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魔王城からは逃げられない  作者: 野良灰
5章 生まれもった性質からは逃げられない
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因果応報

 今回は三日間視察に集中できるはずが、全く進めなかったな。

 初日は俺がヘアリーズの巧妙な罠に嵌ったせいで、毒を受けて帰還。

 二日目はスタンがスカルクローの奴に重傷を負わされて帰還。

 三日目の今日は視察自体に行けず……。

 結局進んだ距離自体は極僅かだったしな。

 

 改めて今回あった事を思い出しながら、俺は執務室の机で事務仕事に勤しんでいた。

 本当は今日やらなくてもいいのだが、昨日の今日で視察に俺一人で行ける状態じゃないしな。

 そんな中途半端な気持ちでやってるせいか、仕事の進み具合はかなり遅い。

 

 俺が命を狙われる理由……。

 それが俺の筆の進みを止めていた。

 ずっと無茶してきたし、別に善行ばかりをしてきた訳じゃない。

 誰かの恨みをかってる可能性はあるが、ヘアリーズ達やスカルクローとのやり取りに個人的な恨みというのは感じられなかった。

 

 実は魔王の地位を狙っている奴が裏で糸を引いている。

 これもありそうだが、真正面から俺を倒さないで他の連中がついてくるかどうかが疑問だ。

 魔王城の中には良くも悪くも、俺の力に従っているという者達だって結構いる。


 規模はわからないが、集団だとイオスは言っていた。

 魔王城の中で俺に不満を持つ者を集めているらしいと。

 まぁ、集団で動いているとしても、そんな連中が抱く目的は一つでないのかもしれないか。

 

 イオスの言ってる事を全て信じているわけではないが、現状俺自信を餌として奴等をおびき寄せるのが本当に一番の方法なのかもしれんな。

 狙われているかもしれないからと、執務室にずっと篭るような真似は絶対にしたくないし。


「だが、本当にどうしてこうなった……」


 ついそんな心に浮かんだ呟きが、執務室に俺しかいないという状況で自然と口から漏れた。

  

 そう、元々は来る日も来る日も、ここで事務仕事に明け暮れる日々が嫌だったからだ。

 毎日執務室の同じ光景の中で、書類に埋もれたく無いという気持ちで、この部屋から逃げ出しただけなのに……。

  

「動かなければ変わらなかった、かもしれない……か」


 もし、あのまま書類仕事に忙殺される日々と続けていれば、今回のように命を狙われる事も、管理人が巻き込まれて殺される事も、スタンが大怪我する事も無かったのだろうか?

 この思考の穴にはまって、動く気分じゃ無くなっているのが今日の俺だった。

 そして書類に目を通しても内容が頭に全く入ってこない。

 今見ている書類、さっき見たような気もするが……。


「だめだ! 今日は仕事にならない……」


 こんな状態で仕事をしても正しい判断が出来る訳が無い。

 スタンの見舞いに行くか……その後は市場で今回の事を踏まえて、所持品に増やす物を探してみるとしよう。

 ここで悩んでいるよりも、今度の視察の準備を今の内にしておく事にした。

 机の上に置かれた書類を、敢えて視界に入れないようにしながら俺は執務室を出た。

 そのまま門の広場まで、足取りは重いが歩いていく。



「魔王様に敬礼っ!」


 門の広場についた俺を、今日の衛兵当番の者達から声がかかる。

 

「あぁ、お勤めご苦労」 

 

 簡単ではあるが答えた後、俺は医療施設に向かう転移魔法陣に向かって歩くのを再開した。



「あ、まおう様がいたー! まおう様ー」


 俺を避けるようにしている者達とは別で、堂々と真正面から俺の名を呼ぶ亜人の子供がいた。

 息を切らせながらこっちに走ってくる


「どうした? そんなに走って来なくても、この魔王は逃げも隠れもせんぞ!」

 

 俺に一刻も早く伝えたかった事があって急いでくれたんだと思うが……。

 亜人の子供は持っていた紙を、両手で大事に持って、俺の前に差し出した。


「手紙……? これをどうしたんだ?」


 まさか恋文……はさすがに無いだろうが。

 貰った記憶は全く無いが、世間ではそういう物があるらしいからな、ちょっと可能性を考えてみただけだ。

 大体目の前にいるのは幼いし、男の子だし……さっさとその可能性を頭から捨てる。


「んとねー、あの人がこれを渡してきて欲しいって頼まれたの」


 子供が指差した方向には誰もいなかった。

 自分に頼んだ相手の姿が無く、男の子は小さな首を傾げる。

 

「どんな奴だった? 男か? 女か?」


「えっとねぇ……あれ? どっちだったのかなぁ……」


 渡した相手について聞いてみたが、どうも記憶が曖昧らしい。

 子供だから……という様子ではなく、どうやら幻術の類を使われたようだ。

 

「いや、気にしなくていい。 それじゃあこれは俺宛みたいだから貰っておくな」


 出された手紙を受け取って、礼を言うと男の子は明るい笑顔で走って去っていった。


「さて、中身はと……………これは……」


 封を開けると中には一枚の紙に、一文だけが書かれていた。



『貴様の罪は全て自分で生み出した事……そして全てを腐らせた』


 

 俺の罪は全て自分の行いから出たもの、という意味はわかるが……。

 『腐らせた』という表現がどういう状態かはわかりにくい。

 だが、俺を狙ってきた連中からの手紙には違いないか。


 連中が一体何が不満で、俺の命を奪えば解決するのか?

 言い知れぬ不安が歩みを止めさせるが、正面から来ない戦い方への怒りが俺の背中を押す。


 いいさ、堂々と来ない相手に考えすぎるのも腹立たしい。

 俺はいつも通りにやるだけだ。

 向かってきたら倒し、罠があったら食い破り、怖くて出て来れない相手は無視……それだけだ。


 答えは出ていないが、立ち止まっているのは性にあわないとわかったぞ。

 スタンの見舞いに向かう俺の足取りは、かなり軽くなっていた。

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