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魔王城からは逃げられない  作者: 野良灰
2章 兄妹からは逃げられない
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軽さの理由

5月30日分の更新です。次話は31日の昼頃予定。

「どりゃあぁぁ!」


「それで全力か? 思い切りきていいぞ」


 風呂が空くまでスタンの稽古に付き合っている。

 まだまだ元気な奴だ。

 相変わらず真っ直ぐ攻撃してくる。

 今のところこっちから攻撃はせず、回避や防御であしらう。

 

「スタン! 剣筋が見え見えだよ。もっと工夫しな!」


「がっ! といって、ざん!と行けー」


 サルビアとセルドの二人も稽古を見ながらスタンに向かって色々言っている。

 助言になってるのかどうかはわからん。

 ちなみにシアは現在入浴中だ。 


「これでどうだっ!」


 上段からの振り下ろし。

 右へ回避。

 避けた方へ剣筋が変化してくる。

 

 俺が避けるのは想定済みの動きだな。


「だが……軽い」


 左拳で向かってくる剣を思い切り上へ弾く。

 

「うわっと!」


 剣に引っ張られるようにスタンの体勢が崩れる。

 腹の辺りを狙って加減して右蹴り。

 崩れた体勢では踏ん張りきれず尻餅をつくスタン。


「いたたた……」


「相手が避ける事を想定するのは良いが、二撃目の方向に意識がいって、その結果攻撃が二つとも軽くなりすぎだ」


 地面に座り込んだままのスタンに今の攻撃の問題点を指摘する。


「隙ありっ!」


 座った状態から体を起こしつつ、俺の腰の辺り目掛けて下から切り上げてくる。


「ん、そんなものは無いな」


 向かってくる剣を右の人差し指と親指で摘まんで止める。

 それぐらい軽い攻撃だ。


「なっ!?」


「そんな体勢からじゃ力入らないだろう。せめて狙うなら足とかじゃないか?」


 そう、スタンの攻撃は全般的に軽い。

 重さとしての意味というよりは、脅威を感じるような攻撃がただの一度も無い。


「とりあえず仕切りなおしで、ちゃんと起き上がるといい」


 摘まんだ剣を離し、少し下がってやる。

 尻についた砂を落としながら立ち上がるスタン。

 顔はどことなく楽しそうだ。


「兄貴は本当にすごいなー。やっぱり魔王様なんだ!」


 再び剣を構えるスタン。

 

 単純に稽古を楽しんでいるようだ。


「そろそろシアの風呂も終わるだろうし、最後に全力の一撃を俺にぶつけてみろ」


「へへっ、良いのかいそんな事して? ほんとのほんとに本気でいくよ!」


「あぁ、俺を殺すぐらいの気持ちで構わん。今のお前の全てを込めて来い」


 両腕を組んで仁王立ちで待ち構える。

 スタンは剣を前に構え、目を閉じて集中している。

 ちゃんと全てを一撃にかけてくるつもりだな。


 剣自体がまるで体の一部。

 スタンの意識が切っ先から柄の部分の端までいきわたっているようだ。

 

「じゃあ……いくぜ!!」


 目を開き俺の方へ走ってくるスタン。

 そして俺の数歩手前でジャンプ。

 

「一撃必殺っっっっ!」


 剣が淡い赤色の輝きを放っている。

 多分無意識だな。

 

 『スキル』と呼ぶにはまだ未熟。

 魔法とは違い、魔力ではなく自分の生命力や魂の力といったものを使って様々な現象を引き起こす技術。

 スタンのはまだその領域まで到達していない。


 その未熟な一撃は上段から俺の左肩辺りを狙って振り下ろされてきた。

 俺は組んだ腕を崩す事も、防御も回避もしなかった。


 ただ体に魔力を循環させて身体強化だけを行う。


 俺の左肩に振り下ろされる今のスタンの全力の一撃。

 しかし俺の左肩に触れた瞬間、俺の皮一枚に傷をつけることもできずに停止する。


「なっ……!」


 スタンの全力の一撃は、俺に傷一筋つける事もできず、防御も回避をされる事もなかった。

  

「さて、稽古は終了だな。お疲れ様」


 仁王立ちを一切崩す事もできずに終わった心中はいかなるものだろう。

 口を開けたまま、固まっているスタンから想像するのは容易いかもしれない。



「スタン。一つ聞きたい……お前にとって剣を振るう先にある目標とは何だ?」


「……え?。えっと…………俺はオーガで一番の戦士になって、魔王城内にオーガの強さを轟かせる事だよ」


 道中で聞いた話と同じで、特に変わってはいない。

 本当にそう思っているのだろう。

 俺の目を見て自分の目標を口にしている。


「目標を達成するためにどうするんだ?」


「兄貴の弟子になって強くなる!」


 目を輝かせているが、とりあえず弟子にする気はないぞ。

 

「ではその先で目標が達成できなかった時、お前はどうなるんだ?」


「達成できなかった時? できるまで頑張る!」


 拳を握り締め、俺を真っ直ぐにみてそう話す。


「無理だな」


 簡潔に、そして冷淡にスタンに告げる。

 スタンの顔が否定された事に対する驚きから、自分の目標達成を不可能と言われた怒りの表情へ変化する。


「そんな事無いっ!」


「いや、無理だ」


 声を荒げるスタンに対して再び俺は否定した。

 今にも掴みかかってきそうな程の怒りを感じる。

 サルビアとセルドはただ黙って俺達のやり取りを見守っていた。


「なんで……なんでそう言い切るんだよ!」

 

 否定に対する怒りを声にのせてぶつけてくる。

 理由は決まっていた。


「………………軽いからだ」


 俺がガーゴイルの間からずっと思っていた事だ。


「確かに俺はまだ兄貴に比べれば弱いけど、それはこれから!」


 これから頑張っていくとスタンは言う。けどそういう意味じゃない。  


「違う、そういう事じゃない。お前自身から目標に対して『やり抜くという決意』が感じられないんだ」

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