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魔王城からは逃げられない  作者: 野良灰
4章 骨肉の戦いからは逃げられない
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聞いている事、聞いていない事

 戻った翌日に続き、次の日も俺は紙の山に埋もれていた。

 執務室の机の上に置かれた書類は何日分あるのだろうか。

 いや、実際一日分の量じゃないよねこれ?


「なぁ、ヒナ……書類の量が多くないか?」


 秘書用の机で、同じように仕事をしているヒナに聞かずにはいられなかった。

 持っていたペンの動きが止まり、俺の方を見て答えた。


「そうですね。今までの量の二、三日分ありますから」 

 

 そうか、やはり俺の見立て通りか。


「って、何でいきなり増えてるんだよ!」


 抗議の意思が、手から伝わり机が震える。

 

「今まで、内容と必要な時間等考慮して一日に処理して頂く量を決めていましたが、考えを改めました」


「どう改めたんだ?」


「魔王様が一日で処理できる量を無視してお出しすることにしました」


 それは改めたって言うのか!

 悪化してるよね、主に俺の生活に対して。

 しかしヒナのから届く視線の強さはかなりきびしい。 


「いや、ほらあれだ……視察もあるし、書類仕事できる時間にも限りがあるんじゃないかと……」


 つい弱い言い方になってしまうのだった。


「……視察のために割く時間を確保するためでもありますよ」


 少しヒナの口調が和らいだ気がした。


「ある程度纏めて書類を片付けて頂ければ、数日視察に費やして頂く事もできるようになります」


 続けてそう俺に言った。

 今までのように仕事を片付けてから視察だと、続けて進める距離に限界がある。

 行って、戻ってを繰り返すよりはやりやすくなるか。


「あまり視察に対して賛成はしていない、と思ったが、そこまで気を使ってくれるとはな」


「今も賛成しているわけじゃありません。実戦形式だなんて……万が一があったら……」


 ヒナの表情が少し陰る。心配してくれているらしい。

 だが、これも決めた事だしな。

 とはいえ、気遣いに対する礼ぐらいは言っておくか。


「なぁ、ヒナ――」


「魔王様! 魔王様! いらっしゃいますかっ!」


 ヒナに礼を言おうとした瞬間、執務室の扉を叩きながら俺を呼ぶ声がした。

 タイミング悪すぎるだろう。

 聞き覚えのある声の主に対して内心そう思った。



「魔王様、お通ししますね」


 ヒナも誰かわかったようで、扉を開けるために席を立ち入口へ向かった。


 そして扉が開き、入ってきた茶髪の男は一直線に俺の前までやってきた。

 あんなに早歩きで長い裾のローブをよく踏まないものだ。


「魔王様、これは一体なんなんですか!」


 俺の眼前に一枚の書類がつきつけられる。

 書いてある内容を順番に目でおっていく。

 読んでいくごとに、なぜこいつが血相を変えてやってきたか理解できた。


 書類の内容は、一昨日やりあったカバネからの臨時予算申請と必要な物品に関わる購入費用の申請だった。

 総額は……結構凄いことになっていた。

 一番怖いのは、『暴悪竜または同等以上の生物の牙、骨 の購入に関わる費用――時価』だろうな。

 滅多にないんだろうけど、金額がわからない上に高くつきそうだ。

 それ以外にも、骨魔物の元になる素材や、武装用の武具、新たに訓練を行うための費用等々が羅列されていた。

 

「視察の事はお聞きしていましたが……いきなりこんな費用が必要になるなんて聞いてないですよ!」


 顔を真っ赤にしながら俺に対してまくしたてる。


「いやまぁ、魔王城の防備のために必要な費用なんじゃないか?」


「この費用をどこから捻出しろって言うんですか!」


 あまりの剣幕に若干たじろいでしまった。

 そう、こいつの仕事としては仕方ないんだろうが……


「落ち着け、ハルトレード。財務担当として急な費用の捻出について困るのはわかるが……」


「本当ですよ! 最近イオス様管轄の魔王城内での工事費用も増えてて、そちらを加味した予算修正がようやく終わったと思ったのに」


 ハルトレードの頭が徐々に下がり、声も小さくなっていった。


「そうか、務めご苦労。しかし、今回の視察もイオスが言い出したようなものだからな、文句もそっちに……」  

 

「あの人、ほとんど会えないじゃないですか! 書類だけはしっかり書いて出てくるのにっ」


 あいつも飛び回っているからなぁ。確かに姿を見かける時の方が少ない。


「それに、会って話をしたらしたで、最後は結局こっちが要求を呑む事になっているし」


 単に交渉で負けてるじゃないか。

 イオスの奴は本当にそういうのに強い。こっちがつかれると弱い所や自分の強みをしっかりと織り込んでくる。


「と・に・か・くです! 魔王様、この申請書の内容について説明していただきますよ!」


 近くの椅子を持ってきてハルトレードは腰を下ろす。

 

「特に、この『魔王様に破壊されたため』という申請理由について詳しい説明を求めます」


「あ、あぁ……」


 魔王城内苦労人序列上位の財務担当ハルトレード。

 こいつが納得するような説明ができるのだろうか。


 そして、俺の書類仕事は説明する間進まないのだろうな。

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