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魔王城からは逃げられない  作者: 野良灰
3章 運命からは逃げられない
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先へ進む前の準備、そして……

 魔王城の中で生活の中心ともいえるこの場所。

 正式な名称はなく、ただ【市場】と呼ぶ。

 武器・防具・装飾品・食料品から嗜好品等々、様々な商品を対価を払えば手に入れる事ができる。


 例の通達の直後だし下手に目立っても不味い。

 フード付の外套をシアに買ってきてもらい今はそれを着ている。


 その後市場の中で適当な飲食店に入り、昼食をとる事にした。。

 俺自身は飯もあまり喉を通らないというのに、スタンの奴は既に3回目のおかわり中だ。

 シアは控えめに見せようとしているのか、食べ終わった皿をすぐ店員に下げてもらっている。

 食べてる量はスタンと同じか、実は多いんじゃないのか?


「食べながらでいいから二人とも聞いてくれ。昨日出された通達の事は知っているか?」


 二人が満足するまで待っていたら時間がいくらあっても足りない。

 早速話を切り出す事にした。


「ツウタツ? 何それ~?」


 スタンは相変わらずマイペースで生活しているな。

 さっきおかわりした丼を片付けるのに忙しそうだ。


「魔王様の視察と、その視察が実戦形式で行われるというものですね?」


 シアは知っているようだ。また俺の事を呼ぶ時は小声で周囲に聞こえないように配慮もしている。


「そうだ。そこでお前達二人に改めて問いたい。危険は増したが、それでも俺についてくるのか?」


 ここははっきりとさせておかなくてはならない。万が一という事がありえるのだから。

 弛緩した空気にならないよう、二人の瞳をしっかりと見据えて問いかけた。


「もちろん! 魔王城(ここ)の中の色んな奴と真剣勝負ができるかもしれないんでしょ? こんな機会は村にいたんじゃ無いもん」


 スタンは俺の問いにすぐに答えた。

 さっきは通達を知らないと言っていたが、言葉の意味がわからなかっただけなのか?

 俺に対する答えは早かった。口角が少し上がり、強い奴と戦うのが楽しみだという表情だ。


「私もついていきます。どこであろうとお側に。そして魔王様の障害は私が全て砕いてみせますから!」


 シアもついていく、とはっきりと答えた。

 両拳を握り、気合十分といった面持ちだ。


「そうか。ついてきてくれる事は嬉しいが、ガーゴイルの時以上に危ない目に遭うかもしれん。二人とも無茶はするなよ。危ないと思ったら自分の身を最優先で守れ」


 俺はどこかで、この二人ならついてくると答えると思っていた。

 戦時でもない今は実戦経験を積む機会はほとんど無い。

 だから今、自分達の目の前にある好機を掴もうとするのではないかと。  

 そして俺は一緒に行く事で二人が祖父母に負けない、いや越えていく事を少し期待していた。


 万が一が起きないようにしなくてはな。

 そのためにも、


「何かしら準備していった方がいいのかもしれんが、思いつかん」


 俺は自分が抱いている悩みを二人に対して素直に言葉にした。

 防具で防御を高める? 薬草等の回復アイテムを揃える? 長引いた時のために食料等を買い込むか?

 どれも対策としてしっくりとこない。

 それはこの先何が待ち構えているのか全くわからないからだろう。


「魔王様。ひとまず市場をぐるりと周ってみて必要そうな物を探してみるのはいかがでしょう?」 

 

 シアがそんな提案をしてくる。

 まぁ、このままここで悩んで浮かんでくるとは思わないし、この提案に乗ってみるか。


「そうだな。では三人で見て周ってみよう。お前達も必要そうなものがあったら遠慮なく言ってくれ。


 足早に昼食を切り上げて俺達は店を出た。


 市場の中を練り歩く間、スタンは物珍しいのか色んな店に出たり入ったりしている。

 シアは俺の隣で周囲の警戒をしている。

 共有区画の市場で襲われたりする事は無いと思うが、本人は警戒しておくらしい。


 この時買ったのは、応急処置用に薬草、用途がありそうという事でロープ一束。

 あとは光源として中に蝋燭をいれて使うランプを買った。

 

 必要となるかどうかわからないので、何となくで買っているのは自分達が一番わかっていた。

 あとは必要になった時に対応するとしよう。


 まずは明日は今回聞き出した方法で罠を解除し先に進んでみよう。

 いきあたりばったり……じゃなく臨機応変にこれから進んでいくとする。 

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