同行者二人
やっと俺を掴んでいた手を離してくれたと思ったら、先へ進み始めた俺の後をぴったりとついてくる姿が二つある。
「……お前達はどこまでついてくる気だ?」
俺の後ろには、先程のスタンとシアの兄妹がついてきていた。
「兄貴が弟子にしてくれて、俺が強くなれるまで!」
スタンは明るい笑顔で、俺に弟子入りを希望してくる。
その前に兄貴になったつもりはないからな。
「貴方の事をもっと知るまでです」
シアの方からは歩いている途中に背中への視線を痛いほど感じる。
時折振り向くと、視線を下に逸らす。
二人の同行者は俺から離れないつもりらしい。
そのうち飽きて帰ってくれるか、引き離す機会を待つしかないか……。
「そういや、お前達はさっき何が理由で戦ってたんだ?」
最初に二人を見た時に戦っていた事を思い出した。
本気の殺し合い、とは見えなかったが、完全に遊びとも思えない。
だが床の修理が必要な程激しい戦いをする理由が気になった。
「どっちが本当のオーガ一の戦士かを決める決闘をしてたんだよ」
「兄様が中々諦めてくださらないので……」
「諦めないのはシアの方だろー」
俺の後ろで二人の言い争いが始まった。
「二人ともそれなりに強かったが、オーガの中にはお前達より強いやつだっているだろう?」
いくら何でも子供二人が種族一の戦士候補ってのは考えにくい。
そう思って聞いてみたが、返ってきたのは意外な答えだった。
「いや、いないよ」
「いませんね」
「……え?」
スタンとシア両方共が即答した。
「じっちゃんとばっちゃんの世代は今でも強いけど、そのすぐ後の世代は戦わなくなった、って言ってたよ」
「ですね。兄様と私の両親も畑を耕して暮らしています。その世代は戦闘訓練自体ほとんど受けていません」
おいおい、侵入者がいなくて戦いが無いからって、弱体化し過ぎじゃないのか?
でもそれで暮らしていけるのが魔王城か……。
「お爺様とお婆様はそういうオーガの一族が弱くなるのを見かねて、兄様と私に戦い方を教えてくれました……みっちりと」
シアの遠くを見つめるような目を見ていると、厳しい訓練の日々だったんだろうなと感じられた。
「そんなんだから同年代だけじゃなく、大人でも俺達ほど戦えるやつはいないよ」
スタンは得意気に胸をはってそんな事を言う。
だが俺の方は話を聞いてるとオーガだけでなく、他の種族も弱体化していないか心配になってきた。
「だから俺はもっともっと強くなって、オーガの強さを魔王城内に轟かせるんだ!」
目を輝かせて俺に何か期待するような表情をしていた。
だから弟子に……か。
「私はお婆様のように強く、美しくなりたいです。それと、オーガの一族に強い血を……」
シアがまた俺に痛いほどの視線を向けてくる。
何だかその目から強い圧力を感じる。
さっき戦っていた時以上……じゃないか?
しかし二人ともそれぞれが自分達の種族の事を考えてるんだな。
いざ戦いになった時に、弱っていたんじゃ目もあてられない。
だから協力できる事はしてやりたいが……。
「兄貴、俺を弟子にしてくれよー。そうすればもっと強くなれる気がするんだっ」
スタンは俺の右手を引っ張りながら弟子入り要求をしてくる。
駄々をこねる子供かお前は!
「貴方の事をもっと教えてください。それと私の事もよく知って欲しいです」
シアは俺の左手に抱きつくようにまとわりついてくる。
小柄だがスタイルは抜群で、左腕にそこまで体を押し付けられると歩きにくい。
駄目だこの二人に関わり続けると、先に中々進めん。
やはりどこかで引き離さないと。
「二人に聞くが、この部屋から先に続く道や、転移魔法陣の位置はわかるか?」
まずはこの状態のままでもいい、先へ進むとしよう。
「知らないー」
そんな気はしていた。スタン……予想を裏切らないやつだ。
せめて、もう少し考えてくれ。
「私達の居住区に続く魔法陣も、先へ続く道もこの先の分岐からそれぞれ進んだ所にあります」
シアは流石だな。
「居住区に着いたらまずは両親に紹介と、お爺様、お婆様に挨拶をしてもらって、それから……」
俺の予定表にはそんな内容無いから!
そして歩いていくとシアが言っていた分岐が見えてきた。
「さて、先へ続く道はどっちだ?」
「えっと……あちら側ですね」
右の方へ向かう道を指差した。
「違っていた場合は帰るから……右側でいいんだな?」
「いえ、左側です。ちょっと勘違いしておりました」
おいおい……。
俺は同行者二人を引き連れて、この部屋からようやく先へ進む道の前まで辿り着いた。
「兄貴……この先に何があるんだ?……もしかしてここからは修行?」
スタンはぶれないしマイペースだった。




