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魔王城からは逃げられない  作者: 野良灰
5章 生まれもった性質からは逃げられない
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発見

 薄暗く、少し湿った空気が漂う通路を俺達は走った。

 俺の攻略メモを見ながら、ただ最短の道を走り抜けた。

 だが、スタンの姿を見つける事はできなかった。

 昨日休憩をとった場所で、今日は休めない。

 俺とシアが抱く不安を拭い去るには、スタンの無事な姿をこの目で見るしかない。

 だから、俺達は前に向かって足を前に出し続けた。


 そして昨日ヘアリーズとグスタフの二人と相対した部屋に辿り着く。

 ここにもスタンの姿はなかった。

   

「さらに先に進んだか、シア……ここからは道も、罠の有無もわからないから気をつけろ」


 気をつけながらも急いで進む。

 言葉にするだけでわかる程、困難な事をやらなくてはいけない。


「はい。魔王様、私は大丈夫ですから急ぎましょう」


 それはシアも理解している。覚悟を決めた顔で俺に対して頷く。

 危険だとわかってはいるが、俺達は先に向かって再び走り出した。

 

 部屋から出て、しばらくは分岐も罠もなかった。

 通路にはずっと俺達が走る音しかしない。

 いくつの角をどっちに曲がったかも覚えていない。

 

「うっ!」


 踏み出した右足が踏んだ地面から伝わる感触がおかしい。

 足があるはずの床を踏み抜いて沈んだ。

 次の瞬簡に足首の上辺りに痛みが走る。

 ヘアリーズが最初俺達に出会った時に、挟まれていたのと同じトラバサミだった。

 右足が固定されて、前のめりに倒れそうになるのを左足を前に出して堪える。


「魔王様っ!」


 シアが俺の動きを見て立ち止まる。 

 

「この程度なら大丈夫だ。ここからまた同じようなものがあるかもしれん、シアは俺が踏んだ場所を同じように踏んで進め」 

 

 俺の右足を挟むトラバサミを、力で引き剥がす。

 不意を衝かれたとはいえ、並んだ鋭い刃は大して刺さっていない。

 だが、シアだと危ないかもしれない。

 俺は走る幅を小さくして再び進む事を再開した。


 しばらく進むと、通路の先の床から何かが飛び出しているのが見える。

 近づいてくるにつれてその正体がわかった。

 トラバサミだ。しかもその並んだ刃に赤い血がついている。

 立ち止まってその血を指で触れてみる。 

 まだ完全に固まってはいない。


「恐らくスタンだろうな。ここを通ったのはそんなに前ではない……先に進むぞシア」


「はいっ!」


 あそこでスタンは罠にかかったのだろう。

 そして足に怪我を負ったに違いない。

 通路に少しだが血が滴り落ちた痕が残っている。


 血の痕の間隔からみて、あいつも走っていると思う。

 だがこれで分岐があっても、どっちに行ったかわかる。

 その後分岐も出てきたが、床の血痕を頼りに進んだ。


 しばらく進んだ後、俺の鼻に嫌な臭いがした。

 これは昔嫌というほど嗅いだものだ……間違いようがない。

 

「シアっ! この先から血の臭いがする……急ぐぞ!」


 シアが黙って頷き、大鎚を持つ手に力が入っているのが見てわかる。

 どうやら前の部屋から漂ってくるようだ。

 俺達が部屋に入った時、目に映ったのは赤い血溜まりの中で横たわるスタンと、すぐ横に立つアンデッドの姿だった。


「スタァァァァン!!」


「に、兄様っ!!」


 俺は意識せずに横たわる仲間の名を叫んでいた。

 だが、スタンはぴくりとも動かない。

 反応したのは横に立っていたアンデッドだけだった。


「誰ダ? 折角の愉しみの邪魔をスルナ」


 青白く光る両の目でアンデッドがこちらを見る。

 こいつも見たことの無い奴だ。

 意思を持つスケルトンがボロボロのローブを身に纏っているという姿だ。

 だが右手だけは異形だった。

 左手は普通だが、右手の3本しかない指の爪が全て片手剣ぐらいの長さがあった。


「マァ、反応が少なくなって飽きてきたトコロダ。次はお前達で愉しむとスルカ」   


「貴様ぁぁぁぁっ! 砕けて死ねっ!」

 

 スタンの動かない姿と、その状態にした奴への怒りを拳に込めて殴りかかる。

 しかしその時異形のアンデッドの指が俺の方に向けられた。

 次の瞬間、指が急に大きく……いや! 俺を貫くために、槍三本分はあろうかという距離を伸びてきた。

 咄嗟の反応で服を掠られた程度で避ける事ができた。


「ホォ、初見で今のを避けるカ。 そっちの娘も良い反応ダ」


 俺に向かって指を伸ばすだけでなく、シアの方にも攻撃を加えていた。

 シアも直撃は避けて大鎚で受け止めたようだが、今ので警戒レベルを上げたようだ。


「自慢の指を折られてなくなってしまう前に、スタンをこっちに返した方が身の為だぞ」


 確かに初見では驚いたが、来るかもしれない攻撃については恐れる必要が無い。


「ン? ……ソウカ思い出したゾ。 魔王サマ……お早いオツキデ……クククククク」


「笑ってられるとはどういう神経をしている……力ずくで返してもらうぞ!」


 再び距離を詰める為に、目の前のアンデッドの右手の動きに注意しながら駆け出す。

 しかしそれを見て奴は再び笑う。

 

「その辺りは気をつけた方ガイイゾ」


 そう言って奴は左手でスタンを抱え、右の指をこちらに向けた。

 来るか! と思ったが、狙いは別だったようだ。

 俺の右足を再びトラバサミが襲った。

 奴の所までいけず立ち止まってしまう。

 

 しかし俺の横を走り抜ける影があった。


「兄様を離せぇぇぇぇ!」


 シアが大鎚を振りかぶって奴に攻撃を加えようとする。

 

「その距離ではどうする事モデキマイ」


 奴の右の指が順にシアを目掛けて一瞬で伸びる。

 咄嗟に横に跳んで避けた。

 しかしその間に奴はスタンを抱えて逃げ出した。


「ここではツマラン。返して欲しければ追ってくるがイイ。我が名はスカルクロー……さぁ、愉しもうゾ」


 通路の先に奴の姿が消える。

 俺の邪魔をするトラバサミを引き剥がして後を追う。

 逃がすかよ……スタンは返してもらうし、お前は絶対に許さん!


 俺とシアはスカルクローと名乗るアンデッドを追って、奴が消えた通路へと駆け出した。

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