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魔王城からは逃げられない  作者: 野良灰
1章 生まれからは逃げられない
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囚われないということ

「残念だったな」

 

 結果は……売上額は最下位。投票数は八票だった。 

 これだけ見れば残念だったといえるだろう。


 今回の品評会で『魔王が薦める商品』として認定された商品の多くは元々市場でも有名だったり、大きな店が売りたいと考えている商品に集中していた。

 見た事がある、聞いた事があるという商品や、大きな店が宣伝に注力した商品が記憶に残るからな。

 後は少ない品数だけど、良品を取り扱ってる店舗の商品が選ばれていたかな。

 

 ちなみにナーヴの店は……「どれもおすすめです!」という売り方で、最終的に印象がぼやけたんだろう。

 一品も選ばれていなかった……残念だったね。同情はしないがな!


 

「でも……楽しかったです。自分が作った物を買ってくれたり、褒めてくれると……何だかここがほかほかしました」

 

 両手を胸にあてながら、照れたような笑顔をこちらに向けていた。

 今までにない嬉しさや楽しみを見つけられたかな。

 

「まおう様…………ありがとうございましたっ」


「うむ…………と言いつつも何へのお礼かわからないんだがな」


「えっと……ぜんぶですっ」


 最初に会った時よりも少し明るくなったか?

 強引に参加させて、接客させたりもした甲斐があったんだな。


「またやってみたいか?」


「そう……ですね。今度参加する時までには、もっと上手に……それに他にも色々作れるように練習しておきます!」


 おぉ、前向きに燃えているな。その向上心があれば、もっともっと上手くなれるさ。

 だけどネーファは一つ勘違いしてる所がある。


「じゃあ……これに記入して提出するように。どう書いたらいいかわからない所があればヒナに聞くといい」


 ネーファの返事を聞いてすぐに俺は一枚の申請用紙を手渡した。


「なんですかこれ?」


「市場の店舗開設許可申請書。2~3日中に出すように。魔王命令ね」


「え?……わ、わたしが市場にお店だすんですか!?」


 エサをねだる魚のように口をぱくぱくさせながら驚いていた。    

 

「接客も含めて色々と練習しとかないとな。次回はもっと頑張って勝ちにいくのだろう? そのためにしっかりな!」


「え?…………えぇー!」


 俺はそれからも有無を言わさぬ笑顔で説得したのだった。


――――――


 そして数日後の事だ。俺はいつものように書類仕事に追われていた。


「魔王様、本日締め切りの書類の確認はお済みですか?」


「いえ……まだもう少し残ってます……」


 今日も俺の仕事量は減ってない。むしろこの前の品評会に関する処理が増えて忙しい。

 認定商品の確認や、推薦文の確認、店頭等での提示許可……。

 他にも使用した経費と支払いに関するもの等々……。

 あぁ……この状況から抜け出したい!


「では申し訳ございませんが、こちらもお願いします」


「まだ増えるのか!」

 

 これ以上追加とか本当に許してください!

 仕事削減の嘆願の方法を、必死に考えていた俺に渡されたのは、小さいながらも丁寧な字で書かれた一枚の申請書だった。


「ん?…………あぁ……許可っと」

 

 申請者名と申請内容を見て、すぐに許可の印を押した。


「はい、ありがとうございます。他のもこの調子で迅速な処理をお願いします」


「善処する」


「それで……魔王様はなぜあの子のために、品評会を開催したり、手伝いをなされたのですか?」

  

 そういえばヒナにまだ説明してなかったか。

   

「まさか……魔王様のお好みは、あぁいう……何というか……色々とちいさい子なのですか?」


「違うから!」

 

 誰かに聞かれたら危うく何かわからない誤解を生む発言はよして欲しい。


「ネーファのドヴェルクの居住地での様子を見てたら、あそこじゃ彼女の居場所が今までも、そしてこれからも無いような気がしたんだよ」


「他のドヴェルグとは容姿が大きく異なっていましたね。そのせいですか?」


「それもあるだろうな。でも俺としては何よりネーファ自身があの状況を受け入れていたのが嫌だった」

 

 そう……今回の俺のお節介は、見ていて嫌だったというこの気持ちが原因なんだろうな。


「だから魔王城(ココ)に居場所が無いなんて事はない、そんな狭い場所じゃないって無理やりにでも教えたくなった」


「それではただの、自己満足のため……なのでは?」


「かもな」


 椅子から立ち上がり、ヒナに向かって短くそう答えた。自分でもその類のものだと思う。

 けど、俺の所にいる奴らに「居場所がない」とか思って欲しくないし、そう見える状況を俺自身が見たくない。

  

「折角こんなに広い所に住んでるんだ。望んでないのに同じ場所にいる事に囚われていたってつまらないだろうしな……ヒナだってそう思うだろ?」


 ヒナの肩に手を置き、じっとその目を見つめた。


「そう……ですね。別の場所に楽しい事があるかもしれませんし」


「そういう事だ……」


 ヒナの答えに微かに微笑みながら、俺は扉の方へ歩き出した。

 ゆっくりと……速すぎてはいけない……そっと、自然に――


「それで……どこへ行かれるつもりですか魔王様?」


「いや……同じ場所に囚われていたって……つまらない……だろう?」


「…………」


 無言で笑みを浮かべるヒナが背後にいつの間にか立っていた。

 俺の背後をとるとは……流石だなと思っていたら今度は俺の肩に手が置かれた。

 肩から伝わる正体不明の圧力のせいでなぜか動くことができない。

 

 ……そして俺はその日説教をたっぷりと受けた後、睡眠時間を削って書類と向き合う事になる。


 

 ――この日の後、市場に小さな店が新しく開店した。

 その店には一つの噂があった。

 いつも開いてるとは限らない、しかも魔王が推薦する商品に認定された物があるわけでもない、

 でも、なぜか『魔王が良く来るお店』だと。

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