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魔王城からは逃げられない  作者: 野良灰
5章 生まれもった性質からは逃げられない
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視察の目的

「生贄というのは違いますねぇ。供えられた相手の方が苦労しそうですし」


 イオスは俺に胸倉を掴まれながらも変わらぬ様子で話を続ける。

 俺が詰め寄っているのをヒナは止める事はせずに一歩下がって眺めているだけだ。 


「囮……というのは否定しませんよ。そういう意図もあります」


「貴様っ!」


 掴む手に力が入る。

 イオスの表情が一瞬苦しそうになったが、すぐに普通に戻るのはある意味すごいと思う。


「魔王様……勘違いなさっていませんか?」


「……どういう意味だ?」


 イオスの笑顔が消え、目が真剣さを物語る程厳しくなった。

 俺の背中に冷たいものが走る。

 その事が気づかれた、という訳ではないだろうが、またいつもの笑顔になる。


「私達は貴方の下で結束して戦い抜いた……しかし古参はともかく、新たに取り込んだ勢力の中には、魔王様を良く思わぬ者達だっているのですよ」


 新たに取り込んだ勢力、俺の事を良く思わぬ者達、という言葉を聞いて思い出した。

 確かに戦いに勝った結果、取り込んだ者達が絶対の忠誠を誓っているとは必ずしもいえない。


「それに魔王城(ここ)は広いですからね。そういう者達がどこに紛れているか……飛び回っている私ですら全てはわかりません」


 額に手を当てながら「困ったものだ」と身振り手振りで表現する。  

 

「仮にさっき仰っていた二人を探すように通達しても、情報は恐らく集まらないでしょうね」


「だから……囮としてそういう奴等をおびき寄せろ、とでも言うのか?」


 探して駄目ならおびき寄せる……有効な手段ではある。

 頭の片隅で納得する自分もいた。

 しかし、俺の感情を逆なでするようにイオスは嫌な笑顔ではっきりと言う。


「えぇ! そういう事です!」


「イオス! 貴方ねぇ……魔王様にそんな真似をさせる事を認めるわけないでしょう!」


 一歩引いて見守ってくれていたヒナが俺の代わりに怒った。

 しかし、怒ってくる相手に対して臆さずにイオスは言う。


「昔とそう変わらないでしょう? 魔王様が突撃し、周りの者達がそれを支える。あの頃と何も変わりませんよ」


「あの頃とは違います! 戦場と魔王城での事を一緒にしないで!」


 ヒナの顔がさらに赤くなり、口調も強くなる。 

 イオスの方は特に目に見える変化は何もない。

 このままこの二人の言い争いに発展しても特に益はない。

 それに俺にも考えがある。


「わかった。イオス、お前の言うように、視察をしながら囮にでも何にでもなってやろう」


「魔王様!?」


 突然の俺の発言にヒナが驚いた顔でこちらを見る。

 俺が逃げるつもりは無いのは前と変わらない。


「だが、お前の掴んでいる情報と見立てを全て聞かせろ」


 掴んでいた手を離し、イオスを解放する。

 俺とヒナによって乱れた服装を整えてからこちらに笑顔を見せる。


「全てはわからなくても、少しはわかっているのだろう?」


 さっきこいつは言っていた。俺の事を良く思っていない連中がいる、自分でも全てはわからない、と。 


「……魔王様の仰せのままに……」


 仰々しい動きをしてから俺の命令に対しての答えを話し出した。


「相手は恐らく組織化されている連中、もしくは一定数の集団です。さっきの二人が所属しているかどうかの確証はありませんが」


 単独ないし少数の奴等ばかりでは無いという事か。とりあえずイオスの話を黙って聞く。


「数年前から魔王城の各所で、魔王様の中傷をしていたり、快く思っていないと言われていた者が姿を消しているのですよ」


「誰かがそういう連中を集めていると?」


 イオスは俺の質問に対して頷いた。

 誰にも気にされず自然に姿を消した……なんて事が続くのはないだろうしな。 

 

「まぁ、魔王城内に住む者達の数や居場所は把握していませんから、中には誰にも知られずに命を落とした者もいるかもしれませんが」


 申請や申し立て、報告等が無かった事柄はわからないのが実情だ、とイオスは言う。

 ヒナもこれに対しては頷いていた。


「ただ、魔王様を良く思わない連中を集めているのなら、今後襲ってくるでしょうね。玉座や執務室にいる時を狙うよりはよっぽどやりやすいでしょうから」


「今回は視察が始まって、大して時間が経ってないのに、早速襲われたからな」


 俺はそう言った後、イオスの目をじっと見つめた。


「そうですとも! そうですともっ! 行動が早くて驚きですよね!」


 大げさに驚いているとわかる声をあげる。

 こいつの真意がどこにあるのかは本当にわからない。

 

「全ては魔王様が進んでいかれる内に明らかになってくる……でしょうね」


 だから、おびき出す囮も兼ねて視察をか。

    

「俺に言っておかないといけない事はもう無いのか?」


 そう言うとイオスは唸りながら考えてから言った。


「もうありませんね」


「そうか……」


 イオスに負けず笑顔で、拳骨を奴の頭に垂直に打ち下ろした。 

 

「痛っ! 一体何を……」


 全力には程遠い力ではあるが、少しは痛かったらしい。

 整えていた金髪が乱れ、痛そうな表情を見て少しだけ溜飲が下がった。


「俺を勝手に利用しようとしていた事と、一切黙っていた事に対する罰だ」


 俺に叩かれるイオスを晴れ晴れとした顔で見ていたヒナも頷く。


「なるほど……では喜んでお受けするしかないですね……でも結構痛いんですが」


 頭をさすりながら俺に対して言ってくる。   


「ヒナに叩かれるよりはマシなはずだぞ」


 今度は俺がヒナから強い抗議の視線を感じた。

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