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魔王城からは逃げられない  作者: 野良灰
5章 生まれもった性質からは逃げられない
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決意があり 不満もあり

 ヘアリーズとグスタフが去った後、俺達は部屋から動かずしばらく休んだ。

 俺は毒の影響があったし、シアも右肩を怪我している。無傷なのはスタンだけだ。


「戦えない程ではないが、若干手足に痺れを感じる……どれだけ強力な毒なんだよ」


 あの女に打ち込まれた毒の影響がここまでとは。

 

「魔王様……大丈夫ですか?」


 自分も右肩を怪我しているというのにこっちの心配をしてくれる。

 薬草での応急処置で新たに血は流れてきていないが、傷つけられた部分が裂けて赤く染まっている。


「あぁ、問題ない……次会った時はくらわない――」


「あの女の色香に迷ってた魔王様の自業自得ですしね」


 シアがぼそっと、そして鋭く切りつけてきた。

  

「いや、そんな事ない――」


「どこを見てたかわからないとでも?」   


 動こうとすると、すぐさま道が塞がれていく。

 こういう時は、


「……そっちも気をつける」


 速やかに、最短距離を逃げるに限る。

 実際、目を奪われて、中身についての注意が疎かになっていた。


「あの女に次会ったら……今度は必ずこの大鎚で潰してやりますから」


 どこを? と流石に冗談ぽくききそうになったが、すぐにやめた。

 シアがもじもじと両手を擦りながら俺の方を見てきたからだ。


「そんなに見たいなら私がいつでも……」


 頬を赤らめながら、俺の方へ擦り寄ってきた。

 こういう時も逃げの一手だ。


「スタン、異常は無いか?」


 また再度敵が来ないか警戒してくれていたスタンに声をかける。

 しかし、先に続く通路の近くで様子を伺っているスタンは反応しなかった。

 

「おい、スタン。どうした? 聞こえてないのか?」


 さっきよりも大きめの声で呼びかけたら、ようやく俺が声をかけていた事に気づいたらしい。

 びっくりしたように体を震わせて、こっちを見た。


「あ! いや、大丈夫だよ兄貴!」


 なんだかぼーっとしてたようだが、一体どうしたのだろう。

 スタンの様子が気になるが、さらなる敵の攻撃がない内に行動にうつした方が良い。


「そうか。じゃあ、二人共今日の所はここで戻るぞ」


 俺が発した帰還命令に驚く二人。

 今回纏まった時間が確保できたために、どこかで宿泊しての行動を予想していたのだろう。

 だがあいつ等のような敵がいた場合、さっき以上の危機に陥る可能背だってある。

 ここは一旦引いて再度準備して臨むべきだ。


「なっ! 兄貴、まだ先に進めるよ! こんなすぐに帰っちゃうのか?」


 スタンが見ようによっては慌てたような様子で反対してきた。

 まだ今回の視察が始まってから、あまり進んでないというのもわかる。


「俺も僅かに毒が残っているし、シアも怪我をして、一時的に塞いだだけだ。 満足に戦えるという確証があるわけではない」


 ならばここは一度退却してさらなる準備を揃えていくべきだ。

 それに、あいつらの事を調べる時間も欲しい。


 獣のような手足、蝙蝠の羽、そしてサソリの毒尾をもった異形の魔族。

 そして実力が未知数のままである黒銀の体と自らの意思を持つゴーレム。

 他に仲間がいるのかどうかも気になる。

 戻ってからヒナにも頼んで探ってみるとしよう。

 

「けどよぉ~……」


 スタンが不貞腐れるような態度で不満げだ。

 一人だけ相手にされてなかったようなものだからな。思うところがあるのかもしれん。

 

「今無理をする必要はない。この先でさっきの奴等が再び罠をはってる可能性だってあるしな」


 そう言って俺は戻る事を二人に納得させた。

 戻る途中ずっとスタンは不満だという事が態度に出ていた。

 朝から進んできた道をそのまま真っ直ぐ戻り、すぐに門の広場に到着する。

 

「一先ず今日はこれで解散だ。怪我の治療や準備のために、明日は視察に行かずゆっくりしよう」

 

 治療が必要な程の怪我はないが、情報収集の時間稼ぎだ。

 それに怪我に対する準備だけじゃなく、毒とか麻痺の状態異常の対策も考えないといけない。

 

「明後日は再び視察に行くのですか?」


 シアが俺が口にしなかった部分の予定を確認するように聞いてきた。 


「今回確保したのは三日間だからな、行く前提で考えているが……迷ってもいる」


「行こうぜ兄貴! 俺……こんなんじゃ納得できないよ!」


 スタンがすぐ決行に賛成する。


「さっきの戦いが不満なのか?」


 怒りと悲しみを合わせたような表情のスタンに、俺も考えていた事を確認してみよう。

 それに対して悔しそうに俯いて黙ってしまう。


「お前はあのゴーレムの足止めをしてくれていたじゃないか。そのおかげもあって俺達はこうして戻ってこれたと思ってるぞ」


 実際あいつの実力は未知数だった。攻撃を難なく受け続けて平然としていたし、引くタイミングも冷静にはかっていた。

 感情的になりがちなヘアリーズの方と比べて相手にするのが困難なのはやつの方だ。

 だから、できた理由はどうあれ、足止めをしてくれていたスタンの行動には感謝している。


 しかし、俺のそんな思いとはスタンの感じている事は別だった。


「あんなの……ただ俺が弱すぎて相手にされてなかっただけだよ!」


 そう言ってスタンは俺達に背中を向けて走り去った。


「あ! 兄様! ま、魔王様すいません。追いかけてきます! 連絡お待ちしておりますので!」


 シアも兄の突然の行動に驚いていたが、その後を追いかけていった。

 気になるが……今はそっとしておこう。

 そして俺はヒナに調査を依頼するために執務室の方へ向かって歩き始めた。

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