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魔王城からは逃げられない  作者: 野良灰
5章 生まれもった性質からは逃げられない
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両の手

 スタンを落とさないように、床に膝をつく。

 今にも途切れそうに弱いが、息をまだしてくれている。

 絶対助けてやるからな……。

 だが太ももに流し込まれた毒のせいで下半身に力が入らない。


「二日続けて毒の使い手に狙われるとはな……全く……ついてない」


 息を荒げながらスカルクローの方を見た。

 奴は口元に手を当てて笑いをこらえているようだ。


「ヘアリーズよりも強い……毒なのか?」


 堪えるだけでなく、身震いまでしているスカルクローに問いかける。

 昨日は結局動けないまま、戦いが終わってしまう程の毒を受けてしまった。

 

「アイィィィィ! あんな不細工の毒よりも強力デスゥゥ! 動けなくなったら刺す! 刺すぅ! サスゥゥ!!」

 

 不細工呼ばわりしているが、知り合いか仲間である事は間違いないか。

 俺に毒を撃ち込んで、これからの愉しみを想像したために理性とか品格とかはどこかに消し飛んだらしい。

 口を大きく開けて嗤いながら、右の三本爪を俺に向けて伸ばしてきた。

 指を手ごと動かす事で軌道を変え、鞭の様に向かってくる。

 スタンに刺さらないように、覆いかぶさるように守りながら体で受け止めた。

 俺の肩、腕、脇腹にそれぞれ短剣程の深さで突き刺さる。

 

「イィィィィィィ! 肉をえぐる感覚っ! コレ大好キィィィィィィ!」


 突き刺したまま傷口を広げるように動かしてきた。

 血が流れ出ている事が、服の下で滴る血の感触でわかる。


「ぐっ! なぜ……お前達は俺を狙う? 何が目的なんだっ!」


「アナタみたいな偉い人、偉そうな人を貫イテッ、命乞イサセテッ、それからいたぶって殺すの大好キナノォォォォ!」


 再度、両手の指全てを伸ばして俺を狙う。


「今度はもっと深く、大きく抉ルノォォォォ!」


 左右それぞれの指を束ね、槍というより銛といった形状で伸ばしてきた。

 俺の動きを止めて、いたぶれる事がよっぽど嬉しいのだろう。

 攻撃がかなり雑になってきている。だめだなこれは……

 

「……わかった、もういい。会話にならん相手に、これ以上時間をかけるのは無意味だ」


 スタンを左腕で支えながら、俺は右手で先に向かってくる奴の右指を鬱陶しい虫にするように叩き落とす。 

 そして、次に来る奴の束ねられた左指を三本共掴み取る。

 束ねられているから握りやすくていい。


「なっ!! 我の攻撃をそんな簡単に……イヤそれよりも……な、なぜそこまで動ケルッ!」


 奴の左指を握ったまま、驚愕の声を上げるスカルクローの姿を眺めつつ立ち上がる。

 

「昨日毒を流し込まれる感覚を久々に味わったとこだからな……これが刺さった時にすぐにわかって対処した、それだけだ」

  

 握ったままにしている奴の左指に力を入れながら答えてやった。

 さすがに昨日の今日で毒を抑え込めないようでは魔王の名が泣く。

 

「さて、俺はこっちをへし折っておこう」


 枯れ木が割れるような音をたてながら、奴の左三本指がまるで自分自身を指差すように反対方向へ折れ曲がった。

  

「ウギャァァァァァァァッ!」


 今日一番の絶叫をあげながらスカルクローが膝をつく。

 罠は特に起動しない。やはりあそこには無いのか。

 確認後、俺は足に魔力を込めて奴に向かって跳躍した。

 指を折られた痛みでこちらの次の動きに全く気がついていない。


「シアっ! 右はお前にやる。兄の分もやってやれっ!」


 さっき約束したように、シアが今いる位置の正面に向かって強く蹴り飛ばした。

 シアの目の前に奴の体が転がる。

 既に用意はできているようだ。


 スタンの剣をすぐ横に置き、自分の武器を両手で持ち冗談に振りかぶっている。

 その姿をみたスカルクローが悲痛な声を漏らす。

 まぁ……ここから見てもかなり怖い。目の前でみたらどれだけのものか。  

 そしてシアは一言も発さずに、大鎚が奴の右手目掛けて振り下ろされる。


「アァァァァァァァァァ!」


 シアの一撃は雷の如く、目にも留まらぬ速さと轟音を上げ、奴の右手は無慈悲に潰れていた。

 自分の両の手の無残な有様に、先程に負けず劣らずの大声を上げる。

 右は最早形容しがたい状態になり、腕と繋がっているのが不思議な程だ。

 左も畳まれたように折れ曲がったまま動かない。


「シアっ! まだ攻撃してくるかもしれん、こっちにふっ飛ばしておけ!」


「……はい」


 まだ収まらぬ怒りをぶつけるように、思い切り目の前の相手を吹き飛ばした。

 砕かれた骨の欠片を撒き散らしながらスカルクローは宙を舞った。

 

「飛ばしすぎだ……」


 俺の上を越えて部屋の反対側まで届くほどの飛距離だ。

 そして今回は安全地帯を選べない……床に体が着いた瞬間罠が起動した。

 床から針が飛び出し、奴の全身を貫いたまま持ち上げる。

 そのままスカルクローはぴくりとも動かなかった。

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