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魔王城からは逃げられない  作者: 野良灰
2章 兄妹からは逃げられない
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強さと信念

「絶対っ! 絶対に俺は強くなるっ! そう思ってるっ!」


 俺の服を両手で掴み、強い目つきで俺を見上げながら声を発する。

 真っ直ぐなんだ。愚直なまでに一直線。


「自分の力が通用しないとわかっていても、ただ無謀な突撃を繰り返す事が強くなるために必要な事か?」


 ガーゴイルを斬る事ができないのに、ただ意地だけで向かっていったスタン。

 あれはただの我侭だ。


「あれは……」


 俺から視線を逸らして口をつぐむ。


「あのまま無茶をして大怪我をしたり、死んでいたらどうする?」


 実際には俺がそうならないように防ぐけどな。

 だが、あんな事を続けていたら……いつか取り返しのつかない事にだってなりかねない。


「その時はその時だ!」


 自暴自棄にしか見えない。

 

「動けなくなるまで、死ぬまで戦う事がお前の目標なのか? それはただの狂った獣で、オーガ一番の戦士には程遠い。」


「違う違う違う違う違うっ!」 


 涙目になりながらスタンが首を大きく横に振る。


「スタン。お前の言う『強さ』とはどんなものだ? 答える事ができるか?」


「どんな……強さ……」

  

 しゃがんでスタンと目線の高さを合わせ、その目をじっと見つめる。

 涙で赤くなった目をスタンも俺に真っ直ぐ向けてくる。


「俺は自分の周りの友達や仲間、ついてきてくれる部下達をどんな相手からでも守ってやりたかった。」


 負ければ死。自分の命だけでなく周りの大切なもの全てを失くしてしまう可能性と隣り合わせの時代が確かにあった。


「そのためなら力を磨き、仲間と協力した。負けないためになら何でもやる覚悟があったし、俺自身はどうなってもいいとさえ思っていた」


 スタンはじっと俺の話に耳を傾けていた。

 その瞳には僅かに力が戻っている。


「運も良かった。思いを同じにする多くの仲間がいたし、俺も他者より遥かに多い魔力を持っていた。そして魔王城(ココ)を手に入れて非戦闘員を守りやすくなったしな」


「俺にとって強さとは、俺の守りたいものを守れる力全てだ。自分の力だけじゃなく、友人、仲間、部下、この魔王城も含めて全部が俺の求めた強さだ」


 それが俺の求めたもの。昔からの決意だ。


「俺にとってそういう強さを手に入れる事が目標だった。そして必ず手に入れてみせるとずっと思っていた。スタンよ……お前の本当に求めるもの。これだけは絶対に譲れないという決意、それが何か考えてみるといい」


「俺は……俺は……わかんないよ」


「今は……な」


 俯きながら口にするスタンの頭に手を置く。

 

「まぁ、まだ子供(ガキ)なんだし、ゆっくり見つけろ」


「ガ、ガキじゃ無いしっ!」


 俺が子供をあやすようにすると、スタンは真っ赤な顔をより赤くしていた。


「これくらいで涙目になるようじゃ、まだまだお子様だ」


「むっきー!」


 手を振り回しながら俺を叩いてくる。

 そういう所が子供だ。まぁ年相応なのか?


「ちなみに、俺が言ったような譲れない決意はセルドやサルビアにはあったぞ。その有無がお前と二人との力の大きな差だな」


「そんな大層なものあったかねぇ……。戦うだけが全てだったと思うけど」


「ワシは……溢れる力を発散できるのが戦場だっただけじゃな」


 サルビアとセルドも近くに来てそれぞれ答える。


「お前達二人には随分助けられたよ。俺だけじゃなく周りもな。そして多くの戦いを潜り抜けて……今も生きてくれている」


 思いを共にした仲間にはお前達二人も入ってるんだ。

 もちろん俺が守りたいものにもな。


「セルドは単にサルビアにいい格好見せたかっただけかもしれないけどなぁ」


「ま、魔王様っ!」


 あたふたとするセルドを含めて俺達は皆で笑いあった。


「あの……私だけ仲間外れでしょうか?」


 風呂上りのシアが恐る恐る話に入ってきた。


「おかえり。後でゆっくりスタンか祖父母から聞くといい」


 俺が偉そうに言った内容を自分で話すなんて恥ずかしいし。


「よしスタン! 風呂行くぞ!」


「おぅ!」


 二人で風呂へ向かう。

 色んなものをすっきり流して、さっぱりしてから頑張ろう。


「私だけ仲間外れ……」


 シアが不満そうに頬を膨らませていた。


「兄貴! 早く油落とさないと臭いままだもんな!」


「なっ。油臭いのはお前の方だ! 俺はほとんど燃えて焦げ臭いだけだ!」


 全く失礼な奴だ。

 だが落ち着いて考えると二人とも臭いのは変わらないのか……。


「ほら、そこの子供二人。とっとと風呂入ってきな!」


 サルビアがスタンと一緒にして俺を叱る。

 

「よし! 先に行くぜ!」


 そう言ってスタンが風呂に向かって走り出した。


「この魔王の前に行こうとは身の程知らずが……待てい!」


 俺も後を追いかけた。何となく負けるのは嫌だ。


 

――――――



 その日結局俺は飯もご馳走になった。

 サルビアの料理は美味かった。昔は料理なんて無縁そうだったのになぁ。

 

 そして俺は自分の部屋に帰る前に、シアを呼び出した。


「魔王様、私と二人きりの時間をつくっていただけるなんて……きゃっ」


 両手を頬に当てて可愛らしい声を出している。

 

「あぁ、ちょっと伝えておきたい事があってな」


「何でしょう? ……はっ! 愛の告白ですね! 私ならいつでも大丈夫です!」


 このまま放っておくとどこまで話が飛躍するかわからんな。

 

「愛の告白じゃない。明日ちょっと一緒に行きたい所があってな――」


「デートのお誘いですね! はい! 喜んで!」


 あぁ、うん……もうそれでいいや。

 とりあえず反論は諦めて明日の待ち合わせの場所と時間、用意するものについて伝えた。


 さて、この不器用な妹の方が多分手がかかる。

 俺の勘がそう伝えていた。

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