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魔王城からは逃げられない  作者: 野良灰
2章 兄妹からは逃げられない
20/86

【仕掛け通路】

「一応確認するぞ。ここから先へ行った事はないんだな?」


「ないー」


「ありません」


 二人とも首を横に振る。

 少しでも情報があればと思ったが、やはり駄目か。


「そうか……ならこの先何があるかわからん。ついてくるなら、自分の身は自分で守れ」


 俺は二人より前に出て先に進む事にする。

 通路は真っ直ぐ伸びている。分岐等はここから見えない。

 何もないからこそ気をつけないとな。

 怪しい所が無いか、用心しながら通路を進んでいく。


「兄貴ー、行くなら早く行こうぜ」


 慎重に進んでいる俺の横をスタンが走り抜けていった。


「あ、おい! 危ないぞ!」


「何がー?」


 その時俺には見えた。

 スタンの右足の下、踏んだ部分が僅かに沈んだのを。


「あれ、沈んだ?」


 スタンが足元に違和感を感じて下を向いた。


「下を見るな! 前だ!」


 前方から微かな風切り音。

 何かがくる。


「うわっ!」


 俺の声に前を向いたスタンが急にしゃがんだ。

 そして飛来物が俺の方へ。


「……矢か」


 飛んできた矢を右手で叩き落とす。

 鉄の矢は乾いた音を立てて床に落ちた。

 

「うわぁ~……びっくりしたぁ……」


 スタンが目を白黒させている。

  

「おいおい、危ないだろう」


 仕掛けに気をつけろと、言ってやろうとした時。

 踏み出した俺の右足の下に違和感。


「ん?」


「上です!」


 背後からの声で上を見た。

 

「危なっ!」


 上から落ちてきた岩を避ける。

 岩は大きな音を立てて地面に落ちた。

 危ない、危ない…。


「お二人共……仕掛けには気をつけてください」


「「はい」」


 スタンだけでなく俺まで怒られた。


「スタンよ。このように、ここはどんな仕掛けがあるかわからん。気をつけて進むのだ」


「あぁ! 任せてくれ兄貴!」


「…………」


 用心して進む必要性を再確認した所で、気を取り直して先へ進む事にした。


 

 道自体は今のところ一本道だ。

 但し、壁や床にある仕掛けはこの後もずっと続いた。


 例えば、床の特定部分を踏むと、矢が飛んできたり、岩が落ちてくる仕掛けは何回もあった。

 他にも壁から剣や槍が飛び出す仕掛け等々。

 そういった一つ一つを、俺はメモに記しながら進んでいった。


「あの、どうしてメモを取りながら進んでるんですか?」


 今も仕掛けについてのメモを取っていると、シアが聞いてきた。


「ん? 次来た時に素早く抜けられるようにだ」


 出口までの道はまだ遠いからな。何度も同じ所で時間をかけるわけにもいかない。

  

「またここを通る事がある、と……どこかへ、ただ単に向かっているのではないのですね」


「兄貴ー。この先に広い部屋があるぞー」 

 

 シアはまだ質問したそうだったが、またいつの間にか先に進んでいるスタンの声が遮った。

 先に進むと、通路の先に広い部屋が見えてきた。

 スタンもここまで罠だらけで懲りたのか、部屋の手前で立ち止まって待っていた。


「ここに来る途中と同じように、何かあると思った方がいいだろうな……」


 まずは慎重に部屋の入口まで近づいてみる。

 床を注意深く見てみる……あった。通路の幅一杯に四角の細い溝が見える。

 恐らく踏めば何かしら仕掛けが作動するのだろう。

 そして狙いは『部屋を急いで抜けてきた』相手。

 

「まず間違いなく部屋の中に仕掛けがあるな……」


「そうですね。ただ、部屋の向こう側出口は何もないかもしれません」


 シアも床の違和感に気づいたようだ。罠の狙いも俺と同じ予測らしい。


「あぁ。だが、無理に先へ進まずに退却する相手に向けた罠がある可能性もある」


 急いで部屋を抜けるのが一番被害が少ないとは思うんだけどな……。

 

「考えてないで、ささっと先へ進もうぜー」


 あれこれと仕掛けの可能性と対策を考える俺とシア。

 しかしスタンはそんな事お構いなしだった。


「兄様。考えなしに仕掛けに飛び込むというのは……」


「いや、それでいくか」


 難しく考えていても時間が過ぎるだけかもしれんしな。

 罠の予測をしてあらかじめ対応する……そんな器用な俺じゃない。


「何がきても真正面から粉砕する。それが一番手っ取り早いな」


「さすが兄貴!」


 スタンは自分の大剣を構え、突入の合図を待っていた。


「全くもう……。でもわかりやすくて良いです」


 シアも同じように突入の準備を整える。


「よし……じゃあ行くぞ!」



 俺達は部屋の中へ突入した。

 入口からは見えなかったが、左右両側の壁一面に蝙蝠のような翼を持ち、獅子の顔をした石像が並んでいた。

 そして俺達が部屋に突入してすぐに、石でできた悪魔達は動き出した。

 その翼を大きく広げ、石でできているとは思えない滑らかな動きで飛翔する。 


「ガーゴイルか……二人とも、襲ってくるぞ!」

 

 こいつらは単純な命令だけを与えられた魔法で動く石像。

 だからこそ俺の事もわからないし、最初の命令以外は聞かない。

 そんなこいつ等に与えられた命令は確か……


『侵入者を殺せ』

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