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魔王城からは逃げられない  作者: 野良灰
4章 骨肉の戦いからは逃げられない
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財務担当と唯一の欠点

 俺は押しかけてきたハルトレードに、カバネとの戦いについて話した。

 骨魔物達を相手に一方的に蹴散らした事、切り札であった暴悪竜(ディブランス)との死闘。

 俺が途中でスタンとシアを鍛えるのに手伝った事は言わなかった。


「……という訳で、あの区画の防衛で改善点がわかり、一層の強化するためこの費用が必要になったという訳だ」


 まぁ自分で言うのも何だが、結構上手く話せたな。

 これならきっとわかってくれるだろう、そう思ってハルトレードの方を見ると、見事なまでに頭を抱えていた。

 

「大丈夫か? 仕事ばかりしないでちゃんと休まないとだめだぞ」


 こいつも多忙だからな、部下の体調を気にするのも魔王の務めだ。

 

「だ、誰のせいですか! 皆さんが決められた予算の枠内でやりくりしてくれたら、私だって休めますよ!」


 立ち上がり、天を仰ぐように抗議の声を上げる。

 

「大体、骨魔物全部出撃させて、しかも何で全て壊してるんですか貴方達は!」


「いや、それはだな実戦――」


「実戦形式だからですか? 全力攻撃ですか? 限界極限戦闘ですか? それはそれは、きっと楽しかったのでしょうねぇ」


 弁明の余地すら与えられず、まくしたてられた。

 かなり怒っているな、短く切り揃えられた茶髪が天を衝きそうだ。

 だが、楽しかったか? と聞かれたら、答えは……楽しかったな。

 言ったらさらに怒るだろうから言わないけど。


「もう……皆、私の苦労も知らないで……視察が進む度にこんな費用が出るんじゃ……」


 今度は俯きながらぶつぶつと言い始めた。

 あぁ、これはいつものアレか……。

 ヒナに目配せをすると、向こうも同じように察していたようだ。


「どこから予算を……、私が一体何をしたって……あれもこれもそれも誰のせい……」


 そろそろ来るか。ハルトレードの動きを注視しながら警戒する。

 段々呟く声が聞き取れないくらい小さな声になっていく。


「あぁ! もう! 貴方を殺して私も死ぬっ!!」


 感情を爆発させ、俺に掴みかかってくる。

 だが、これは予想の範疇だ。前に似たようなキレ方をした事があった。

 向かってきたハルトレードの懐に潜り込み、襟と袖を掴んで投げ飛ばす。


「げふぁ!」


 変な声を漏らして床に転がる奴の様子を覗き込む。 

 背中から落としたから多分大丈夫だとは思うが……。


「おい、大丈夫かハルトレード?」


「えぇ、何とか。お陰様ですっきりしました」


 何もなかったかのように清々しい顔で立ち上がった。

 この癖がこいつの唯一で最大の欠点だよなぁ。

 普段から色々抱え込む奴だから、色々と処理しきれず自分の中に溜め込みがちだ。

 それが爆発する時がたまにある。

 矛先は大体俺に向く。これも魔王の仕事の内だなきっと。


「頭もすっきりしたせいか、予算の捻出方法もいくつか思いつきました。 案として出しますのでその時はご裁可願います」


 優秀な奴なんだよなぁ。

 こいつで財務担当は何代目か忘れたが、俺が覚えてる奴の中でも指折りだ。

 

「悪いな。いつも苦労をかける」


「本当にそう思ってるなら程ほどにお願いしますよ」


 困ったような笑い顔で答えた。

 このやりとりも今までに何度してきたことか。


「そうだ、今回購入する武具はお前の実家で購入しても構わんぞ」


 こいつの家は市場でも大きな商会を構えている。

 取り扱っている品目も多彩だ。

 ちなみに祖父は先々代の財務担当だったり。

 

「いえ、そういう立場を利用したと思われるような行為をしたら……祖父に怒られます」


「すまん、そうだったな」


 厳しく祖父から言われていると以前言っていたな。

 悪いことを言ってしまった。


「とはいえ、この『暴悪竜または同等以上の生物の牙、骨』を探すには実家の力を借りなければならないかもしれません」


 厄介そうに書類を見る。やっぱり珍しい品物になるか。

 まぁ今すぐに必要というわけではないだろうから、そのうち見つかればいいな。

 当面はカバネも、暴悪竜(ディブランス)に頼らない防衛手段の研究に励むと思う。


「まずは今回だけに限らず、今後の視察に合わせて予算を圧迫しないように、捻出方法の案をまとめてきます」


 ヒナだけでなく、ハルトレードも俺の我侭に近い視察に対して協力してくれる。

 初めは書類仕事が嫌だったからだったんだけどな。

 だが、こうして周囲が色々と考えて動いてくれている姿を見ると、


「ハルトレード、それにヒナもすまん。いつもありがとうな」


 心の底から礼を言いたい。そして思ってるだけでなく声に出して伝えないとな。

 俺は色んな奴に支えられている。その事が少しだけわかった。


「魔王様、勿体無きお言葉。これからも宜しくお願い致します」


「わ、私は秘書として当然の事をしているだけですからっ」


 二人の方を見て自然と微笑んだ。

 


「さて、それでは私はこれで失礼致します。突然来て申し訳ございませんでした」


 ハルトレードは自分の執務室に戻るようだ。

  

「いや気にするな。だが体調には気をつけろよ。休む時は休むように」


「とりあえず、背中が痛いのでゆっくり治すとします」


「こいつめ……ははは」


 二人で笑いあった。

 これからも苦労をかけるが頼りにしているぞ。


「あぁ、そうですヒナ様」


「なんでしょう?」


 部屋を出る前にハルトレードが立ち止まり、ヒナに声をかけた。


「先程の予算の捻出方法の一つで、とりあえず来月の魔王様の使用予算減らしますが大丈夫でしょうか?」


 え?


「あぁ……問題ないですね。遠慮なくどうぞ」


 俺が目の前の光景を理解する前に、ヒナが即時同意した


「ちょっと待ってくれお前達!」


 慌てる俺を見て、ヒナとハルトレードはおもしろがっていた、と思う。

 思いついた捻出方法の一つがそれかよ。

 もう一度投げ飛ばしたら別の方法思いつかないだろうか……。


 そして結局書類仕事が遅れた分、今日も俺は一日中執務室に篭る事になった、

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