異形の骨は嗤う
俺達はスタンを連れたスカルクローを追って通路を走る。
既に奴の姿は視界に確認できていない、
しかし床に残る血痕が行く先を教えてくれた。
「兄様は……大丈夫なのでしょうか……」
シアが兄を心配して消え入りそうな声色で呟く。
彼女の左手には、さっきの部屋で拾ったスタンの大剣が握られていた。
先程血溜まりの中で横たわっていたスタンは、自分の愛用の剣を手放す程の状態だった事を物語っている。
「大丈夫だきっと。だが一刻も早く助けてやらないとな」
気休めにしかならないかもしれないが、俺はそう答えるしかできなかった。
俺の中を不安と怒りが黒く、ただ黒く塗りつぶしていくようだ。
その後は互いに無言のまま、地面に残された道標を頼りに走った。
そして新たな部屋の入り口に差し掛かった時、異形な姿のアンデッドの姿を部屋の中に捉えた。
「ククク……ちゃんと残したシルシを辿り、追いかけてこられたようデスナ」
スカルクローは俺達に向かって楽しそうな声で言った。
左脇に抱えられたスタンの目は閉じられ、腕はだらんと垂れたままぴくりとも動かない。
「兄様っ! 返事をしてくださいっ!」
「スタンは生きているのだろうな? ふざけた発言を笑って流せる程、今の俺は寛容ではないぞ……慎重に言葉を選んで答えろ」
自分でも驚くほど口から出た声が冷たい。
何故かはわかっている。既に俺が想定しているのは問いに対して「死んでいる」と奴が答える事だ。
だから頭の中を占める考えは唯一つ、奴をどう砕き、潰し、割り、引き裂き、捻り、抉り、へし折って自分のした事を後悔させながら殺すかという事だけだ。
「あぁ~勿論デストモ。どこを貫けばどのくらい血ガデルカ、どの程度までなら死ナナイカ、我は詳しいノデナ……ククク」
スタンはまだ生きている。奴の言葉を完全に信じる訳ではないが、安堵している自分が俺の中にいる。
だが黒く塗りつぶされた部分の俺が言う……「ならば早く奴を殺して助けるのだ」と。
「魔王様……そこまで殺気を隠さずに向ケラレルト、既に空洞になった我が胸が今一度高鳴リマスナ……」
そう言って奴は笑い、体を曲げて俺を下から見上げるようにして青白く光る目を輝かせながら見つめてくる。
そして顎が外れたのかと思うほど大きく口を開いた。
「アナタの全身を串刺しにっ! 穴と穴も繋いで千切れる程に貫いて、貫いて、ツラヌキテェェェェェェ! アァ……何てスバラシイィィィィィ」
取り繕わなくなった奴の本性が垣間見えた。
狂って腐り落ちているのは見た目だけでなく、中身も同様のようだ。
「貴様の趣味に付き合う理由は無い、お前だけがここで朽ち果てろ!」
俺が奴に向かって飛び出すと同時にシアも俺に続いて飛び出す。
「先程と同じ台詞ニナルガ……そのあたりは気をつけた方ガイイゾ」
さっきの部屋と同じ台詞を俺達に向かって言う。
思い出すのは足元の罠。そして俺の右足が踏んだ場所が再び沈み……周囲数箇所の床の一部が開いた。
「ちぃっ!!」
飛び出してきたのは槍、というより針といった形状の鋭い罠が俺の周囲から狙ってくる。
前方の二本、首と腹の辺りを狙う軌道で向かってくる。
横と後ろにも気配を感じるが、振り向いて確かめる暇は無い。
首の辺りを狙う針は体を傾けて避ける。
腹に向かってくる針は魔力を込めた手で受け止めた。
だが、正確な狙いを感知できなかった横と後ろから向かってきた針は僅かに体に刺さる。
致命傷とは程遠い掠り傷程度の傷が俺の体に刻まれる。
「くぅっ! この部屋も罠ですか……」
シアも同様に罠を踏んだらしい。
上半身を狙ったものは避けたみたいだが、左足の太ももに針が少し食い込んでいる。
俺達のそんな状況をスカルクローは注意深く見ていた。
「なるほどナルホド、魔王様は流石デスナ。魔力で強化されるとその程度の罠では大して傷ツカナイ……ドウシタモノカ」
右手を顎に当てながら考え中といった様子だ。
「シア……お前はそこにいろ。俺が奴を目の前に吹き飛ばしてやる」
「しかし!」
動かないように言った事に抗議の声をあげるが、俺はそれを手で制止した。
「すぐに運んでやるから少し待っているといい」
俺は再び奴に向かって距離を詰める。
針が飛び出してくるが、俺が駆け抜ける速度の方が速い……進行方向を遮る針だけを止めて進めばいい。
後数歩で手が届く。それだけの距離まで近づいた時、奴が動いた。
「ソウデス……こうシマショウッ!」
スカルクローはそう言って、左脇に抱えていたスタンを横に大きく放り投げた。
「なっ!」
奴の行動に対して一瞬の驚きの後、宙を舞うスタンの体に目がいく。
「後数箇所串刺しにナレバ、あの子鬼は助からないデショウネェ」
俺の耳にスカルクローの嗤うような声が聞こえる。
言われなくてもわかる。
奴の狙いも含めてそれはわかっている。
だが、それでも俺は動くしかなかった。
進んでいた足を止め、スタンを受け止めるために俺も横に跳んだ。
スカルクローに背を向けて、スタンを守るように大事に受け止めた。
そして次に来るであろう二つの攻撃に備えて魔力を集中する。
足から着地はできるが、床を踏んだ時に予想通り罠が起動する。
スタンを抱いているから手は使えない。
腕の中の仲間を庇う様に体で針を止める。
強化しているために刺さりはしない。
だが次に来るであろう攻撃を防ぐため、振り返るように頭を動かして奴の姿を確認する。
「モラッタァァァァァ!」
スカルクローの右手の指と爪が先程と同じように伸びてくる。
俺の首から背中辺りを狙っているようだ。
狙える場所が多いのと、針を体で止めているために避ける余裕は無い。
ならば、思いつく選択肢は一つ。
背中に魔力を集め、強化する事で防御するしかない。
そして背中で奴の三本指の攻撃を止めた。
爪が刺さるが、さっきの罠を受けた時とダメージは大して変わらない。
スタンは取り戻した、後は奴を倒すだけだ。
だが、その時俺は脚に最近味わった感覚が再びある事に気づく。
太ももの辺りに何かが三つ刺さっていた。
スカルクローの方を見ると、奴の左の指が伸びて俺の足に刺さっている。
「右だけとイッテナイィィ! 魔王様の肉に刺さる感覚……もっとモットォォォ!」
奴が俺の脚を貫いた歓喜を含んだ狂った声をあげる。
だが、これは貫いただけではないな……
「貴様も……毒か……」
俺の問いに奴は声は出さず嗤っていた。




