それは唯一人の例外なく
骨犬に不意をつかれ、スタンが負傷する事態を招く。
けど脇腹の傷が大した事なくて良かった。
だが、これ以上傷が深くならないよう、歩みは僅かに遅くなる。
一度戻る事も考えたが、
「大丈夫だよ兄貴! まだ物足りないし先に進もうぜー」
とスタンが言うし、新しく血が滲んできてないから、ちゃんと塞がっているようだからな。
それに、自分が負傷したせいで引き返したくはないようだ。
「しかし、人型以外にもいるとはな……。牙や爪がある分、獣型の方が厄介だな」
この分だと犬みたいな奴よりも大きいのがいる可能性も考えておくか。
「あの、魔王様。骨を操っている者は、例え近くにいなくても、あのように動かせるものなのですか?」
左側を歩くシアが、先程から俺達を襲う奴等について聞いてきた。
「操っているといえば、操っているのだろうが、どちらかといえば奴等はガーゴイルに近い」
俺もこの手の魔術について元々詳しいわけではない。
だが、申請書で見た内容は薄っすらと覚えている。
「奴等は予め魔術によって生み出され、この区画の通路上に配置されている」
確か必要な素材として、魔物や人、魔獣といった生物の歯や爪、骨等が計上されていた。
恐らくそれが生み出すために必要な触媒。
「そして、ガーゴイルのように簡単な命令を与えられているはずだ。だから操者が近くにいなくても活動できるんだ」
「簡単な命令のみだから、人型であっても複雑な動きはできないのですね」
そう。だから一番厄介なのは操者が直接動かしてくる場合だ。
「直接操者が動かしてきた場合、順次命令の書き換えや複雑な操作が可能になるから厄介になる」
「そうなったら骨相手でも手強くなるー?」
どうだろうな? スタンの疑問に対しての答えを考える。
一体なら、かなり複雑な動作や攻撃が可能になるだろう。
しかし、一体ないし数体では苦戦するイメージはできない。
数が増えれば、対処が大変かもしれないが、同時に動かせる数には限りがあるだろうし。
そうなると大勢でも、何かしらの命令で動かしながら、一部を直接動かすような戦い方になるか。
一体よりこちらの方が手強そうだ。
通路を進みながら、それぞれの場合の戦いを想像してみる。
「数で押された場合は手強いかもな」
もしさっき撃破した数十体のスケルトンに適宜指示を与えて動かされていたら、もっと苦戦した気がする。
そこに骨犬も加わるだけでも面倒そうだ。
「俺が覚えている申請書の内容通りなら、恐らく相手は数で押してくるぞ」
申請していた素材の単価はバラバラだったが、個数は全部で百や二百どころではない。確かものすごく多かった。
スケルトン一体を生み出すのにどれくらい使うのかはわからなかったが。
しばらく歩き、その間何度も敵の襲撃を受けるも、俺達三人の前では敵ではない。
すると俺達は、天井が高く、軍団での訓練ができそうな程の大きな部屋についた。
部屋の中央には骨や爪、牙といったものが、無造作に山積みにされている。
そして、その山を見上げていた視線を下に移すと、一人の派手な格好をした魔族がいた。
「魔王様、ようこそデス。ワタクシがココの管理人と防衛を担当している、カバネと申します」
帽子をとり、俺達に向かって頭を下げて挨拶をしてきた。
大きく見開かれた目がこちらを見ている。
派手に金色の糸で装飾されたコートを身に纏い、左が白、右が黒という左右で色違いのズボンを穿いている。
「務めご苦労。一応聞くが……通してくれるのか?」
俺の問いに対し、カバネと名乗った魔族は、
「いえいえ、通達を聞いてから、この時をワタクシとても楽しみにしておりました」
首を横に振り、両の手を大きく横に広げ体全体で喜びを表現しているようだ。
「思っていたよりも、ずっと早く機会がやってきて、ワタクシ歓喜っ」
自分で自分の体を抱きしめるようにして、身悶えしている。
何がそんなに嬉しいのかわからないが、実戦形式で視察に応えてくれるつもりらしい。
「そうか。ではお前の後ろの素材で、スケルトンを生み出して戦わせようというわけだな」
俺の言に対してカバネは大きな拍手をする。
「はい! その通りデス!」
まぁ、そうなるな。これみよがしに素材を積まれてたんじゃな。
「才乏しきワタクシの唯一使える魔術ゆえに……一度でいいから、思い切り使ってみたかったのデス!」
今にも踊りだしそうな程喜んでいる、というか踊りだした。
「そうか、では時間も勿体無いし、始めようか」
付き合ってられん。俺が戦闘準備を整える前に、スタンとシアは既に準備を終えている。
数で押してくるのは予想通りだ。さっさと終わらせてしまおう。
「はい! ではいきますデス」
カバネを中心に魔法陣が浮かび上がる。
部屋の中央の素材の山も光り始めた。
そして山が沈むように動き、少し低くなったと思った瞬間、カバネの前方に、スケルトンが魔法陣から生み出された。
但しこれまでとは違っていた。
「武装……しているだと?」
生み出された人型のスケルトンは槍や剣を持ち、盾まで持っていた。
しかも魔法陣から次から次へ同じように生み出されてくる。
人型だけじゃない、骨犬や、もっと大型の熊のようなもの、鳥のように飛んでいるものまでいる。
「兄貴……数で押してくるってこういう事?」
スタンが驚いているのか、楽しそうなのか、どちらかわかりにくい複雑な表情で聞いてくる。
だがそんな表情で聞きたくなる気持ちもわかるのだ。
生み出されてくる数がこれまでの比じゃない。
ざっと見て百体をゆうに超える。
「これ以上は部屋を埋めつくしてしまいますので、第一陣はこのぐらいでよろしいデス?」
カバネはそう俺達に聞いてくるが、逆に聞いてやりたい。
「なぜスケルトンが武装しているのと、どれくらいの数を生み出せるのか、参考に教えてもらいたいのだが」
特に後者の質問は嫌な予感しかしない。
「武装しているのは、この山の下の方に予め置いてあったからデス」
そう言いながら自分の後ろの山を指し示す。
「もう一つの、どれくらいの数を、というのは答えるのが難しいデス」
素材の山を見ながら悩むカバネ。
「これだけの量を試した事無いデスが、多分、千体はいけると思いますデス」
俺達の方を見て、楽しそうな笑顔で言い放つ。
「あぁ……なるほど、楽しくなりそうだな」
カバネの答えを聞いて、俺自身も自然と口角が上がってくる。
久々に大軍相手に切り込む興奮に気持ちが昂ぶる。
「スタン、シア……下がっても構わんぞ?」
二人に向かって、千体の敵と戦う気があるのか聞いてみた。
相手は通路どころではなく、部屋を埋めつくさんとする大軍だ。
万が一だってありえるかもしれん。
「兄貴……冗談っ。こんな機会逃したら次いつあるかわからないよ」
「ですね。あぁ……魔王様についてきて良かったと思います。早く始めませんか?」
二人とも待ちきれないといった顔をしている。
「ワタクシも早く始めたいデス」
カバネまで首を縦に振って同意してくる。
全く、困った奴ばかりだ。唯一人の例外なくだけど。
「じゃあその笑顔……いつまで続くか試してみようか!」
魔王城の一角で、三対千という大規模戦闘が始まった。




