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魔王城からは逃げられない  作者: 野良灰
2章 兄妹からは逃げられない
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赤鬼、青鬼との再会

「久しぶりだ……セルド。だけどな、いつも半裸で戦ってたお前にだけは『ひどい格好』と言われたくないぞ」


 まさか防具をほとんどつけず、腰に布を巻いただけのような格好で戦ってたやつに言われるとは……。

 しかし見た目は年老いたとはいえ、その姿に懐かしさがこみ上げてくる。

 馬鹿な事を言って笑いあった頃を思い出しているのはセルドも同じようだ。

 二人して久々の再会に実感がわき、それから大声で笑った。


「いやぁ、あの頃は若かったですからのぉ。若気の至りというやつですな」


「こらこら、勝手に若かったからと理由を変えるな。サルビアの気を引くためだと言ってたろう?」


 サルビア。セルドの嫁で、スタンとシアの祖母にあたるオーガ。

 セルドがずっとサルビアの気を惹くために、戦場に出るたび活躍していたのは忘れもしない。

 一緒の部隊に配属するとしないとでは、セルドの戦果に大きな差がでたものだ。

 だから周りはセルドがサルビアに気があるという事が周知の事実だった。

 まぁサルビアは美人だったから、セルドでなくても憧れてた奴は多いけど。


「ま、魔王様、孫達の前で……勘弁してくだされ」

 

 そんな事は流石に孫達に聞かせてないだろうな。

 だが、微笑ましいと思うぞ。

 旧友との再会に気をとられていたが、スタンとシアの方を見ると……固まっていた二人が動き出した。



「兄貴が魔王様っ! やっぱすげぇー!」

 

 スタンは益々目を輝かせている。

 尊敬するがよい。だが兄貴や師匠にはならないぞ。


「やっぱり……納得です」


 シアの方は薄々わかっていたか、予想してたのだろう。

 だが、彼女の表情は何というか……。

 どことなく戦いの前のサルビアの表情に似ていた。

 なぜそう感じたのかはわからない。

 やっぱり似てるからか?


「ところで魔王様。いきなりの訪問と服が焼け焦げている理由、何故孫達と一緒にいるかをお聞きしてもよいですか?」


「あぁ、そうだな。実は……」


 スタンとシアが決闘していた所に俺が出くわした事。

 罠が仕掛けられた通路やガーゴイルの間での事。

 そして俺達から油や焦げた臭いがする理由等々をセルドに話した。


「そうでしたか。ではまずは風呂の用意をしましょう。その間にサルビアも戻ってくるじゃろうて」


「すまんな、助かる」


 ひどい火傷は無いが、それでも油の臭いがするし熱によるダメージは体の所々にある。

 

「じゃあ、俺水汲んでくる!」


 スタンが小屋の横に置いてある桶を持って走っていった。


「俺も手伝おう。その方が早い」


「私もいきますっ。水場まで魔王様をご案内します」


 俺とシアも桶を持ってスタンの後を追いかけた。



――――――



「こんなものかな……足りそうか?」


 木で作られた広い風呂が、俺達が何往復かして汲んできた水で一杯になった。


「はい、十分です。後は焼き石を入れてしばらくすれば入れますね」


 早く汗を流してさっぱりしたいものだ。


「石持ってきたぞー」


「魔王様にも手伝っていただいて……助かりました」


 スタンとセルドが焼き石を持ってきた。


「俺も使わせてもらうのだし、自分で入る風呂の準備くらいする」


 二人は持ってきた石を風呂に投げ込み始めた。


「これで直に湯も熱くなってくるじゃろう」


 風呂の水に触ってみると、すぐに湯が熱くなってくるのがわかる。


「ではシア、先に風呂を使うといい。スタンは俺とその後だ」


 こういう場合は女優先にすべし、と昔よく言われたからな。


「そんな、魔王様より先にだなんて。そうです、よろしければ一緒に……お背中流させてください」


「いや、大丈夫だ。気にせず先に一人でゆったりと入るがいい。スタン、その間に剣の稽古に付き合おう」


 さすがに一緒に入るわけにもいかない。

 なのでスタンの稽古の話を使わせてもらおう。


「じゃあワシが久々に一緒に入ろうかの。孫に背中を流してもらいたいわい――」


「なぁに言ってんだ、このエロ爺がっ!」


 セルドが孫の成長を確かめる機会を阻止したのはいつの間にか外出から戻ってきていたサルビアだった。

 切れのある右の一撃がセルドの腹に決まる。

 若い頃から防御の高そうな場所だったが……遥かに上回る一撃の前には無力だ。


「シア、この爺の再教育は私がやっておく。気にせず風呂に入るといいよ」


「はい、お婆様」

 

 セルドは妻からの一撃から立ち直ると、すぐに正座していた。

 それは水が流れるかのように滑らかで、とても自然な動きだった。


「久しぶりだなサルビア。元気そうでなによりだ」


「魔王様も。お懐かしい……。そしてこの爺が恥をさらして申し訳ございません」


「すいませんでした!」


「まったく……年頃の孫の気持ちも考えんか!」


 正座して謝るセルドと仁王立ちで夫を威圧するサルビア。

 うん。この光景は予想していなかった。

 

 サルビアは顔にしわが出来て、吸い込まれそうな深みのあった黒髪は白くなっていた。

 だが孫にも受け継がれた青みのある白い肌と、昔よりさらに力のある瞳、雪のような白髪が神秘的ですらある。

 そこには若い頃とは違う美しさがあるように見えた。

 

 セルドは筋骨隆々だった若い頃に比べてかなり小さくなっていた。

 赤い肌に少なくなった銀髪、そして変わらぬ立派な一本角。

 筋肉はなくなったが、無駄がなくなって磨かれた石のような印象を受ける。

 だが、現在正座して謝っている姿は昔のままだ。


 この二人の特徴や雰囲気は孫達によく受け継がれていると思う。

 

 こうして俺は古い友人達と無事再会を果たしたのだった。

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