視線の先にあるのは
前日の打ち合わせで決めた集合場所で俺とスタン、シアは集まった。
二人共今までと違って、荷物を背負っている。
中身は視察中に、どこかで泊まる事を想定して準備した物だろう。
かくいう俺も今日は干し肉等保存のきく食べ物や水を持ってきている。
「よし、それじゃあ出発するぞ」
俺の号令で、前回戻ってくる時に使った転移魔法陣に乗る。
魔法陣で飛んだ先に俺達を案内したスケルトンはもういなかった。
だが、この部屋に続く隠し通路は開いたままだ。
特に考えていなかったが、塞がってたら面倒だったな。
スケルトンが待っていた場所までの道は、戻った後で忘れないうちにメモしてある。
その途中にあった分岐の先を探っていけば先に進めるはずだ。
「今日は骨の奴等一匹も出てこないなー」
スタンがキョロキョロと辺りを見回しながらそう呟く。
前を進む足取りは軽い。動きに合わせて、背負った荷物が上下に揺れている。
「補充が間に合ってないんだろう。申請の許可が出てからでないと無理だからな」
手に入り易い物でも、後数日かかるだろうな。
軽やかに進むスタンの後ろを歩きながら、申請の書類を見た時の事を思い出す。
費用についてはハルトレードに一任だが、上手くやってくれてるだろう。
「兄様、罠が設置されている可能性はあるのですから、気をつけて進まないとだめですよ」
俺の後ろを歩くシアが、無警戒に進む兄に向かって注意を促す。
こちらはスタンと違い、荷物がほとんど揺れていないし、一歩一歩気をつけて歩いている。
調子に乗りがちの兄と、しっかりした妹のやり取りも定番になってきたな。
だがシアの注意も空しく、罠が一切無い静かな時間が続いた。
その分、道を探す事に集中できたからよかったが。
歩き続けて思ったが、この区画……広い。
カバネと戦った、あの広い部屋を出てからの道がかなり長い。
攻略メモに道を書きながら進んでいる。
しかし長く歩いたと思ったら、ぐるっと回って通った道の分岐に戻ってくる事もあった。
侵入者がいた場合、最終的にカバネはあの大きな部屋で迎え撃つのだろう。
そこに到達するまでに長く歩かせて、しかもその最中に骨魔物で攻撃され続ければ、消耗する事は避けられないな。
カバネが今後どのように守っていくのか楽しみだ。
「魔王様……そろそろお昼にしませんか?」
シアが一旦昼休憩の提案してくる。
確かに探索を続けている内に腹も空いてきたので、前後の見通しの良い場所で昼食をとる事にした。
持ってきた食料を取り出そうとした時、
「あの魔王様、よろしければこれをどうぞ!」
シアが背中の荷物から俺に食料を差し出す。それはパンの間に様々な具材を挟んだものだった。
肉、野菜の比率でいけば肉多めなのは流石だな。
「俺に? 折角持ってきたのに、もらっても良いのか?」
「はい! 魔王様のために準備してきましたから!」
折角だからありがたく頂くとする。
シアから受け取り、肉がたっぷり挟まれた一つを口に放り込む。
「うん、美味いな。この後さらに進むための元気がでるようだ」
反応を心配そうに伺うシアに、笑顔で素直な感想を返した。
「よかったです! それは全部魔王様が召し上がってください」
「自分の分はちゃんとあるのか?」
「はい、こっちにちゃんと持ってきてます」
そう言って取り出した自分用の物は、肉しか挟まっていなかった。
うん、わかりやすいね。
「兄貴だけ良いなー。シア、俺の分はないのか?」
スタンが頬を膨らませながら羨ましそうに言う。
「兄様はちゃんと自分で持ってきたのがあるでしょう? これは魔王様のために愛を込めて作った特別製なんです」
その時昨日の事を思い出して、特別製という単語に少しひっかかるものを感じた。
でも、きっと大丈夫だよな?
「さぁ魔王様、あんな兄の事は気にせずどうぞ」
まぁ美味いから良いか。
俺は遠慮なくシアが作ってきてくれたものを綺麗に食べ終えた。
合間に挟んである野菜がちょっと苦味がきつかった気もするが、こってりとした肉と一緒に食べると悪くは無い。
「堪能した。ありがとうな……シア」
「いえ、喜んで頂けたならそれだけで……私幸せです」
礼を言うと照れくさそうにシアは答えた。
腹もふくれたし、元気出して先に進むか。
食事を終えて、俺達は再び先に進む。
そしてしばらく歩いていくと、古ぼけた木の扉があった。
どうやら、ここでこの区画は終わりのようだ。
扉を開けてさらに奥に進む。
ここまでよりも薄暗い通路に変わった。
通路にある明かりが弱いだけじゃなく、間隔が長くなっているからだ。
歩くのに支障がある程じゃないが、念の為市場で買ったランプの中の蝋燭に火を灯す。
それでも進行方向の先や足元が見えにくい。
スタンも先程までとは違い、歩く速度が遅くなった。
ちゃんと警戒しながら進んでくれているようだ。
俺達三人が周囲に注意をしながら進んでいると、スタンが立ち止まり、俺の方を向いた。
「兄貴! 誰か倒れてる!」
前の方を目を凝らして見ると、確かに倒れている人影が見える。
「いくぞ!」
何があったかわからないが、ただ事ではないだろう。
俺達が走って近づいてみると、倒れていたのは女だった。
暗がりでもわかる赤く輝く髪に獣耳。黒を基調としたドレスにマント、手足を見ると犬か狼のようだ。
しかし足首まであるスカートから覗く足にはトラバサミが深く食い込み、血が流れ出ている。
どうやらこの罠にひっかかり動けなくなったのだろう。
だが息はしているようだから気を失っているだけだと思う。
呼吸の有無を確認していると、俺の背後から低い声がが聞こえてきた。
「魔王様……どこをじ~っとご覧になっているのですか?」
シアの声が怖い。
「いや、呼吸の確認をしていただけだが……そ、それがどうかしたか?」
と答えながら、シアが何を言いたいかはわかっていた。
俺がどこに目を奪われていたのか?
答えは倒れている女の大きく開いた胸元だった。
とにかく、でかい!
ドレスのサイズが間違っているんじゃないかと心配になるくらい、はち切れそうで魅惑的な谷間がそこにあった。
再び視線が一点に集中してしまった。
俺になのか、倒れている女になのかわからない殺気を背中に感じる。
「おい、大丈夫か! しっかりしろ」
重圧をかわすように女に声をかける。
「……ん、ん~……あぁん……」
こちらの呼びかけに対して反応があった。
寝返りをうつように仰向けに体勢が変わり、巨大な双丘が揺れる様にどうしても目が……。
「ま、お、う、さ、ま……」
後ろを振り返ってはいけないと俺の中の俺が警鐘をならす。
シアから放たれる怒気のせいか、女が目を覚ました。
「あれ……わたしどうして……あなたはどなた様ですか? ……痛っ」
まだ意識が朦朧としているのか、罠にかかったままで立ち上がろうとして俺の方へ倒れこんできた。
俺の胸へ飛び込んでくるように倒れたのを優しく抱きとめる。
何がとは言えないが、背中に刺さる視線と、反対側にはものすごく柔らかい感触があった。




