表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王城からは逃げられない  作者: 野良灰
3章 運命からは逃げられない
40/86

再び先へ

 市場に行った次の日、事務仕事を片付けた俺はオーガの村でスタンとシアの二人と合流した。


「兄貴ー、仕事終わるの早かったね」


 村の入口近くで剣を振っていたスタンが意外そうに言う。

 目安で伝えておいた合流時間より確かに早い。


「今日、俺の所に来た書類がいつもより少なかったんだろう」


 枚数を数えているわけではないけどな。

 後何枚処理したら仕事が終わるか、なんて考えていたら処理が遅くなる。

 と、経験で俺が思っているだけだ。

 

「じゃあ、シアを呼んでくるから兄貴はここで待ってて!」


 剣を振る手を止めてスタンが村の中へ走っていった。

 俺はこのまま入口で二人が戻ってくるのを待つとしよう。


 少ししてスタンがシアを連れて戻ってきた。


「よし。それじゃあ二人とも行くぞ」


「おぅ!」


「はい!」



 俺達は三度目の【仕掛け通路】を抜けて進む。

 今回は仕掛けの再設置すらされていない。

 そして補充のされていない【ガーゴイルの間】も越えて閉じられたままの通路にたどり着いた。


「楽でいいが、俺が通るのがわかってて再設置してないんだな」


 贅沢な事を言っている。

 

「はい。壁の解除方法を聞きに行った時に「魔王様達が通ってから再設置だな」と言ってました」


 右横に立つシアがオーガの管理人の言葉を伝える。

 

「いいのかそれで? 通達は実戦形式でとなっていたはずだが」


 シアを見ると、俺に対し笑顔を向ける。


「私達オーガは自分達で魔王様の行く道を妨げる事はしません。ただ共にある事を望むだけです」


 訓練と思ってやってもらっても構わんのだがな。

 だが嬉しく感じる俺もいる。


「でも前回は再設置されてたけどね」


 前を行くスタンが俺達の方を振り向いて素直に言った。 


「もぅ! 兄様台無しですっ」


 シアがずけずけと言う兄に文句を言う。

  

「再設置するのも管理の仕事の内だから構わない。だがシアの言葉も嬉しいぞ」


 なだめるようにシアの頭を撫でる。

 兄にまだ文句を言い足りないだろうが、おとなしく撫でられている。

 

「それじゃあ壁の仕掛けを解除して先に進もうか」


「……はい」


 シアに聞いてきた解除方法を実行するように頼んだ。

 まだ撫でて欲しそうな表情をしたが、塞がれた通路の右側を壁伝いに進む。

 

「えぇっと……」


 壁を手で確認しながら何かを探しているようだ。

 解除の仕掛けがあの辺りにあるという事なんだろうな。


「ありました!」


 シアは目的のものを見つけたようで、壁の下の方の石を押している。

 すると前方の通路を塞いでいた壁が音を立てて動き出した。

 前に通路を塞いだ時とは逆にの動き。塞いでいた壁が戻っていった。


「それが解除の仕掛けか」


「はい。この石を押せば解除されるそうです」


 無事に解除できて満足そうな顔したシア。

 その向こう側で塞がっていた通路が元の状態に戻った。


「じゃあ先に――」


 先に進もうと視線を通路の先に向けた時、通路に一人の男がいた。




「お疲れ様です……お疲れ様ですよっ! 魔王様!」


「イオス……」


 壁の向こう側にいたのは、イオスだった。

 暗い通路でもはっきりと見える金髪と仮面のような笑顔を向けてくる男。

 そして大仰に拍手をしながら俺達を迎える観客のようにそこにいた。

 

「何の用だ? 視察の見学にでも来たか?」


 こんな所にいるのは意外だが、不思議ではないとも思う。

 イオスは拍手をしながら俺の方へ歩いてきた。


「いえ、魔王様の見送りですよ。私もまた仕事に戻り、魔王城内を飛び回る事になりますから。その前にと」


「そうか……仕事に励む事だな」


 ここでこいつ相手に時間をとる必要は無い。

 近づいてくるイオスを無視して通り過ぎるとしよう。

 イオスは俺の進路を妨げないよう、横に避けて礼をする。


「スタン! シア! さっさと先に行くぞ。遅れるなよ」


 俺の後方で立ち止まったままの二人を呼ぶ。

 不意の登場に固まったままだった兄妹が小走りで俺に追いついてきた。

 イオスは二人に対しても礼をしたまま動かない。

 その姿を横目にスタン達は俺の傍にやってきた。


「魔王様、あの方は一体?」


 シアが突然現れた男について聞いてくる。


「ふん。あれが魔王城(ココ)の序列第二位だ」


 早く立ち去りたい俺は短く答えた。


「魔王様もお気をつけて。きっと素晴らしく、そして実りの多い視察になる事でしょう」


 後ろからイオスの声が聞こえた。

 それに対して俺は、


「あぁそうだな。では……さらばだイオス」


「はい。さよならです魔王様」


 振り返る事無く再び歩き出した。

 スタンとシアも慌ててついてくる。


 イオスがどういうつもりかわからないままだが、俺は進む事にしたんだ。


 今はただ前に進む。


 そう決めて俺は、真っ直ぐ続く通路を先へ向かって進み始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