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魔王城からは逃げられない  作者: 野良灰
4章 骨肉の戦いからは逃げられない
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夜道での出会い

 スタンからシアの料理についての貴重な情報を得た後は、三人で他愛も無い話をして一緒に過ごす時間を楽しんだ。

 だが明日からの視察に備えてもらうためにも、適当な時間で切り上げて二人を先に返した。

 

 俺は少し市場を歩いてから戻ろうと思い、目的があるわけでもなくぶらついていた。

 やはり体が疲れていたのだろう。一杯の酒だけでも少し酔ったような感じがしたからだ。

 昼間……といっても魔法で疑似的に作り出してる区切りでの昼よりも、開いている店は少ない。

 だが、この暗い夜の時間だけ開いている店もある。

 そういう店を冷やかしながら俺は歩いていた。


「あれ? 魔王様……ですか?」


 後ろから俺を呼ぶ男の声が耳に聞こえた。

 振り返って見ると、そこにいたのはハルトレードだった。


「お前か。どうした? 鬱憤の発散に夜の店にくりだしていたのか?」


 まぁそういう店に行くような奴では無いと思うが。

 いや、案外こういう奴が隠れて行ってるかもしれないな。

 そんな事を考えていると、ハルトレードが答えを明かした。


「いえ、今実家に行ってました。例の希少物品を探してもらうお願いと、久々の顔出しのために」


 あぁ、カバネからの申請書にあった、暴悪竜(ディブランス)絡みの商品か。

 普通に市場で並んでる物ではないんだろうな。


「仕事ご苦労! で、見つかりそうか?」


 大きな商会だから多分大丈夫だとは思うが、どれくらい流通しているものなのかはわからないからな。


「えぇ、多分大丈夫だと思います。少し時間はかかると言ってましたけど」


「そうか……流石だな」


 だが、そこで俺はハルトレードの顔が若干暗い事に気がついた。


「どうした? 見つかりそうなのにあまり嬉しそうな顔をしていないが」


「あ、いえ……なんでもないですよ」


 否定するが、ハルトレードの顔に見える陰りはなくならない。

 また何か鬱憤を溜め込んで爆発されても困るからな。

 ここは少し突っ込んで聞いてみるか。


「誰かに話してみる事で解決する事や、楽になったりする事だってあるぞ。無理にとは言わんが話してみてはどうだ?」


「ですが……」


「そうだ、投げ飛ばしてみたらいい考えが浮かぶかもな」


 昼間の事を引き合いに出して冗談ぽく促してみた。

 それに対してハルトレードは苦笑しながら、ぽつりぽつりと話しだした。


「実は家に行った際に、兄と少し……揉めまして」


「兄というと、フェネック商会の商会長をやってるのだったか?」


 名前は忘れたが、確か兄が一人いて、実家を継いでいると聞いた事がある。


「はい。私たち兄弟は昔からあまりその……仲が良くないので」


「それは……やはり祖父から受け継いだ見た目のせいか?」


「はっきりと言われはしませんが……多分」


 こいつの祖父は魔王城に俺達が生活するようになってから、そのしばらく後に就任した財務担当だった。   

 優秀な奴だった。しかし、この就任は反対意見も多かった。

 その理由は……彼が『人間』だったからだ。


 魔王城の中には、他の種族に比べればかなり少数ではあるが人間もいる。

 そのほとんどが昔何らかの理由で、人間の世界で生きにくくなった者達だ。

 俺はあまり種族がどうこうとか気にしないので、問題を起こすような奴じゃなければ受け入れていた。

 だが、魔王軍の中には人間を敵対者として嫌う者もいる。


 そんな雰囲気に対する意思表示のための財務担当への抜擢でもあったが。

 その彼の妻は狐の亜人だった。

 確か二人の間に生まれた子供は、狐の亜人風だったはず。

 しかし、孫のハルトレードの見た目は……耳は丸く、尻尾も無い人間だった。

 前に何かの会合で見た奴の兄は狐の亜人風の見た目だったはずだ。   

 

「それであまり実家に帰らないのか?」


「居場所が無いですから……。離れて暮らす今の方が仕事に集中できる環境ですけどね」


 無理して作ったとわかる笑顔でそう答えた。

  

「だから、今の職場が私の居場所なんです」


 悲しそうなハルトレードは天井を見上げながらそんな事を呟いた。


「そうか。もし実家に居場所がなくても、この魔王城の中に居場所はきっとある。何より俺がお前の事を必要としているしな!」


「便利な奴、としてですか?」


 俺の信頼する財務担当は表情を崩しながら言った。


「いや、仲間としてだ」


 右手をハルトレードの肩に置き、目を見てはっきりと伝えた。


「……もう、誰にでも同じように言ってるんでしょう? 魔王様は人使いが上手くていらっしゃる」


 やれやれ、といった仕草をしたが、表情はわからなかった。

 俺はただ、ハルトレードの事をじっと見つめた。


「けど……ありがとうございます。明日からも頑張れそうです」


 彼は俺に対して静かに、ゆっくりと頭を下げて礼を言った。

 もっと礼を言いたいのは俺の方だ。


「お互い明日からも頑張ろうぜ! ついでに、来月の俺の予算減らすの勘弁してもらえない?」


「魔王様らしいですね」


 ようやく笑ってくれた。

 俺の仲間が悲しそうにしてるのは辛いからな。

 そっちの方がいい。


「でも、来月の魔王様の予算を減らすのは決定です」


 財務担当の毅然とした態度で言い切られては、俺は辛そうな表情で応えるしかできなかった。

   

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