骨・骨・骨
俺達三人は、前を走るスケルトンを追いかけて、魔王城の薄暗い通路を全速力で走っていた。
そんなに広くない通路に、骨と骨がぶつかる音と三つの石畳を蹴る音とが響いている。
「あの骨……結構足が速いな」
俺達とスケルトンの距離は直線を走っていると縮まる。
しかし右へ左へと通路を曲がる時に少し離れるのだ。
曲がる方向がわかっているかどうかの違いが出ている。
その上、この区画……曲がり角が多い。
「兄貴ー。このままじゃ追いつけないよ!」
すぐ後ろを走るスタンの言う通りだ。
「遠距離攻撃で倒す!」
俺は拳に魔力を込め、塊状にした魔力弾をスケルトンに対して撃ちだした。
しかし、すぐに曲がり角があり、結果回避された。
スケルトンも俺が狙っているのに気付いたようだ。
頭だけ、くるりとこちらに向けてきた。
歯を鳴らして、追いつけない俺達を笑っているような動きに腹が立つ。
一つ、二つ、三つ……続けて撃ちだすが、全弾当らない。
「……通路一杯に、魔力を広げて潰すか」
あまりに当らない状況にいらいらしてきた。
魔力の調節をしないで、今の俺の鬱憤を発散させるが如く撃ちだせばいい。
「魔王様、私達は少し下がりましょうか?」
確かに余波で転んだり、怪我をさせるわけにもいかないしな。
「そうだな、少し下がって――」
下がってくれと言おうとした時、前を行くスケルトンがカタカタと歯を鳴らす音がはっきりと聞こえた。
そしてスケルトンが通路の分岐を右に曲がり、俺達も続いて曲がった。
俺が踏み出した足の下で、何かを砕いた感触と、妙に耳に残る乾いた音がする。
音の主を確認しようと、下を見た俺の目に映った光景は、床一杯に散らばる骨、骨、骨だった。
前の方で床の骨が動いている。音を立てて骨が集まりだす。
俺達がその場所を通過する前に、四体のスケルトンが新たに立ちふさがった。
「兄様!」
「おぅ!」
後ろから声がしたと思ったら、両側から二人が前に飛び出す。
スタンが右側、シアが左側から、前方に現れた新たな敵に攻撃を仕掛ける。
「いくぜぇぇぇ!」
スタンが走りながら大剣を前に突き出す。
横に薙げば壁に当るか、自分達の進路を塞ぎかねない。
その判断は正しい。
突進しながら剣先でスケルトン達を突き崩す。
「とりゃぁぁぁ!」
シアの方は……荒れ狂う牛のように、大鎚を前に構えたまま、スケルトンを薙ぎ倒し砕いている。
振り回されたらスタン以上に危なそうだ。
すぐさま四体のスケルトンは砕かれて再び床に散らばった。
しかし次のスケルトン達が通路の先々で起き上がってきている。
俺も魔力弾で砕いていくが、きりが無い。
先に進めば進むほど骨の量が多くなり、立ち上がってくるスケルトンも増えてきた。
その間を俺達が追う、走るスケルトンが通り抜けていく。
俺達も群がるスケルトンを砕きながら進むが、速度は上がらない。
このままでは逃げられてしまう。
「スタン、シア……一気に吹き飛ばすから下がれ!」
二人が下がるのを確認し、俺は魔力を解放する。
通路全体に行き渡るように、広範囲へ魔力を広げて吹き飛ばすイメージで。
掌を前へ向ける。
解き放たれた魔力が暴風の如く通路全体を吹き荒ぶ。
走るスケルトンが、地面に散らばる大量の骨ごと、さらに前方へ吹き飛ばされる。
そしてバラバラに砕かれて地面へ撒かれる。
「これで……もう逃げられまい」
援軍を呼ばれる事も騒ぎになる事も防げたという達成感が俺の体を駆け巡る。
しかし、俺はそこで気付く。
吹き飛ばしたスケルトン達が再び集まって立ち上がっていく姿を見た事で。
「今気付いたんだけど兄貴……。援軍が立ちふさがってるし、騒ぎにもなっちゃったんじゃない?」
あぁ……スタン。言っちゃったねその事実を。
心の底に深く沈めておきたいその考えを……。
通路の横幅一杯に、行く手を遮る壁の如く、スケルトン達が並んだ。
完全な人型ばかりじゃない、上半分だけの奴や体の一部が不完全なままのスケルトンも多い。
かなり砕かないと相手の活動を止める事はできないらしい。
「吹き飛ばすだけじゃ駄目なようだ。復活できないように、奴等の全身を折って砕いて進むぞ!」
逃げるスケルトンの追跡が終わった俺達の前に、今度は数十体のスケルトンが立ちふさがった。




