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魔王城からは逃げられない  作者: 野良灰
4章 骨肉の戦いからは逃げられない
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油断大敵

「まぁ折角の機会だし、戦ってみるといい」


 俺にぼろぼろにされたディブランスに対して兄妹は気がすすまないようだが、戦ってみるよう促した。

 何事も経験だ。


「それに、牙一本に右前足の爪四本全部、尻尾も中ごろから千切れてるぐらいで、楽に勝てると思ってるならやってみろ」


 まだ躊躇している二人に発破をかける。


「ん~……わかった、兄貴が言うならやってみるか」


「わかりました。満身創痍な相手ですが……まだ楽しめそうですものね」


 しぶしぶ敵に向かって歩き出す二人。

 ちょっと油断しすぎだと思うがなぁ。

 他の小物の骨魔物相手とは違うという事をわかっているのかいないのか。

 もっと刺激や戦い甲斐を求めているなら、その願い叶えてやろう。



 オーガの兄妹と暴悪竜(ディブランス)の戦いが始まった。

 戦い方は相変わらずスタンが前にでて切りつけて、シアが合間に鎚で叩くといったものだ。

 恐らく、落ちこんだカバネの影響で相手の動きがさっきよりも鈍い。

 だから雑な戦い方でも何とかなってるようにみえる。

 あれでは折角の本気で戦える機会が勿体無い。

 

「はぁ……あんまり壊されないように頑張るデス」


 カバネの最初あった気合はどこか遠くへ消えうせたらしい。

 全く、ちょびっと一方的にぼろぼろにされたからって……。

 このままでは、二人のためにもならない。

 そこで俺はカバネの所へ行って声をかけた。


「おい、もう少し気持ち込めて戦ってやってくれ」


 俺が声をかけた所、ゆっくりと首を回してこちらを見るカバネ。


「魔王様デスか……と言われても、あれだけやられてからでは……はぁ」


 ため息と共に再び視線を下へ落とす。

 背中も丸まってしまっている。


「これだけすごい魔術を使う男がそんな調子でどうする!」


 丸まってしまった背中を叩く。  

 

「痛いデス! ワタクシこの魔術しか使えません。だから凄くなんて無いデス」


 叩かれて一瞬背筋が伸びるが、すぐに再び丸くなって、こちらを見る視線もどこか虚ろだ。


「そんな事はない! 骨や牙の一部分から、これだけの軍団を生み出せるのだろう? 十分凄いではないか!」


 対象の骨全てを必要とせず、一部分だけあれば、元の体格を再現できている点で大した魔術だと思う。


「そう……でしょうか?」


 少し頭が上がってきた。


「うむ! あのディブランスは特に良い。とっておきというだけあって、俺とて本気を出さなければ危なかったぞ」


 また頭についていた角度が上がってくる。良い感じだ。 


「ただ惜しむらくは、単調な攻撃に終始した事だな。それが無ければ勝負はどうなっていたか……」


 そう言って、チラリとカバネの方に視線をやる。

 完全に頭は上がり、背筋も真っ直ぐになっていた。

 よし、最初の状態に戻ってきたな。


「折角だ、あの二人相手に試してみるが良い。ディブランスに対して俺の言うように指示を出してみろ」


 ここでようやく俺の狙いを口に出す。さぁ、のってきてくれるかどうか。


「よろしいのデスか?」


「一向に構わん!」


 よし、これで良い。他から見ると俺達は悪い笑顔をしていると思う。



「あれ? シア! こいつ動き変わってきたんじゃないか?」


「私もそう思います。兄様気をつけてください!」


 まだ指示を出していないのに、ディブランスの動きに変化が生まれた。

 スタンにシアよ、お楽しみはこれからだぞ……くくく。


「よし! カバネよ、まずは前衛の小僧を狙え! 左前足をあいつに向かって振り下ろすのだ!」


「はいデス!」


 俺の指示に従ってカバネがディブランスを動かす。


「ちょっ! いきなり動きが早くなったぞ」


 健在な左の四本爪がスタンに向かって振り下ろされる。

 油断している時に動きがよくなったために避けられないスタン。

 大剣を両手で頭上に構え受け止める。


「今だ! 右前足で横から殴りつけろ!」


 左を何とか受け止めた所に、横から襲い来る攻撃。


「うわぁぁぁぁぁ!」


 当然、避ける事ができず吹き飛ばされるスタン。

 慢心しているからだ。


「続けて小娘の方へ攻撃するぞ! あいている距離を走って詰めろ!」


「了解しましたデス!」


 兄が吹っ飛ばされるのを目で追っていた妹の方を今度は狙う。

 俺に対して追い討ちをかけようとした時の、突撃してからの攻撃だ。


「今度はこっちに? 懲りないですね」


 さっきは死角から近づいてきたシアの攻撃で顎を跳ね上げられていたが、今回はそうはいかんぞ……。

 ふと、考えている事が悪役みたいな内容になっているが……まぁ気にしないでおこう。


「よし、攻撃可能な距離はこっちに分がある。近づききる前に右・左・右で前足での連続攻撃!」


 大鎚を構えるシアの間合いに入る前に、両足を使っての連続攻撃を繰り出す。

 思いもよらない距離で、攻撃に入られると一瞬体が固まる。

 さっきのように、噛み付けるぐらいの所まで来ると思っていたであろうシアの動きが驚いた顔のまま停止する。


「きゃぁ!」


 両足の連続攻撃への反応が遅れて、三発目の右の攻撃で兄と同じように吹き飛ばされる。


「魔王様、ワタクシやりました!」


 カバネが嬉しそうな声をあげる。


「馬鹿者! 油断するな、起き上がった小僧が向かってきているぞ!」


 そう、先程吹き飛ばされたスタンが起き上がり、反撃するために駆け寄ってきていた。


「こんのぉぉぉぉ!」


 スタンが大剣を振りかぶって切りつけようとしている。


「よし! あの近くにいる熊型の骨魔物を掴んで投げつけろ!」


「はい! …………って、えぇ!? そんな攻撃ありなんデス?」


 俺の指示する攻撃方法に驚くカバネ。


「構わん! 早くせんか!」


 そして俺の言った通り、味方を掴んでスタン目掛けて投げつけた。


「うわぁ!」


 これも予想外だったようで、骨熊ともつれあいながら再び吹き飛ばされるスタン。


「カバネよ、このように、相手に次の攻撃を読ませないように戦わねばならんぞ!」


「は、はいデス……」


 表情が若干引き気味であった。 


「兄様しっかり!」


 起き上がっていたシアが兄の下へ駆け寄り、もつれ合っていた骨熊を鎚で吹き飛ばした。


「痛ぅぅ……何かさっきまでと、攻撃がかなり変わったぞ……」


「はい、どうして急に……」


 二人が体勢を立て直しながら立ち上がり、そして俺と視線が合った。


「何で兄貴が仁王立ちで、そっち側にいるんだよ!」


 背筋を伸ばし、腕組みをした堂々とした姿勢と悪そうな笑顔でスタンとシアに対して答えてやった。


「油断大敵だ!」

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