そして戦いは終わり……
グスタフが去り際に行った言葉を信じて俺たちは前へ進んだ。
意識を失ったままのスタンを俺が背負い、シアが兄の大剣を持ってついてくる。
俺の目に映る通路の様子はこれまでとほとんど変わらない。
だが、一つだけ大きく異なっている点がある。
それは通路に仕掛けられている罠が、ことごとく起動し終わった状態だったという事だ。
しかしなぜそんな状態であるかは、何となくわかっていた。
恐らくグスタフがとった行動のせいなのだろうと。
「あいつなりの気遣いのつもりなんだろうな」
「え?」
あの無口なゴーレムが、途中の罠をわざわざ起動させながら歩いていく様を想像すると笑いがこぼれた。
それをついつい口に出してしまったようだ。
シアがきょとんとした表情でこちらを見ていた。
「いや、なんでもない、唯の独り言だ。罠に嵌る可能性が少ないし、早く転移魔法陣を見つけるとしよう」
罠が起動して使い物にならなくなっている床を目印に、俺達は先へ進んだ。
しばらくいくと小部屋があり、その中に目的の魔法陣を見つける事ができた。
助言通り、来た道を戻るよりもかなり時間の短縮になる。
「あれで戻れそうだな……」
そして俺達は迷わず魔法陣の上に乗った。
光に包まれ、視界が開けた時には既に門の広場の一角に戻ってきていた。
そのまますぐにスタンを魔法医に診てもらいに向かう。
「もうすぐだから、そのまま死んだりするんじゃないぞ」
目を閉じ、小さな呼吸を繰り返すスタンに声をかける。
こいつの体はもう傷だらけでぼろぼろだ。
全力で医療施設に向かって走る俺と、シアも心配そうな顔で後ろをついてきていた。
「おい! 重傷者だっ! 急いで診てやってくれ!」
施設につくなり俺は周りの目の事など忘れて叫んでいた。
最初は事態を理解できず呆然としていた周囲の中から、羊型の亜人が俺に近づいてくる。
格好からしてここで仕事をしている者だろう。
「ま、魔王様一体――」
俺が突然現れた理由を聞こうとするが、すぐに俺の腕の中にいる重傷者に気づいた。
「これは……処置しますので、こちらに運んでいただいていいですか!」
左手側にある通路の先の部屋を指したので、そこまで急いで運び入れた。
「私が応急処置しますので、先生を呼んできてください! 大至急!」
その間に羊の亜人が近くの同僚に指示を飛ばす。
呆気に取られていた者達も、ここでようやく事態を少し理解できたようだ。
ここで働く者達は、処置の手伝いをする者や、治療の準備に行く者等々に動き出してくれた。
治療を受けに来ていた者達は、俺やスタンの事を見て、心配そうな顔をしている。
スタンを部屋に運び入れ、ベッドに寝かせる。
すぐに先程の羊の亜人が薬を持ってきて処置を始める。
てきぱきとした動きで処置をしながら、呼吸や脈も含めて体全体の傷の状況を確認していく。
そこへ先程魔法医を連れてくるように言われていた者が戻ってきた。
「先生こちらです!」
「やれやれ……重傷者ってのも珍しいが、一体誰がそんな大怪我なんてしたんだい?」
山羊のような角に毛深い手足、露出大目の服装に白のマントを羽織った女魔法医が現れた。
入ってきた当初は面倒そうな表情だったが、横たわっているスタンを見て、すぐに顔つきが変わる。
「これは……かなりの重傷者じゃないか! おい! 急いで施術の準備だ。応急処置が済んだらすぐに運び込みな!」
魔法医からの指示が飛ぶ。部屋は一気に慌しくなってきた。
「先生。現在確認できた傷と状態について説明しますね」
羊型の亜人が先程スタンを調べてわかった事を報告する。
それをしっかりと聞いている魔法医。
「なぁ、こいつは助かるか?」
俺はほとんど医療の知識は無い。だから素直に質問するしかできなかった。
山羊の角の魔法医は傷だらけのスタンを一目見てから、俺の方を向いて言い切った。
「大丈夫、あたしが必ず助けてやるよ」
ここは医者に任せるしかない。




