避けて通れない事もある
「さて、どうしたものか……」
俺達の進路を塞いだ壁の手前で打開策を考えている。
まるで始めから行き止まりであったかのようだ。
「どりゃあぁぁ!」
「せいっ!」
ちなみにスタンとシアは閉じた壁に向かって攻撃を繰り返していた。
通路全体を揺らすような大きな音が響いている。
しかし、重厚な壁は二人の猛烈な連続攻撃にびくともしていない。
壊して進む事はできないだろう。
だが、通路をずっと塞いだままでいるという事はないはず。
解除する方法があるはずなんだ。
通路を見渡してどこか怪しい所が無いか探してみる。
規則正しく並べられた石で形作られた壁。
薄暗い中では石一つ一つの違いを見極める事も難しい。
違いがあるのなら……だが。
床に視線を落としてみる。
壁より大きな石を不規則に敷き詰めたような造りだ。
こちらは違いがありすぎて難しい。
結論から言えば……。
「今日の所はあきらめるとしよう!」
現状打てる手段に心当たりはない。。
無策でこのまま時間を浪費しても仕方が無いしな。
「え? 兄貴ー、諦めるのかよ!」
スタンとシアが壁への攻撃を止めてこちらを見る。
二人の武器が不毛な攻撃で疲れたかのようにだらりとしている。
「あぁ。このまま壊そうとしても無理なのはわかったろう?」
二人共渋々頷いた。
さすがにわかってくれたようだ。
「仕掛けの解除の仕方を知ってるやつがいるはずだ。そいつから聞き出せばいい」
「心当たりがあるのですか?」
「可能性が高いのは、オーガの中で魔王城内の管理をしてるやつだな」
判っている中で一番近い生息地に住んでいるのは、この二人と同じオーガだ。
壁の向こう側に住んでいる種族かもしれないが……そちらは見当もつかない。
「オーガの中で管理の仕事をしてるやつに心当たりはあるか?」
二人が顔を見合わせて首を横に振る。
知らないって事だな。
「明日にでも聞きにいってみるとしよう。二人も、誰が管理の仕事してるか可能であれば調べておいてくれ」
「了解ー」
「わかりました」
そしてこの日は解散とした。
――――――
二人は自分達の村へ戻ったし、俺も自分の部屋に向かって門の広場へ戻る。
しかしそこで俺を待っている者がいた。
こちらの姿を確認すると、すぐに近くへやってきた。
「あ、魔王様。ようやく戻られましたか!」
「うむ。どうしたヒナ? ま、まさか追加の仕事とかではないだろうな?」
我ながら嫌な予想をしながら問いかけてみる。
もしそうなら撤退もやむなしだ!
「いえ、今日はそれではありません」
今日は、って言ったよ。予定外の仕事とか本当に勘弁してもらいたい。
しかしヒナは何だか用件を言いにくそうにしている。
いつもは毅然としている表情に陰りがある。
「実は先日破壊されたガーゴイルの像について魔王様から聞き取りをしたいと……イオス様が……」
ヒナが申し訳なさそうに俺に伝えてきた内容がこれである。
「あいつが戻ってきているのか……。で、何と言っていたんだ?」
あまり聞きたくなかった名前だし、避けれるようであれば避けたい奴だ。
「それがその……明日、上級役職者を集めて魔王様の査問会を行いたいとの事です」
「俺への……査問……だと!」
ここでは俺が一番上で、本来査問会などとは無縁であるはずだ。
しかしアイツなら……俺に次ぐ権限を持つアイツなら不可能ではない。
ガーゴイルの件だけでなく、俺が魔王城内でうろうろしている理由も追求してくるのかもしれん。
「久々に戻ってきたと思ったら、俺に対する査問会とはな……」
かなり気がすすまないし、なぜ俺が?という気持ちで一杯だ。
だが避けて通れない相手ではある。
魔王城内序列二位のイオス。
俺の最も古い部下であり、仲間であり……友であった男だ。
付き合いはヒナよりも僅かに長い。
最も俺に近く、最も遠ざけたい相手。
頼りになるが苦手な奴。
恐らく魔王城で一番魔王城について詳しいだろう。
普段いないのも拡張工事の指揮や、各施設の総括管理、俺が理由に使った事もある各地への視察を行っているためだ。
つまり現在進行で広がっている魔王城の最前線にいる男。
そして多くの仕掛けや罠に関わっている製作者の一人でもある。
「では、魔王様……明日執務室でお待ちください。時間にお迎えにまいります」
開始予定の時間や場所を俺に伝えてくれた。
ヒナも俺の複雑な心中を察してくれたのだろう。
その表情には同情や懐かしさ、けどあまり会いたくないといった、俺と似た感情が見え隠れしている。
だが秘書としての仕事はあくまできちんとこなす。
「わかった。それまで仕事はきちんとしておけ、という事も理解した」
「申し訳ございませんが宜しくお願い致します」
「ヒナが悪いわけではないのだし、そんな顔をしなくていいぞ」
例え望まない内容でも必要とあれば俺に伝えるのも秘書の仕事というだけだ。
伏せ目がちなヒナに声をかけるが、俺の心中は明日の事に向いている。
さぁ一体どんな事を俺に言ってくるのか楽しみだ。
不思議と戦いの前のような気分になってくる。
「それじゃあ明日よろしくな」
ヒナに再度声をかけて俺は部屋へ戻る。
明日に備えてゆっくりと休むために……。




