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魔王城からは逃げられない  作者: 野良灰
序章 事務仕事からは逃げられない
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【四壁】

 翌日俺は【絶望への橋】を越えて、次の部屋へ続く扉の前にいた。

 橋の中央が開いているという事を知っていれば越える事は難しく無い。

 あまりに高く飛びすぎて、不可視の障害物にぶつかる危険の方が高いだろう。

 しかし突破したという達成感とは別の気持ちが俺の中を占めていた。


「昨日は失敗した……」


 幻覚で橋があると思い込み、橋から無様に転落した事ではない。

 格好の良い跳躍法を研究している所をよりによってヒナに見られた事だ。

 初めは跳び越える距離をイメージして、跳び越える事だけを意識していたが、

これは案外簡単だった。


 問題は徐々に跳び方をどうするか? という事を考える事に夢中になった事だ。

 今思えばかなり悪乗りしていたと自覚している。

 でも正直楽しかったのだから仕方が無い。


――――――


 前方に約2メートルの穴がある事をイメージ。

 次は穴の手前まで助走するイメージで足踏みをする。

 そこから手を大きく後ろに振り。

 天に向かって振り上げ――両足で強く踏み切る。

 水に飛び込むように斜めに跳び上がる。


「おらぁぁぁぁぁぁっ!」


 穴を華麗に飛び越えた俺は勢いを殺すために両手を地面につく。

 力の流れに逆らわず前転しながら飛び越えた穴を確認するように体を捻る。

 そして笑みを浮かべながら俺の邪魔をしようとした罠に向かって


「この程度の罠で俺を止められると思われているとは愚かな事だ」


 考えていた台詞を読み上げてみた。 


「ふむ……ここで穴に向かって指を指した方がいいか? いやその前にもう何回か回転してからの方がギリギリだった感じがするか……」


 跳び越えた後の着地の仕方から、ポーズや台詞等を考えていた。

 納得のいく仕上がりを求めて試行錯誤を繰り返している。

 その時不意に部屋の入り口の方から声が聞こえた。


「……何をなさっているのですか?」


 いつの間にか戻ってきたヒナだった。


 見られたか!?

 一体いつ部屋に入って来たんだ!?

 どこから見られた?


 心臓が激しく拍動する。


 何か――何か言わないとっ。

 どうする……考えろ俺!


 頭の中でこの場に適した言葉を必死に導き出した結果


「いや、ちょっと運動をだな……」


 ……これはどうなんだ?

