魔王城が牙を剥く日
「そこまで魔王様が決心しておられるなら、私としても全力でっ! サポートいたしますっ!」
俺に対する賛同の言を熱く発し、すぐに笑顔にもどる。
まるで笑顔の仮面をつけたような、いつ見ても同じ微笑みを浮かべている。
こいつの性格がでているし、心がこもってない、と見るたびに思う。
「そうか。すまんな……だがお前にも仕事があるのだから無理はしないでくれ」
まぁいい、やっと終わると思って席を立とうとする。
しかし、立ち上がろうとした時……。
「では各種族への通達は手配しておきますね」
ん? 通達って何を……。
イオスの方を見ると奴と視線が合った。
「魔王様が視察に訪れた際には、全戦力と全ての防衛設備をもっておもてなしするように、と」
イオスの顔は同じ笑顔のまま変化していない。
しかし目の奥が冷たく感じるのは気のせいなのか?
「どういうつもりだ?」
こいつが言っている事は、俺に対して各種族に防衛行動という名目で攻撃の許可を与えている。
「魔王様がさっき仰ってたじゃないですか……『実戦形式で行ってこそわかる事もある』と」
確かに言った。だが……それを俺への攻撃の許可を与える事に解釈するか?
意図を掴みかねて、イオスの目をみて心情を探ろうとしてみる。
「ちょっと待ってください! イオス様……それでは魔王城の者が魔王様に危害を加えても良いというのですか?」
ヒナが俺より早くイオスに問いただした。
しかしイオスの表情は変わらない。
「訓練ですよ、訓練。確かに実戦形式となれば怪我や万が一という事もありますが……、そこは魔王様自ら危険がないと仰っていますし」
あぁ、言ったね確かに言ったよ。
苛立つ俺の横でヒナの表情も怒りの感情が見て取れる程に変わっていく。
「イオス! 貴方本当にどういうつもり? 魔王様を害するという事を私が許すとでも?」
俺の肌にぴりぴりとした何かが隣から発せられているのを感じる。
ヒナが放つ殺気だろう……。
しかし向けられている本人は平然としている。
「呼び捨てにされるのはいつ以来でしょうねフィーナ。一応私、序列二位なんですよ?」
そう、ヒナが秘書としての立場を放り出して発言している。
まだ集団と呼べる規模ではなく、俺達しかいなかった頃のようだ。
「イオス、お前は俺にどうしろと言うのだ?」
どうしろ、というよりどうなって欲しい? が正しいかもしれん。
こいつが俺を害そうとしているのかどうか、正直わからない。
真意がわからない事は今までもあったしな。
「魔王城の防衛設備と戦力の確認を存分になさってください。但し危険があるからと、お止めになるのも自由です」
挑発か? だが俺自身ここまで来て止めようとも思っていないし、意地でも止めるものか!
「俺が言い出した事だ、止めるつもりはない。しかしガーゴイルのように設備や場合によっては大規模に壊してしまうかもしれんぞ?」
「そうですね。設備の修繕や改良のための費用については財務担当に話をつけておきますのでご安心を」
そういう根回しや調整はこいつの得意分野だ。
だから色々と任せざるをえないという点もある。
だがこの苛立ちを発散するために、お前の作った罠だったら腹いせに完全に破壊してやろう! と考えていた。
「ただ、大規模にというのは難しいかもしれませんね」
「ん? 俺の力では無理だというのか?」
確かに壁を壊そうとして無理だったが、被害を無視して全力でやれば……。
「いえいえ、魔王様の力だからこそ無理かと。お忘れですか? 魔王城の壁や床は魔王様の魔力を受けて強固になる事を」
何だそれ? 初耳だと思うが。
「魔王様の膨大な魔力は常に微量ながら魔王城全体に満ちています。但し魔王様がいる位置から遠くなればなるほど弱くなりますけど」
ずっと俺の魔力が吸われている?
「その理屈だと、俺がいる部屋は壊せないという事か?」
「はい。自分が全力で守っている所を、同じだけの力で殴るようなものかと」
壁を壊せないわけだ。魔力を練れば練るほど壁も固くなっていたという事だ。
「ですので、閉じ込められたり、罠に嵌って危険を感じられたら玉座に転移してください」
まぁ、それしか無いか……。
「フィーナ。それなら魔王様の危険も少なくなる。貴女も安心でしょう?」
「………………」
ヒナはまだ怒りが収まらないのか、納得していないのか黙ったまま強い視線をイオスに向けている。
その様子をどうこうしようともせず、イオスは発言を続ける。
「それに、通達を出しても別に強制じゃないですし。元々戦闘に向かない種族もいますからね」
「わかった。話はこれで終わりでいいな? お前の作った罠や仕掛けをみるのを楽しみにしている」
今度こそ立ち上がり部屋をでる事にする。
ヒナも黙って立ち上がり後に続く。
「しかし……皮肉ですね。貴方が魔王城を突破しようとするとは」
立ち去ろうとした俺の背後からイオスらしからぬトーンの声が聞こえた。
「ただの散歩のようなものだ。俺に危険な事などないさ」
別に強がりという訳じゃない。
本当にそう思っている。
歩き始めた俺に独り言のような呟きが微かに聞こえる。
「そうですね。魔王様ならきっと大丈夫です」
最後の呟きをどのような表情で言ったのか気にはなったが、俺達は振り返らずに歩き出した。
――――――
その日の内に魔王軍序列第二位の名で魔王城全てに通達が出された。
一.魔王の視察が今後抜き打ちで実施される。
二.視察の目的は防衛設備と戦力の確認である。
三.可能な限り実戦に近い形で実施する事を是とする。
そしてこの通達には四つ目があるという噂を聞いた者が複数いた。
曰く、実戦形式のため視察に際し何があっても不問とする。




