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魔王城からは逃げられない  作者: 野良灰
3章 運命からは逃げられない
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小話 ネーファの日々1

*ネーファ視点の話になります。

「はふ……そろそろ起きないと……」


 昨日遅くまで木を彫っていたからか、まだ体が重いなぁ。

 いつ寝ちゃったのか覚えてない……。

 机で作業していてそのまま寝たみたい。

 腕に木屑が一杯ついていた。


 散らかった机の上を片付けて、出かける準備をする。

 今日は薄茶色の動きやすい服にした。

 といってもわたしの持ってる服って同じようなものばかりで、色も似てるけど。


 でもそんなわたしにも、一着だけ大事に着ている服がある。

 洋服置き場の中で風通しの良い所に、上から布をかけて大事に吊るしてある一着。

 この前の品評会で魔王様が買ってくれた服。

 可愛らしいと、よく似合ってると、あの人が言ってくれた私の大事な服。


 けどあれを着るのはもうちょっと後。まずはお仕事してこないと……。

 

「いってきます」


 誰かに対して言ってるわけじゃないけど習慣になっている。

 早く市場に行きたいけど、お仕事はちゃんとやらないとね。



「今日も異常無し……っと」


 わたしの仕事。ドヴェルグが管理する各区画の仕掛けの確認と、作動していたら再設置をする事。

 後、見て周って普段と比べて異常が無いかも見ている。

 今日もいつもの順路で区画を見て周ったけど、どこも変わってなかった。


 管理の仕事をするようになってから、変わっていたのは……わたしが魔王様と出会った時とその前日だけだった。


 誰かが迷い込んできて仕掛けが作動している時があるとは聞いていた。

 それまで一度も無かったけど、あの日の前日……幾つかの壁が作動していた。

 壁を戻してみたけど誰もいなかった。

 初めての事だったので報告する事なのかわからなくて、その日は仕掛けを戻すだけで帰った。


 次の日、前日より早く見に行ったら……仕掛けが動く音が聞こえてきた。

 誰かいる。

 

 自分が仕掛けにかからないように解除しながら少しずつ音のする方に近づいていった。

 すると音が止んだ。どうやら侵入者を閉じ込めたみたい。

 わたしは決めていた手順に従って侵入者の対処をする事。

 それもわたしのお仕事。音の止んだ地点に近づいていって……


 そして……わたしは魔王様に出会いました。


 そこからは何だかあっという間で、よくわからない内にわたしは品評会に参加する事になっていました。

 管理のお仕事の他に品評会の準備をする事になって、これまでの日々とは違う忙しさが……。

 でも……その中でわたしは魔王様の事が……。

 見える世界全てが暗く、何も無い日々に慣れていた、そんなわたしの心に突然現れたあの人の事が……。


 品評会の日も、一人で何もできなくて、頑張って準備した物も売れなくて…… 

 また自分が何も出来ない事が嫌になっていました。


「調子はどうだ?」


 そんな私に声をかけてくれたのは……犬顔の獣人に化けた魔王様でした。 

 魔王様は一緒になって準備だけでなく、お店も手伝ってくれて……。

 そこからは指示に従って、色んな人に声をかけて商品の案内をしました。

 その時お話しした皆さんの中には、今でも市場でお話したり色々教えてくれたりする人もいる。

 品評会の結果は良くなかったけど、魔王様や皆さんのおかげで楽しかった。

 魔王様はこうなると全部わかっていたのかな……。


 そしてわたしは魔王様の薦めで……市場に小さなお店をだす事になった。

    

 魔王様に出会ってからを思い出しながら今日の見回りは終了。

 この前わたしがわかる場所まで道案内して、お別れした後魔王様には会えてない。

 

「会いたいなぁ……」


 意識してなかったけど、声に出てしまった。

 部屋への帰り道で誰も聞いてないのはわかってるけど、何だか恥ずかしくなり走って部屋に戻った。

 それから私の大事な服に着替えて、昨日彫り終えた商品を持って市場に向かう。



「あ、ネーファちゃん。ご飯食べていかないのかい?」


 お店に向かって市場の中を進んでいたわたしに、飯屋のおばさんが声をかけてくれた。


「あ、あの……いただきます」


 この人も品評会で知り合った一人。

 市場にくるようになってからは、その縁もあってこの店でよく食べている。

 声かけてくれたのを断るのも悪いし、食べていくことにした。

 

「はいよ! ちょっと待っててね」


 隅の方のテーブルに座って、いつものように待つ事にした。

 注文は一番安い日替わりのメニューに決めてるから、何も言わなくてもそれがでてくる。

 二十席程のお店の中には、わたし以外にもお客さんがたくさんいた。

 一人で黙って座っていると、嫌でも周りの話が飛び込んでくる。


「やっぱ市場で一番可愛いのは服屋のマリルちゃんだろ!」


「いや、違うね。リアン商会の受付嬢やってるレティシアさんに決まってるだろう!」


「最近、絹糸の仕入れ値が高くなって困ってるんだよ」


「あぁ……値段上がり続けてるよな」


「……何があっても不問と聞いたが本当か?」


「そうだ。けどそれだけじゃ無い。もし……すれば……報酬…………何でも……」


「元気な笑顔と猫耳、そして愛らしい尻尾の良さがお前にはわからんのか!」


「わかる。だがなレティシアさんのあの……大きな胸は魅力的過ぎるのだ!」


「貴様……胸派だったのか」


 何だか色んな話が耳に入ってくる。

 男の人はやっぱり大きい方が良いのかな。

 自分の胸を見て……ちょっと悲しくなった。


「はい、おまたせっ」


「あ、ありがとうございますっ」


 自分の胸の大きさを確認するようにぺたぺたと触っていたら、突然おばさんが料理を持ってきた声に驚いた。


「どうした? 元気ないじゃないか?」


「いえっ、べ、別にそんなことないですよ」


 そういえば……この人の胸も……大きい。

 何か秘訣とかあるのかな?


「あ、あの……おっぱいってどうやったら大きくなるんでしょう?」


 つい聞いてしまった。


「……ははは! そうか! それで悩んでたってのかい?」


 おばさんが豪快な笑顔を向けてきた。


「じゃあ、良い体操教えてあげるよ。私の所の娘もこれでさらに大きくなったんだ」


 おばさんが私に耳打ちで体操とやらを教えてくれた。

 忘れない内にメモしておかないと。


「しかしネーファちゃんがそういう事を気にしてるとはねぇ……好きな人はいるのかい?」


「ふぇっ!? い、い、いま……す」


 聞いた体操を詳細にメモしてる時に聞かれて、つい正直に答えてしまった。 


「そうかいそうかい! なら……その人に手伝ってもらった方が効果的かもね」


 おばさんは何故かすごく笑顔でそんな事を言った。

 手伝ってもらった方が効果的?


「なに、昔から伝わる方法ってのがあるのさ。まぁ……ネーファちゃんがその人と上手くいったら教えてあげるよ」


 そう言って、冷めない内に食べちゃいなよと言っておばさんは調理場に戻っていった。

 メモを終えたわたしは、目の前の美味しそうな日替わり料理を食べ始めた。

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