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魔王城からは逃げられない  作者: 野良灰
5章 生まれもった性質からは逃げられない
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調査依頼と結果

 スタンの様子は気になるが、まずは俺を狙った奴等についての情報を集めないと……。

 俺は足早に執務室へ向かった。

 

 部屋の主がいないせいか執務室にヒナの姿は無く、ここで待っていても仕方がないし、こちらから探してみる事にした。

 まずはヒナや他の文官達が普段詰めている部屋に向かう。

 しかし、廊下の向こうからこっちへ歩いてくる見慣れた姿があった。


「おーいヒナ。ちょっといいか?」


 まだ戻ってきているとは思っていなかったのだろう、俺が声をかけたら驚いた表情でこっちを見た。

 

「魔王様? なぜここに……今朝でかけられた所では?」


 言ってる事は最もだ。俺だってこんなにすぐ戻ってくるつもりはなかった。


「あぁ……実はだな……」


 さっきあった出来事をヒナに説明した。

 しかし話をする内にヒナの顔が段々厳しくなっている。

 

「つまりその二人についての調査を依頼したく――」


「魔王様っ!」


 すごい剣幕で俺の名を呼んだ。 

 そのまま俺に詰め寄ってきた。


「お体はもう大丈夫なのですか? イオスのせいで視察がこんな事にっ。もう危険な事はお止め下さい!」


 まぁ……こういう反応になるよな……。

 査問の時ですから怒っていたのだから、実際危険な目にあったと聞けば抑えてた感情がでてくるというものだ。


「ヒナ、はっきり言っておくが俺はこの程度で止めるつもりはない」


 ここで曖昧な答えをしてもヒナには通じない。

 それくらいなら見抜いてくるだろうしな。


「それに……あいつ等は一応俺の命を狙ってきたとはいえ、どこまで本気だったのかわからない。だから調べて欲しいのだ」


 ヘアリーズの方は俺の事を殺すと言っていたが、グスタフはそのつもりだったとは思えない。

 もし命を奪うつもりならスタンの攻撃行動を排除して向かってきていただろう。

 あの時の二人の様子を思い出しながら考え込んだ。

 しかしヒナはこれくらいで納得したりはしない。

 

「でも! 魔王様が危険な目にあわなければならない理由はないはずです!」


「廊下でそんな大きな声をだして……貴女らしくもないですね」


 俺に対して抗議の声をあげるヒナとの間に割り込んでくる声がある。

 相変わらず感情の感じられない笑顔を浮かべた男がそこにいた。


「……イオス」


 魔王城内を常に飛び回っていて、俺以上にここにいる事が珍しい奴の名を呼んだ。


「どういう風の吹き回しだ? お前とこんな短期間に再び会うとはな」


「いえいえ、特に理由はありませんよ。ただ……何となく戻ってきただけです」


 こちらが必要な時ですら会えない男が何を言うか。

 タイミングが良すぎる事すら気に入らない。

 

「さて、魔王様。フィーナがこのように声を荒げるような出来事があったのですか?」


 顎に手をあて、俺に笑顔で聞いてくる。

 先程ヒナにしたように俺は説明した。

 その間ヒナは黙って頬を膨らませながら、無言でその様子を見ていた。


「なるほどなるほど。その女の方は心当たりがありますねっ」


 話を聞き終えたイオスが、急にそんな事を言う。


「なんだと? まさか……お前の知り合いとでも言うのか?」


 半分本気の、半分冗談で「お前の手の者で、貴様の命令で俺の命を狙ったとは言わないだろうな?」と聞いてみたいが、ヒナの前でそんな事を聞いたらどうなるやら。


「いえいえ、種族に心当たりがあるというだけですよ。お聞きした特徴から、恐らく『マンティコア』でしょう」


 『マンティコア』。犬や狼のような手足に蝙蝠の翼、サソリの尾を持ち合わせる異形の種族。

 イオスはそのまま話を続ける。


「但し私も実際に会った事があるわけではありませんよ。とっても、とっても!珍しい……個体数の少ない種族ですからね」


 魔王城の中を年中飛び回るこいつですら会った事がないとは……俺がわからないのも仕方ないか。


「どこかに集まって住んでいる者達ではありません。どこにいるか、居場所も知ってる者を探す事は困難でしょう」


 生息地がわかっていれば知り合いがいるかもしれんが、それすら無理か。


「では黒銀のゴーレムの方は心当たりはないのか?


 もう一人の方についても聞いてみるが、こちらに対してはイオスの奴は首を横に振った。


「残念ながら、そっちについては皆目見当がつきません。 魔王様は早速珍しい者達と出会ったわけですね……視察らしくなってきたじゃないですか」


 そうイオスが言った途端ヒナが掴みかかった。


「イオスっ! 魔王様が毒を打ち込まれたというのに……これも貴方があんな通達をだすからでしょうっ!」


 服を掴まれていても意に介した様子もなく、イオスはヒナの睨みつける目から視線を逸らし、


「苦しいですよフィーナ。色々と実りのある視察になってきたというのに……」

    

「なんですって!」


 さらにイオスの服を掴む手に力が入る。口では苦しいと言っているが、表情からは全く読み取れない。


「教えてくれないかイオス。どういう点で、実りのあるのかを……」


 力の入るヒナの肩に手を置き、止めるように促しながら俺は聞いてみた。

 俺に促された事で少しだけ締め上げられた状態からイオスが解放される。

 そして視線を俺に移して、一呼吸置いてから言った。


「魔王様のお陰でわかるかもしれないからですよ……私達が本当に組織、軍団として一つに纏まっているのかどうか……をね」


 そんな事を言う魔王軍序列二位に俺は笑いを抑えられなかった。

 俺の目の前にあるつくったような笑顔に向かって言った。


「そうか、俺は囮や生贄みたいなものか……イオス、お前はそういうつもりなのか?」


 今度奴の胸倉を掴むのは俺だった。

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