【仕掛け通路】
「一応確認するぞ。ここから先へ行った事はないんだな?」
「ないー」
「ありません」
二人とも首を横に振る。
少しでも情報があればと思ったが、やはり駄目か。
「そうか……ならこの先何があるかわからん。ついてくるなら、自分の身は自分で守れ」
俺は二人より前に出て先に進む事にする。
通路は真っ直ぐ伸びている。分岐等はここから見えない。
何もないからこそ気をつけないとな。
怪しい所が無いか、用心しながら通路を進んでいく。
「兄貴ー、行くなら早く行こうぜ」
慎重に進んでいる俺の横をスタンが走り抜けていった。
「あ、おい! 危ないぞ!」
「何がー?」
その時俺には見えた。
スタンの右足の下、踏んだ部分が僅かに沈んだのを。
「あれ、沈んだ?」
スタンが足元に違和感を感じて下を向いた。
「下を見るな! 前だ!」
前方から微かな風切り音。
何かがくる。
「うわっ!」
俺の声に前を向いたスタンが急にしゃがんだ。
そして飛来物が俺の方へ。
「……矢か」
飛んできた矢を右手で叩き落とす。
鉄の矢は乾いた音を立てて床に落ちた。
「うわぁ~……びっくりしたぁ……」
スタンが目を白黒させている。
「おいおい、危ないだろう」
仕掛けに気をつけろと、言ってやろうとした時。
踏み出した俺の右足の下に違和感。
「ん?」
「上です!」
背後からの声で上を見た。
「危なっ!」
上から落ちてきた岩を避ける。
岩は大きな音を立てて地面に落ちた。
危ない、危ない…。
「お二人共……仕掛けには気をつけてください」
「「はい」」
スタンだけでなく俺まで怒られた。
「スタンよ。このように、ここはどんな仕掛けがあるかわからん。気をつけて進むのだ」
「あぁ! 任せてくれ兄貴!」
「…………」
用心して進む必要性を再確認した所で、気を取り直して先へ進む事にした。
道自体は今のところ一本道だ。
但し、壁や床にある仕掛けはこの後もずっと続いた。
例えば、床の特定部分を踏むと、矢が飛んできたり、岩が落ちてくる仕掛けは何回もあった。
他にも壁から剣や槍が飛び出す仕掛け等々。
そういった一つ一つを、俺はメモに記しながら進んでいった。
「あの、どうしてメモを取りながら進んでるんですか?」
今も仕掛けについてのメモを取っていると、シアが聞いてきた。
「ん? 次来た時に素早く抜けられるようにだ」
出口までの道はまだ遠いからな。何度も同じ所で時間をかけるわけにもいかない。
「またここを通る事がある、と……どこかへ、ただ単に向かっているのではないのですね」
「兄貴ー。この先に広い部屋があるぞー」
シアはまだ質問したそうだったが、またいつの間にか先に進んでいるスタンの声が遮った。
先に進むと、通路の先に広い部屋が見えてきた。
スタンもここまで罠だらけで懲りたのか、部屋の手前で立ち止まって待っていた。
「ここに来る途中と同じように、何かあると思った方がいいだろうな……」
まずは慎重に部屋の入口まで近づいてみる。
床を注意深く見てみる……あった。通路の幅一杯に四角の細い溝が見える。
恐らく踏めば何かしら仕掛けが作動するのだろう。
そして狙いは『部屋を急いで抜けてきた』相手。
「まず間違いなく部屋の中に仕掛けがあるな……」
「そうですね。ただ、部屋の向こう側出口は何もないかもしれません」
シアも床の違和感に気づいたようだ。罠の狙いも俺と同じ予測らしい。
「あぁ。だが、無理に先へ進まずに退却する相手に向けた罠がある可能性もある」
急いで部屋を抜けるのが一番被害が少ないとは思うんだけどな……。
「考えてないで、ささっと先へ進もうぜー」
あれこれと仕掛けの可能性と対策を考える俺とシア。
しかしスタンはそんな事お構いなしだった。
「兄様。考えなしに仕掛けに飛び込むというのは……」
「いや、それでいくか」
難しく考えていても時間が過ぎるだけかもしれんしな。
罠の予測をしてあらかじめ対応する……そんな器用な俺じゃない。
「何がきても真正面から粉砕する。それが一番手っ取り早いな」
「さすが兄貴!」
スタンは自分の大剣を構え、突入の合図を待っていた。
「全くもう……。でもわかりやすくて良いです」
シアも同じように突入の準備を整える。
「よし……じゃあ行くぞ!」
俺達は部屋の中へ突入した。
入口からは見えなかったが、左右両側の壁一面に蝙蝠のような翼を持ち、獅子の顔をした石像が並んでいた。
そして俺達が部屋に突入してすぐに、石でできた悪魔達は動き出した。
その翼を大きく広げ、石でできているとは思えない滑らかな動きで飛翔する。
「ガーゴイルか……二人とも、襲ってくるぞ!」
こいつらは単純な命令だけを与えられた魔法で動く石像。
だからこそ俺の事もわからないし、最初の命令以外は聞かない。
そんなこいつ等に与えられた命令は確か……
『侵入者を殺せ』




