破壊 無慙な行為
カバネが生み出した他の骨魔物は、この戦いに巻き込まれまいと距離をとっているようだ。
俺とスタン、シアが見守る中、倒れていた暴悪竜が頭を上げる。
起き上がったディブランスは、自分に攻撃をしてきた二人の顔を睨む。
後ろ足が強く床を蹴り、怒りを表すかのように尾を立てて揺らしながら、こっちに向かって走り出す。
「悪いが先に行くぞ」
俺も向かってくる暴悪竜目掛けて走り出す。
「あ、ずっるい!」
スタンが文句を言ってるが気にしない。
悪いが、どこまで力が出せるのか試してみたいんでな。
俺の戦闘スタイルは極めて単純だ。
『魔力を込めて殴る、蹴る、守る』
ただ、それだけだ。他と比べて圧倒的な内臓量の魔力を使って戦うには、これが一番やりやすい。
攻撃魔法も使えるが、魔力量が多すぎるがゆえに、一度に使う量の調節がダメ過ぎて使いづらい。
だから、戦闘における要である自分の魔力をどれだけ戦闘に使えるのか、試しておいた方が良い。
この先、コイツ以上の相手が出た時に、どう立ち回るかが変わってくる。
まずは防御を試してみるか。
「さぁ、その爪で切り裂いてやるのデス!」
奴が俺に向かって右前足を振り下ろしてきた。
受け止める左半身全体に、踏ん張るための両足を中心に魔力を込める。
四本の爪が空気を鋭く裂きながら襲い来る。
その攻撃を、避ける事をせずに左手と左足で防御する。
「ぐっっ!」
攻撃の衝撃を抑えきれず、俺の体が少し浮く。
凶暴な爪が服だけでなく、皮を裂き、肉にまで僅かに届いた。
正直、思ったよりも守れていない。
「その調子デス。やっちゃいなさい、ディブランス!」
俺が自分の力の低下に驚いている間に、カバネの声に答えて、奴は左前足で獲物を踏み潰そうとしてきた。
「これは、思っていたよりも力が出ていないな……」
向かってくる左前足を両手で受け止める。
自分の足で獲物を踏み潰すつもりが、潰れない事に驚いて、左前足の下にいる俺の方を覗き込んできた。
「あぁ、悪い。あまりの力の低下に驚いていた」
俺が潰れていない事と、普通に答えたのが気に障ったのか、しぶとい獲物を噛み砕こうと、今度は四本の巨牙が襲い来る。
避けるよりも、上の牙一本に狙いをさだめ、全力を込めて右で殴った。
当てた場所から牙にヒビが入り、暴悪竜自慢の一本が、無残に折れて床へと転がった。
「あぁぁぁぁぁぁ! 牙が……大事な牙の一本がっ!」
多分痛いという感覚は無いはずだが、牙が折れた辺りを前足で触っている。
気のせいかもしれないが、頭が悲しそうに垂れている。
カバネは地面を転がって悶えていた。
しかし、今の攻防でわかったのは、一点、もしくは部分的に集中させれば力は出せる。
だが、防御の時のように、広い範囲へ強く魔力を込めようとするのは難しい。
「それでも……昔ほどの力が出せないか」
「きぃぃぃぃぃぃ! まだ、まだ負けてませんよ! 折られた牙の借りを返してやるのデス!」
俺が今後の戦い方について考えていると、懲りずにディブランスが襲い来る。
大体はわかった。後は……
「折角だ、もう少し攻撃時の確認をしておこう」
残った牙を折られたくないのか、走ってきたと思ったら、体を回転させて、最初に成功した尻尾での攻撃を繰り出してきた。
「魔王に同じ攻撃が、二度も通じると思っているのか?」
眼前に迫る尾を、魔力を手首から先に込めた右手刀で切断する。
この状態なら、そこらの名刀の類よりも遥かに切れ味がいい。
千切れた尾が、遠巻きに見ていた数体の骨魔物を巻き込む。
「今度は尻尾までぇぇー!」
カバネは頭を抱えてまた悶えている。
感覚を共有しているというわけではないだろうに。
まだ尻尾が無くなった事に気づいていないディブランスの前方に回りこむ。
「こっちも危ないな」
右前足の爪四本を、端から順番に蹴り砕く。
花瓶を落として割った時のような音をたてながら、凶悪だった爪は姿を消した。
やはり、力を複数部位に分散させなければ俺の強度の方が上だ。
ディブランスもようやく自分の体の状態がどうなっているか気づいた。
牙一本、右前足の爪全てを破壊され、尻尾も無し。
そのあまりの惨状に、ただ呆然としている。
まぁ動かないのはカバネが、地面に伏して泣いてるからかもしれないが。
「よし! 大体わかった。後はスタン、シア任せた! 手ごわいから気をつけるんだぞ!」
俺が知りたかった事はわかった。もう少し細かく確認してもいいが、あの兄妹にも経験を積ませてやらないとな。
ただ見ているだけでは勿体無いからな。
「兄貴……あいつもう結構ボロボロじゃない?」
「見てて,ちょっと気の毒に思えてきました」
む、戦いやすいようにしたつもりが、壊しすぎたか?
でも今の二人じゃ、万全の状態の奴の相手は危険だし。
実験に夢中で加減を間違えたのか……。
悩む俺と、相手に同情する兄妹が沈黙して静かになった部屋に、カバネのしくしくとした泣き声だけが響き渡っていた。




