再び待つスケルトン
カバネとの戦いの後、俺達は先に進む。
負傷もしているし、大事をとって戻る手もあるが。
どこか良い区切りをつけられる所まで進みたい気持ちもある。
「今のところ、罠が何もないのは助かるな」
周囲に注意しながら進んではいるが、罠らしいものに出会いはしなかった。
この辺りは骨魔物絡みの方法で区画を守っているのだろう。
それなら骨の主がいなくなった今防備が薄くなっているのも説明がつくしな。
「次は、どんなおもしろい奴が出てくるんだろうな~」
スタンは気楽な感じで楽しんでいるようだ。
さっき骨犬から脇腹に怪我を負わされたりしたんだから、また油断するなよ。
「集団相手の戦いができましたし、今度は一対一で歯応えのある方が良いです」
シアはシアなりに楽しんでいるな。
命の危険が無い道行きなら良いのだが、実戦形式となっている事が気になる。
もしかしたら今後、もっと危ない相手がでてくる可能性はある。
だがその時がきても、俺はこの二人を失うような事は許せないし、させもしない。
魔王城に本気で命を狙ってくる奴がいないと信じたいがな。
「あっ、魔王様。また……スケルトンがいます……」
シアが通路の先を指差す。
その言葉通り最初と同じくスケルトンが立っている。
この区画に来た時は侵入者を察知し、来襲を知らせる警報代わりであった
じゃあ今回は一体何のために?
「いつでも走り出せる用意はしておけ。今回も、この先での襲撃を誘発するような役割ならすぐに始末する」
前回と同じなら、距離が近づけば動き出すはずだ。
少しずつ近づいていく。
前の時と同じ距離になる。しかし動き出さない。
「止まったままだな。このまま近づくぞ」
俺の言にスタンとシアは黙って頷く。
三人で近づくが、結局手が届くほどの距離にくるまで動き出すことはなかった。
そこまで近づいてようやくスケルトンは動いた。
しかしその動きは戦闘を予感させるものではない。
ただゆっくりと、歩き出す。
少し歩いて、俺達の方を向いて手招きをした。
「ついてこい……って事か?」
逃げるような動きではない。
しかし、これが罠の可能性だってある。
俺は正直迷っていた。
「兄貴、ついていってみようぜ!」
「そうですね。何かあればまた打ち破って進めばいいと思います」
二人がついていくように促す。
罠があっても……か。
「確かにお前達の言う通りだ。罠があっても食い破って進めばいいな……ついて行ってみよう」
俺達はスケルトンの後をついていった。
こいつに指示を与えたのはカバネの奴で間違いない。
もう戦う気はないと思うのだがな。
罠の可能性を全て捨て去りはしなかったが、歩いているうちに罠で無いと思う比率が高くなっていった。
だがスケルトンの先導でしばらく進んだ先は、行き止まりの部屋だった。
「行き止まり……罠だったのか?」
俺達三人共声をかけあった訳ではないが、全員がそう考えたようで、警戒を強めた。
そんな俺達の事を無視して、先導していたスケルトンは、まっすぐ正面の壁に近づき、壁の一部を押す。
すると壁が動き、隠されていた通路が現れた。
通路の先に見えている床に輝く光は、転移の魔法陣だった。
隠されていた通路の先にあった事からも、恐らくこれはこの区画にくるためにカバネが使用しているものなのだろう。
俺達をここへ案内するためにスケルトンを配置していたのか。今度会ったら礼の一つぐらいしてやってもいいかもな。
「カバネの奴の計らいみたいだな。今日の所はここから戻るとしようか」
警戒を解くかどうか迷っていた二人に向かって声をかける。
そして俺達はスケルトンに見送られながら転移魔法陣を使って門の広場へ戻った。
「よし、戻ってきたな。二人共お疲れ様だ。怪我の治療と体力の回復をやっとやっておけよ。行く時はまた声をかけるからな」
「おぅ!」
「はい魔王様。またご一緒させてくださいね」
二人をオーガの村へ戻るのを見送った後、俺も自分の部屋に戻ろうとした時。こちらへやってくる者がいた。
以前同じような光景があったような……、その時はあまり思い出したくない用事を伝えてきたものだ。
「魔王様、おかえりなさいませ」
今回はこの俺の秘書様は何のためにここで待っていたのやら。
「どうしたヒナ? また前みたいに査問とか言うのではないだろうな?」
俺が冗談めいて行った問いかけに対してヒナは、
「いえ、単に書類がたまってきているので、早く処理して頂きたいだけです」
至極真っ当で、単純ゆえに重い案件を持ってきたといえる。
明日は一日執務室に篭る事になるか……。
ヒナが翌日のスケジュールと、細かい時間配分を告げるが、明日一日で終わるのかどうかすごく気になった。
俺の予想通り、次の日は終わるはずのない書類との格闘が朝から夜までずっと続いた。
実はさらに翌日も同じような状態になるのだが、とある一通の申請書が査問の時と同じように俺を苦しめる事になるのだった。




