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魔王城からは逃げられない  作者: 野良灰
2章 兄妹からは逃げられない
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全てを乗せた一撃

「ではお願い致します!」


 シアは尻尾のように垂らした青髪を揺らしながら、こちらに向かい走ってくる。

 大鎚の重さを全く感じさせない軽快な走りだ。

 俺は魔力で腕全体を強化し、攻撃を待ち構える。

 シアは愛用の武器を背中に振りかぶり……俺の頭に向かって一気に振り下ろしてきた。


 頭の前で強化した腕を交差して攻撃を受け止める。

 まるで大岩が勢いよく転がって壁に激突したような大きな音がした。

   

「さすが魔王様ですっ」


 シアの顔に満悦らしい微笑が浮かんだ。

 力を込めた一撃を潰されずに受け止めた俺に対する賛辞らしい。


「じゃあ、どんどんいっちゃいますねー」


 その宣言通り、俺に向かって今度は連続で大鎚を振り下ろす。

 まるで防御しても、そのまま圧し潰してやるといわんばかりに五連打を繰り出してくる。

 その攻撃を両手で受け止めるが、少しずつ受け止める場所を変える。

 同じ場所で受け止め続ければ潰されかねない。

 この連打でも駄目だと察したシアが距離をとる。


「どうした? もう終わりか?」


 余裕たっぷりといった表情をシアに向ける。


「魔王様……本当に頑丈なんですね。どういうお体なんですか?」


 頬を膨らませて不満そうな顔をするが、すぐに隠しきれない喜びがあらわれる。


「ここまで力を出せる機会がくるなんて……嬉しいです」


「それは良かった。後、俺の体が頑丈ではなく、魔力で身体能力を強化しているだけだ」


 別に俺の体が石や鉱物で出来てるわけじゃない。


「魔力量だけは他者より多いのだが、その分細かい制御が下手でな。だから魔力は自分の体を強化するのに使っている」 


 右拳に魔力を込める。その込めた魔力をシアの方に向かって放つ。

 俺の魔力が球状になり大した速度ではないが飛んでいく。


「おっと……えいっ!」


 シアは飛んできた魔力弾を大鎚で打ち払う。

 弾かれた魔力弾は横に飛んで地面に激突、消滅した。


「後はこういう風に塊状とかに形を変えて攻防に使ったりとかな」

 

 見本で撃っただけだから特に防がれても問題ない。


「それじゃあ今度はこっちからも攻撃するが……いいか?」


「もちろん! 魔王様こそ思い切りお願いします!」


 向かい合って見つめ合う俺達。

 と言っても、これから交わされるのは別に愛の言葉とかではないが。


「では、いくぞ!」


 強化した脚力で大地を強く踏み切り、間合いを一気につめる。

 シアは反応している。

 だが、シアの間合いのすぐ外側で止まり、魔力弾をぶつける。

 避ける事ができず、防御するシア。


 その反射的な防御の隙に残りの間合いをつめた。

 懐に入った俺は思い切り魔力を放出し、シアを吹き飛ばした。

 足で踏ん張りきれず後方へ飛ばされる。


 しかし飛ばされてる途中で体勢を整え、着地と同時にこちらへ向かってくる。

 

「てぇりゃぁぁぁぁ!」


 そして大鎚を俺に向かって横から薙ぎ払ってくる。

 だが僅かに俺までは届かず。

 しかしもう一回転して、さらにえぐりこむように叩きつけてきた。


 避ける事は可能。

 けど俺の選ぶ選択肢はそうじゃない。


 左手を魔力による全力強化!


 迫ってくる大鎚を左手一本で受け止める。

 骨がきしむような音が俺の中に響く。

 しかし、痛みは気にせずそのまま押し返そうと力を込める。


「どうしたシア。 それが全力か?」


「むむむ……片手なのに潰せないなんて……」


 大鎚と俺の左手の押し合いに注意がいっている隙に、右手をシアの体の前へ。


「ほら、こっちがお留守だぞ」


 今度は零距離での魔力弾。当然防御すらできず後ろに吹き飛び尻餅をつく。


「そろそろ全力の一撃とかが見てみたいな」


 倒れているシアに向かって挑発する。


「……わかりました。今の私ができる全力の一撃をお見せします」


 立ち上がったシアは再び大鎚を構える。


「いきます!」


 これまでと同じように俺の方へ走ってくる。

 但し今までと違うとすれば……シアの大鎚が近づくごとに青く、そして強く輝き始めている。


 こっちは完全にスキルを習得しているな。

 昨日のスタンの未完成のスキルを思い出す。

 あっちは無意識でおぼろげな形しか為していなかった。


 だがこちらは完全に習得し、それが今俺に向かって放たれようとしている。

  

「全てを砕いて潰す……『圧壊(ハンマープレッシャー)』!」


 青い光を放っている以外は先程までの攻撃と変わらない?

 だがどことなく嫌な予感がする。 

 

 両手でシアの大鎚の一撃を受け止める。


「どうした、もうお終いか?」

 

「いえ……ここからです……潰れろぉぉぉぉぉぉ!」


 シアの声と共に受け止めた大鎚からの圧力が急激に増していく。

 気を抜けば一瞬で支えきれなくなりそうだ。


「なっ!?」


 防御されても……いや、むしろ防御させてそのまま押し潰す攻撃スキル。

 シアが自分の持つ力の全てを大鎚の重さを増す事に集中させているのだ。

 それにより大槌は本来の重量やシアの腕力を遥かに超える圧力を対象に加えてくる。

 

 俺に伝わってくるこの力は、巨大な壁が上から圧し掛かってきて、今にも潰されようとしていると錯覚さえさせる。


「これが、お前の全力……か」


 力の全てを相手を潰すという一点のために使っているのだな。


「はいっ。この一撃に全てを懸けます!」


 俺が潰されるのが先か、シアの力が尽きるのが先か……


「ならば全部出し切って見せろ!」


 俺とシアの我慢比べが始まった。

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