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魔王城からは逃げられない  作者: 野良灰
2章 兄妹からは逃げられない
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同行者二人

 やっと俺を掴んでいた手を離してくれたと思ったら、先へ進み始めた俺の後をぴったりとついてくる姿が二つある。


「……お前達はどこまでついてくる気だ?」


 俺の後ろには、先程のスタンとシアの兄妹がついてきていた。


「兄貴が弟子にしてくれて、俺が強くなれるまで!」


 スタンは明るい笑顔で、俺に弟子入りを希望してくる。

 その前に兄貴になったつもりはないからな。



「貴方の事をもっと知るまでです」


 シアの方からは歩いている途中に背中への視線を痛いほど感じる。

 時折振り向くと、視線を下に逸らす。

  

 二人の同行者は俺から離れないつもりらしい。

 そのうち飽きて帰ってくれるか、引き離す機会を待つしかないか……。



「そういや、お前達はさっき何が理由で戦ってたんだ?」 

 

 最初に二人を見た時に戦っていた事を思い出した。

 本気の殺し合い、とは見えなかったが、完全に遊びとも思えない。

 だが床の修理が必要な程激しい戦いをする理由が気になった。


「どっちが本当のオーガ(いち)の戦士かを決める決闘をしてたんだよ」


「兄様が中々諦めてくださらないので……」


「諦めないのはシアの方だろー」


 俺の後ろで二人の言い争いが始まった。


「二人ともそれなりに強かったが、オーガの中にはお前達より強いやつだっているだろう?」


 いくら何でも子供二人が種族一の戦士候補ってのは考えにくい。 

 そう思って聞いてみたが、返ってきたのは意外な答えだった。


「いや、いないよ」


「いませんね」


「……え?」


 スタンとシア両方共が即答した。


「じっちゃんとばっちゃんの世代は今でも強いけど、そのすぐ後の世代は戦わなくなった、って言ってたよ」


「ですね。兄様と私の両親も畑を耕して暮らしています。その世代は戦闘訓練自体ほとんど受けていません」


 おいおい、侵入者がいなくて戦いが無いからって、弱体化し過ぎじゃないのか?

 でもそれで暮らしていけるのが魔王城か……。


「お爺様とお婆様はそういうオーガの一族が弱くなるのを見かねて、兄様と私に戦い方を教えてくれました……みっちりと」


 シアの遠くを見つめるような目を見ていると、厳しい訓練の日々だったんだろうなと感じられた。


「そんなんだから同年代だけじゃなく、大人でも俺達ほど戦えるやつはいないよ」


 スタンは得意気に胸をはってそんな事を言う。

 だが俺の方は話を聞いてるとオーガだけでなく、他の種族も弱体化していないか心配になってきた。

 

「だから俺はもっともっと強くなって、オーガの強さを魔王城内に轟かせるんだ!」


 目を輝かせて俺に何か期待するような表情をしていた。

 だから弟子に……か。


「私はお婆様のように強く、美しくなりたいです。それと、オーガの一族に強い血を……」


 シアがまた俺に痛いほどの視線を向けてくる。

 何だかその目から強い圧力を感じる。

 さっき戦っていた時以上……じゃないか?

 

 しかし二人ともそれぞれが自分達の種族の事を考えてるんだな。

 いざ戦いになった時に、弱っていたんじゃ目もあてられない。

 だから協力できる事はしてやりたいが……。


「兄貴、俺を弟子にしてくれよー。そうすればもっと強くなれる気がするんだっ」


 スタンは俺の右手を引っ張りながら弟子入り要求をしてくる。

 駄々をこねる子供かお前は!


「貴方の事をもっと教えてください。それと私の事もよく知って欲しいです」


 シアは俺の左手に抱きつくようにまとわりついてくる。

 小柄だがスタイルは抜群で、左腕にそこまで体を押し付けられると歩きにくい。

 駄目だこの二人に関わり続けると、先に中々進めん。 

 やはりどこかで引き離さないと。



「二人に聞くが、この部屋から先に続く道や、転移魔法陣の位置はわかるか?」


 まずはこの状態のままでもいい、先へ進むとしよう。


「知らないー」


 そんな気はしていた。スタン……予想を裏切らないやつだ。  

 せめて、もう少し考えてくれ。


「私達の居住区に続く魔法陣も、先へ続く道もこの先の分岐からそれぞれ進んだ所にあります」


 シアは流石だな。 

 

「居住区に着いたらまずは両親に紹介と、お爺様、お婆様に挨拶をしてもらって、それから……」


 俺の予定表にはそんな内容無いから!

 そして歩いていくとシアが言っていた分岐が見えてきた。 

 

「さて、先へ続く道はどっちだ?」


「えっと……あちら側ですね」


 右の方へ向かう道を指差した。


「違っていた場合は帰るから……右側でいいんだな?」


「いえ、左側です。ちょっと勘違いしておりました」


 おいおい……。

 俺は同行者二人を引き連れて、この部屋からようやく先へ進む道の前まで辿り着いた。


「兄貴……この先に何があるんだ?……もしかしてここからは修行?」

 

 スタンはぶれないしマイペースだった。

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