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魔王城からは逃げられない  作者: 野良灰
5章 生まれもった性質からは逃げられない
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戦士として

 自らスタンの前に身を晒したグスタフ。

 何故わざわざそんな事をするのか?

 そう聞いても多分理由は説明できない気がする。

 俺が逆の立場だったら、今の奴と同じようにするのではないか?

 ただ漠然とそう思う、それだけが根拠だ。


 敵でもなく、自分と同じように戦う者とも思っていなかった。

 自分よりも遙かに力の劣る、場合によっては庇護の対象として見ていた相手が見せる戦士の矜持。

 その様を前に、先達の戦士としての自負が応えようとさせる。

 小難しく理屈を考えるとこんな所か。

 

 実はもっと単純に、先を行く者として挑まれたのなら、逃げるなんて格好の悪い真似はできない!

 これくらいの方がわかりやすいが、それこそ子供の発想な気がする。

 大人としてはどんと構えて受け止める度量を示す、としておこう。


 自分の中で目の前の光景について考え、結論がでた時に事態は動いた。

 スタンが自らの剣を肩に担ぐように後ろに大きく振りかぶった。

 その重さに引きずられ、体が後ろに流れようとしたのを何とか踏みとどまる。


「……コイ」


 グスタフは防御の態勢をとる事も、構える事もせずに堂々と立っているだけだ。

 単なる命の奪い合いなら、こんな瀕死の相手が攻撃するのを待つ必要なんてない。

 だが、今やっているのは戦士としての意地の張り合いだ。

 だから自分より格下だと思っている相手の攻撃を、あからさまに避けたり、潰したりはできない。

 その点だけが今のスタンにとって有利な部分。


「あぁ、どっちにしても……一回の攻撃しかできねぇ」


 スタンはそう言って、剣を握る手と支えている足に力を入れた。

 さっきまで死にかけていて虚ろだった目に光が灯る。

 

「じゃあ、いくぜ……ゴーレムのおっさんっ!」


 いつもと同じように足を前へ踏み出す。

 攻撃に全身の力を乗せるため、両の足が動きと流れの全てを支える。

 大剣をしっかりと握り、重さを感じさせない速度でしっかりと振り下ろす。


 今まで培ってきた一連の動きが体にしっかりと馴染んでいて、修練の日々がそれを同じように実行させた。

 グスタフが腕を上げ、体を庇うような防御の動きをとる。

  

 スタンの剣撃は歪な軌道でグスタフに届く。

 黒銀の腕に当たった次の瞬間、剣は手を離れ、持ち主と同じように床へと転がり落ちていった。

 現実は非情だ。死にかければ、窮地に立てば逆転できる力が湧いてくるなんて都合のいい話は無い。

 今のスタンの体では、戦おうとする気持ちが求める動きができない。

 

 だが、唯一いつもと同じか、それ以上だった点があった。

 横から見ていた俺でもわかる。

 目だけは力を持ち、倒れる直前までしっかりと目標を見据えていた。

 

 グスタフを倒すどころか、傷つけるような攻撃はできない。

 俺もそう思っていたし、実際に受ける奴ですら同じように考えていただろう。

 しかしスタンの強い光を持った目を見て、まさか……と横から見ていた俺ですら思った。

 それが反射的に防御の姿勢をとらせたのだ。

 

「……オレガマチガッテイタ」


 グスタフがしゃがみ、再び意識を失ったスタンの息を確認するように触れる。

 

「メザメタラ、ツタエテクレ。ツギハ――」


「知らん。次に会った時に自分で伝えろ」


 伝言を言い掛けるグスタフを遮って、俺はスタンを再び抱え上げる。

 奴は俺の顔を見た後、スタンをしばらく見つめてから言った。


「ソウダナ……ソウシヨウ」

 

 そして立ち上がり、ヘアリーズのいる方へ戻っていった。

 今度はまるで、俺達に罠の無い場所を教えるような足取りで。 

 

「何がしたかったんだい?」


 ヘアリーズが相棒にそんな疑問を投げかける。

  

「……サァナ」


 ただ短く答えるだけだった。


「あぁそうかい。まぁいいや……あたいたちも帰ろうか」


 こちらに背を向け、来た通路に向かって歩き出す。

 その後に続くグスタフが立ち止まり、振り返らずに言った。


「コッチヘススメ。ソノホウガハヤイ」


 それだけ言って通路の奥へ二人は消えていった。


「魔王様……」


 シアが不安と心配が入り交じった顔で俺を見る。


「信じて問題無いだろう。あいつも認めたんだろうしな」


 子供扱いしていたスタンを、未熟ではあるが自分と同じ戦士として認めた。

 だから、こんな所で嘘をついたりはしないという確信がある。

 何故なら俺だって同じ気持ちなのだから。

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