 明らかにおかしいだろう……俺は選択を激しく後悔した。


「そうですか」


 ヒナはそう言うと、跳び越えた後のポーズのまま固まった俺の横を通り過ぎ、持ってきた飲み物を机に置いたのだった。


「それでは仕事の再開をお願い致します」

「……はい」


 そこからはお互い無言のまま黙々と仕事をこなした。


――――――


 昨日の出来事を記憶の片隅に追いやりながら、次の部屋への扉を開いた。

 扉の先にあったのは何の変哲もない通路で、気配や怪しさは感じられなかった。

 天井もかなり余裕のある高さで、通路の幅は結構広い。

 二人か、三人横に並んでも大丈夫なくらいだ。

 正面と右側は壁で進めるのは左の方向だけか。


 正面の壁を見つめながら、考えていた事を試してみようと思った。

 それは壁を壊して進めないかだ。

 これができればかなり短時間で突破していく事が可能になる。

 部下達の生活の場では無闇に壊すわけにはいかないが、ここなら試してみても迷惑がかかる心配は少ないだろう。


「ふんっ!」


 右拳に魔力を集中させる。

 そして正面の壁に向かって拳を突き出し、拳に込めた魔力を解放する。


 結果はというと……派手な音はしたが、壁自体はびくともしなかった。


 ちょっと自分の力に自信を無くしそうだ。

 ダンジョン全体がどんな素材でできているのか今度調べてみるか。

 全力では無いにしても、壊すつもりで殴った結果がほぼ無傷という事は何かしら理由があるはずだ。

 むしろ理由が無いと、俺の自信が音を立てて壊れる。

 今日の所は壁を壊して進む事を諦めて通路を行くとしよう。


 仕掛けが無いか周囲を警戒しながら通路を進む。

 壁に一定の間隔で光源があるが若干薄暗い。

 今度は幻覚や他の仕掛けに邪魔されないようにしなくては。


 しばらく進むと右への曲がり角が見えてくる。

 曲がり角の手前で立ち止まり、曲がった先をそっと覗き込んでみる。

 床、壁、天井、通路の先、特に怪しい場所はない。


 再び警戒しながら通路を進む。すると再び右への曲がり角が見えてきた。


「また右か」


 そう思いながら、曲がり角の手前で立ち止まり、安全を確認しようとした所、先の通路で何かが動くような音がした。


「なんだ?」


 嫌な予感を感じて確認のために急いで角を曲がった。

 そこで俺が見たのは、新しい罠が俺の行く道を閉ざそうとする光景だった。

 左側の壁の中から通路を塞ぐように、新しい壁が滑りだしてきていたのだ。


「やばい!」


 完全に塞がれる前に抜けないと先には行けなくなる。

 そう思った時にはもう夢中で走り始めていた。

 走りながら、壁の進む速度と俺が出せる速度を比べて考える。

 大丈夫、壁はそこまで速くない。

 何とか抜けられる。

 通路の右側に寄りながら走る。

 速度を上げたが、奥から別の壁が動く音が聞こえてきた。


「一枚じゃないのかっ!」


 聞こえてくる音に焦りを感じながら急いで走りぬける。

 目の前の一枚目の壁が通路を防ぐ前に通り抜ける事には成功した。

 しかしまだ次の壁がある。

 壁の出てくる方向を見据えながら動きと出てくる速度に注意する。


 今度は右側から同じような速度で壁が滑り出してきていた。


「このまま走り抜けるしかないかっ!」


 速度を上げながら通路を疾走する。

 今の速度を維持すれば抜けられる。

 目の前で狭くなる通路と、壁が動く音が焦りを呼び起こす。


 しかし、迫る二枚目の壁の左側を何とか通り抜ける事に成功した。

 すると奥からまた同じように壁が動く音がする。


 音がした地点までは今までよりも距離がある。

 目をこらして見えたのは、左前方から三枚目の壁が滑り出してくる様子だった。


「まだ――抜けられる!」


 予測は正しかった。

 壁が体に触れそうになるが、三枚目も通路が塞がる前に抜ける事ができた。

 

 しかし、頭の片隅で考えていた当って欲しくない予測が当たる。

 先の通路からまだ壁が動く音がする。

 しかも聞こえる音は一枚じゃない。


「止まったら此処で終わり――か」


 そう思いつつ走り続ける。

 左・右・左と来たから次は右か?

 それとももう一度左か?

 両側の壁の変化を見逃さないように注意深く前方を見た。

 

 答えは左だった。

 

 タイミングは正直かなり際どい。

 しかもその先に恐らくもう1枚ある。

 次が右か左か……まだ見えない。

 見誤ったらそこで閉じ込められる可能性が高い。

 

 走る速度を落とさず、通路の右に寄り四枚目までの距離を測る。

 せり出してきた壁は通路をどんどん塞いでいく。

 まだ開いているスペースに身体ごとねじ込むしかない。

 全力で走りながらもタイミングを計る。


「今っ!」


 体を横にしながら迫る壁の横を抜ける。

 頭のすぐ後ろで通路が塞がったような音がする。

 けれどもそんな事気にしていられない。

 次の壁が出てくる方向を見定めなくてはならない。

 どっちなんだ? 速度を保ちながらも左右の壁を注視する。


 答えは上からだった


 前方の頭上から石壁が落ちてくる。


 止まる? 

 前へ進む?


 二つの選択肢が思い浮かぶが、迷う事のできる時間はほんの一瞬だった。

 選択するよりも先に、体が昨日練習した跳躍の動きをとる。


「おらぁぁぁぁぁぁっ!」


 そして俺は壁の先へ向かって滑り込んだ。

 そのすぐ後ろで轟音が響き渡る。

 前転もポーズもする余裕もなく、頭から突っ込むだけになった。

 しかし閉じ込められる事も、押し潰される事も無く突破する事ができた。


「この程度の罠で俺を止められると……ん?」

 

 昨日考えた台詞を言う途中で、地面の下から音が聞こえてきた。

 次の瞬間大きな音と共に、俺の目の前……地面の下から六枚目の石壁が現れたのだった。

 

 その日の攻略の道は六枚の石壁によって閉ざされてしまった。



≪攻略メモ≫

【可動壁の部屋】

・二つ目の角を曲がった先から進路を塞ぐように壁が滑り出してくる。

・順番は『左・右・左・左』で来る四枚の壁。その後上から落ちてくる一枚と下からせり上がる一枚を確認。


その先の部屋の状態は未確認。現時点でわかっている所までの順番を覚えて通路が完全に塞がれる前に突破する。


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