわさないのはそのせいだ。


 そして今までと違い、俺はサテュロスの管理区画の終わりまで簡単に到達した。

 区画の区切りとして報告書に記されていた扉の先は一本道の長い通路だった。

 先の方がはっきりと見えないが、遠くに明るい光が見える。

 あそこが次の区画だろうな、そう考えながら俺は光に向かって歩いていった。


 光が大きく見えてくるようになると、俺の鼻に草木の匂いが漂ってくる。

 草原か森の再現かと予想していたが、次の区画に入った時……目の前の光景に思わず息を呑んだ。

 抜けた先は、視界のほとんどを緑色で埋め尽くす森。ここがそういう場所だと一望できる山の上だった。

 迷路のような、所謂『ダンジョン』というのではなく、何かしらの地形と自然環境を再現した場所。

 ここに住む者達に合わせた生活のための空間に重きをおいている。

 だが実際ここに侵入してきた敵は、奥へ続く通路を探すのに苦労するだろう。

 何せこんな山の中腹にあるのだから……。


「けど、今苦労するのは俺か……」


 どこかに、もう一方の通路があるはずだ。

 一番早いのはここに住む者に聞く方法だな。まずは住人を探すところからか。


「しかし……本当に広いな……」

 

 あらかじめここが魔王城の中だとわかっていなければ、外に出たのではないかと思ってしまうだろう。

 いや、実際ここまで広いとは……自分の城ながらどういう構造になっているんだ?

 区画ごとの地図ではなく、全体の配置がどうなっているのか気になる。


 目の前の光景と、疑問について考えていると風の音に乗った歌声が聞こえてくる。

 とても綺麗な声と楽しそうな歌が俺の中の疑問すら忘れさせた。

 俺はついその歌に惹かれるように山を下っていった。

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