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魔王城からは逃げられない  作者: 野良灰
序章 事務仕事からは逃げられない
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始まりの日

【魔王の間】

 

 ここは侵入者が魔王城を突破した場合、最後に辿り着く最下層。

 侵入者が扉を開けばその広さと、正面に見える巨大な玉座に驚くであろう。

 

 だが自分の数倍大きい椅子に、偉そうに座るのも一苦労なんだと常々思う。


 平時は功のあった部下に褒賞を与えたり、大事な報告を直接聞く際に使う。

 大々的な式の場合は、役職者や各種族の族長、軍団丸ごとが並ぶ事もある。


 戦時には俺自身が侵入者を直接迎え撃つための場所にもなる。

 損害を気にする事無く戦えるように、大規模魔法が展開可能な広さを確保。

 壁や柱、この広間自体の強度は魔王城でも最高クラス……らしい。


 けれどもここまで侵入されたら、戦闘による損害を気にするレベルじゃない。

 それはもう魔王城を揺るがす程の大損害だ。


 【魔王執務室】という名の牢獄を壊してくれないかな。

 そんな事を思いながら、ついつい出てきた扉を見てしまう。


「今度こそ、仕事漬けの日々とはさよならだ!」


 俺は自分の決意を口に出す事で再確認し、大層な玉座を横目に扉へ向かって歩いていった。


――――――


【魔王への路】


 そして仰々しい扉を勢いよく開き、自由への通路を足早に歩き出した。

 通路の両側には光源としてトーチが飾られている。

 必要な時は侵入者が進むごとに明かりがついていく演出が可能。

 そんな演出をして意味があるのかは疑問だが……


 製作者曰く


『こういうのはこだわりなんです。この先に魔王がいる! という盛り上がりを演出するために――ね』


 今は全てのトーチに小さな明かりが常についているだけ。

 しかも2つに1つは消えているという節約状態。

 はっきりいってかなり薄暗い。

 まぁ特に障害物や段差があるわけではないので問題は無い。


 歩き慣れた通路を足早に抜けて転移魔法陣に辿り着く。

 そして床に刻まれた魔法陣の上に乗り念じる。

 魔法陣は光を放ち、光の柱が俺をを包み込む。


 次の瞬間、魔王城の各施設を結ぶ移動の中心地、【門の広間】へ転移していた。


――――――


【門の広間】


「ま、魔王様お疲れ様です!」


 転移先の広間に出てすぐに衛兵達から声がかかる。

 敬礼するが動きは何だかぎこちない。


「うむ、お前達も務めご苦労。励めよ」


 突然の魔王の出現で動揺しているように見える衛兵に、俺は簡単に返事をした。

 今はお前達に構っている時ではないからな。

 でも、仕事はちゃんとするように。


 【門の広間】と呼ばれるこの円形の広間には多数の転移魔法陣がある。

 広さは【魔王の間】以上である。

 広間の壁際には多数の魔法陣が並んでいる。

 どれがどこに繋がっているのか……全てを把握はして無い。


 ぱっと見回しただけでも、多数の種族がいて賑やかだ。

 急に現れた俺に気づいている者は少ない。


「あ、まおう様だー。まおう様ー」


 これから母親と市場へ向かうのだろうか、亜人の子供が俺を見つけた事を嬉しそうに声に出しながら手を振ってくる。

 母親が申し訳なさそうに子供の頭に手を置きながら会釈してくる。

 ぺたんと倒れている母親の頭の上の獣耳と違い、子供の方は耳が嬉しそうに動いている。


「おぅ」


 俺は軽く手を振って足早に去る事にする。

 今はあまり目立ちたくないのでそっとしておいてくれ。


 あまり仰々しくされるのを好まないので、魔王城内で会う度に敬礼やら挨拶やらの強要はしていない。

 無視は寂しいが会釈ぐらいで十分だ。

 仰々しくするのは式典や祭事の時だけでいい。


