時間切れ
「無駄だって! そんな不恰好な武器当たらないよ!」
異形の赤い魔族が空中から迫る。
さっきの攻防では、シアの攻撃が目の前での軌道変更で避けられ、傷まで負わされた。
右肩の傷から血が流れ出しているが、一切気にする様子もなく、向かってくる相手を見据えている。
「今度は一発で楽にしてあげるっ!」
言葉通りシアの命を奪うため、一直線に急降下してくるヘアリーズ。
もう少しでシアの間合いに入る。
攻撃を当てられるかどうか見守るしかできない。
自分の間合いに入る直前、シアに動きがあった。
大鎚を振るい、そして相手に向かって自分の愛用する武器を放り投げた。
音をあげ、回転しながら飛んでいく大鎚。
「ちょっ!」
まだ攻撃が来ないと思って油断していた所への不意打ちでヘアリーズの動きが乱れる。
だがそんな攻撃も、ぶつかる前に右へ軌道変更して避けられた。
「あら、こっちも見てくれますか?」
シアがヘアリーズの服を掴み、床へ引きずり倒した。
向かってきていた勢いを落とせなかったために、背中から強く叩きつけられた。
「きゃあ! 痛いって!」
悲鳴を上げながらシアに組み敷かれた。
「避けるタイミングがわかっていれば、貴女の体を掴むぐらい容易いです」
ヘアリーズに馬乗りになりながら、冷ややかに言い放った。
「あいたた……、一体何だってんだよ!」
意識をはっきりさせようと首を振るヘアリーズ。
「さて、避けれるならどうぞ……」
そう言って、まだ意識のはっきりしない敵を無言で滅多打ちに殴りつける。
必死に防御している上から拳を叩きつける音と、ヘアリーズの悲鳴だけが聞こえた。
しかしシアは殴る手を止めはしない。
「痛いっ! やめろ! くそがっ……こんのぉ!」
ヘアリーズが俺に対してやった時と同じように、シアの背中に自らの毒尾を突き刺そうとした。
「シア! 後ろだ!」
俺はそれに気づき叫んだ。
間に合ってくれ!
「あぁ……そうでした、魔王様を傷つけたのはこれでしたね」
俺の心配をよそに、背後に迫ったサソリの尾を避けて、尚且つ掴みとった。
両手で抱えこむようにして尾を締め上げる。
「千切れるっ! 千切れるってば!」
「そのつもりでやってますから。大事な武器を放り投げるなんて真似をさせてもらいましたから……お礼はきっちり致します」
尻尾を掴まれていて、しかもかなりの力で締め上げられているせいでヘアリーズもろくに動けないようだ。
なんとか引き剥がそうと暴れているが、普段から大鎚を振り回しているシアの力ではそれも困難だろう。
「……ジカンギレダ」
また俺達の耳に、黒銀のゴーレムが発する無機質な声が聞こえた
スタンの攻撃を受け続けていただけの男が動いた。
「うわっ!」
足止めのため攻撃をし続けていたスタンの体を難なく弾き飛ばした。
そして相棒を苦しめているシアの方へかなりの速度で走る。
「ソコマデダ」
あっという間に間合いを詰め、尾を締め上げているシアの両手を掴み、強引に離させる。
締める力が緩んだ途端、尾を引き抜いて地面を這いずる様に必死に逃げるヘアリーズ。
「もうっ! 千切れるかと思ったよ。 グスタフ! 助けるなら早く助けてよ!」
「……スマン」
助けられたのに偉そうな態度だ。
よく我慢して付き合ってるな。
「で……あんたの見立てじゃ、もう時間切れなのかい?」
「アァ……モウタチアガル」
その言葉は当たっている。
「正解だ。大分動けるぞ……ここからは俺が相手だ」
立ち上がり、手足と体各部の調子を確かめる。
まだ鈍い気がするが、ここまで動ければ大丈夫だろう。
「あぁ……くそ! 殺り損ねたっ!」
「……モドルゾ」
悔しがるヘアリーズと、特に感情の発露は見られないグスタフ。
「お前達……なぜ俺を殺そうとする? ここの管理者だから……ではないだろう?」
いくら実戦形式とは言え、はっきりいってやり過ぎだ。
それにこいつ等は最初から俺の命を狙ってきていた。
「さぁね? 自分のやってきた事を思い出してみたらどうだい?」
「……イクゾ」
俺のやってきた事? 命を狙われるような理由が……全く無いとは言えないか。
戦ってきた中でどんな恨みをかってるかわからないし、それは敵だけでなく味方にもだ。
一緒に戦って死んだ者達だって数え切れない程いる。
「じゃあね魔王様。今度は背後に気をつけな! 小娘っ! あんたは今度会ったら覚えておきなっ!」
そう言い残して二人は先の通路に消えていった。
スタンが追撃しようとしたが、流石に止めた。
一人だけほぼ無傷で、しかも相手にされてなかった怒りもあったが、無謀すぎる。
「スタン、シア……二人共助かった。ありがとうな」
今回はこの二人に助けられた。怪我はしたが、無事に戻れるならそれで十分だ。
だが、俺の命を狙っている奴等がいる。
それがあの二人だけなのか、もっと大勢いるのか……。
言い知れぬ不安が残る戦いだった。