 他にも俺に気づいた者達から会釈を受けつつ広間を進んでいく。

 今は何より目的の魔法陣を探すのに意識が向いている。


 さて、ここで俺の前にある選択肢は大きく分けて4つ。


1.魔王や上級役職者の居住区画への魔法陣を使う


 仕事を終えた後、ほぼ眠るためだけに帰っている自室もこちらにある。

 しかしあくまで生活空間があるだけであり、外部への道ではない。

 荷造りや準備をしにいく事も考えたが……必要ないな。

 なのでこの選択は却下。


2.娯楽施設や商業施設が多く集まる区画への魔法陣を使う


 この先は各種族がそれぞれの居住地で生産した物や、狩猟の獲物等を売買する巨大な市場がある。

 他にも劇場やら、公園、闘技場といった大規模施設から、飲食店、酒場、夜の店等々幅広く取り揃えている。

 しかしこの先の区画の中に、外部への転移魔法陣は設置されていない。

 食い逃げや強盗行為等の犯罪対策だ。

 外への道ではないので、こちらの選択も却下。


3.各種族の居住地に繋がる多種の魔法陣を使う


 魔王城の中では部下として多数の種族が暮らしている。

 自給自足で暮らしている者達もいるし、物資の調達や警備、施設管理等の仕事の斡旋で内容に応じた給金を受け取って暮らす者もいる。

 それぞれの生き方に合わせた生活を選んでいるだろう。

 

 ここで無視できないのが、外へ繋がる転移魔法陣を居住区の中に設置する事を許可されている種族もいる事だ。

 問題は使用制限がかなり厳しく設定されているんだよなぁ。


 他の種族が使用できないようにする種族制限。

 1度に転移可能な人数の制限。

 使用する前に申請と登録を必要とする、等々……。

 はっきりいって正当な理由以外で使用しにくい。

 なのでこちらは外に繋がっているが今回は除外。


4.外部からの訪問者が来た時の魔法陣を使う


 そして最後はこの魔王城への客を歓迎するためのルート。

 友好的な招待をした客には安全なルートを用意する。

 だが招かれざる客には数々のおもてなしを堪能してもらう事ができる。


 様々なトラップ、種族ごとの特色を活かした防衛区画、入り組んだ迷路、厳しい自然環境を再現した場所等々、侵入者を飽きさせないルートだ。


 内容を吟味したり全体を通して把握する事無く、次々と許可を出して拡張を重ねてきたために、魔王城の全貌を知る者は恐らく誰もいない。

 使われた事がないからというのもあるけど……。


 だが、ここしかない。

 自らが選んだ道へ繋がる転移魔法陣の前に立ち、誰かに対してというわけではないが俺は宣言する。


「元より選択の余地無し! 俺の自由のためにここを抜けていってやる」

 

 自分に活をいれた事で久々に自分の体の隅から隅まで魔力が満ちるのを感じた。


 昂ぶっている、そう表現するのが一番近いか。

 前に抜け出そうとした時には、秘書に見つかってこの時点で止められたが……。

 今回それは無い……多分。


「どちらにしても――今の俺を止められないだろうがなっ」


 自然と笑みが浮かんでくるのが自分でもわかる

 昂ぶっている時の、俺の笑顔は物凄く邪悪らしい。

 

 さぁ、始まりの第一歩を刻むとしようか――


――――――



 かつて目の前の相手がどれだけ強かろうと、


 暴虐で知られた魔物が相手であろうと、

 

 自分達より圧倒的多数の相手に囲まれようと


 自分に敵対する者を「愚か」と嗤うように笑みを浮かべ、


 全てを屠ってきた【魔王】の姿がそこにあった。


「昔はあの背中が頼もしかったのだけど、書類仕事から逃げるために背中を見せられてもね」


 懐かしさを覚えながら、秘書を務める女魔族は転移する魔王の後姿を見送った。

 高く積まれた書類の山を両手で持ちながら……。


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